03
梟亭を拠点に、依頼をこなす事数日間。
僅か10歳にして魔獣の討伐をメインに受けているせいか、実力主義のソルジャー達からは少し敬遠されているかのような態度を取られる。
まぁ、特に実害は無いのでまだ問題視はしていないけどね。
そして、そんな活動をしていたからか、ソルジャーのランクという物が5に到達したらしい。数日で、しかも僅か10歳でのランク5到達は異例中の異例なんだとか。
「それでは説明をさせていただきます」
ソルジャーのランク5になると、神殿にて『ギフト』を授かる事が出来るそうだ。もちろん、炎に関する『ギフト』なんだが、個々によって授かる『ギフト』は異なる。つまり、『ギフト』は千差万別であり、他の誰かと被る事は100%無いんだとか。
「授かる『ギフト』は、その個人が秘めている能力によって異なる唯一無二の力です。『ギフト』によって戦闘スタイルを変える冒険者も少なくないですね」
ふむ。授かった『ギフト』が戦闘スタイルまで変えてしまうとは、『ギフト』には余程の力が秘められているのかな?
でもなぁ、科学と魔法をミックス出来た今、僕のハイブリッドな魔法をメインに戦うスタイルは、そう簡単には変えられないと思うんだけど……
「……では、こちらの『輝石』を持って神殿に向かって下さいね」
『輝石』とは、地球でいうところのヒヒイロカネ?ミスリル?まぁ希少価値が高く、ファンタジーらしく魔法との相性もバツグンな鉱石である。
「『輝石』が『ギフト』に関係するんですか?」
「本来、『ギフト』を授かるという事は、個人の能力に合った力が目覚めるという事なのですが、要は人間としての限界を引き出す事と同じです。その力のコントロールに『輝石』が必要となります」
……人間としての限界を引き出す。中々危ない発言だな。
しかし、朱に交わればとも言うし、高みへと踏み出せるのなら文句は無いな。意を決して『ギフト』を授かるために神殿へと向かった。
『ジーク』の街も、何処に何があるのか覚えてきた。贔屓にしている店はまだまだ数店舗なので、自分の庭とまでは言わないが。
子ども達の遊ぶ声を聞きながら街の端にある神殿に到着すると、ギルドの職員から聞いた『ギフト』の話を神官に告げる。すると、一般開放されている礼拝堂の裏口に案内された。
「こちらは『焔の部屋』と言います。授かった『ギフト』の力が暴走しても大丈夫なように、炎を吸収する鉱石で作られた部屋です」
「力の暴走、ですか……?」
「結構いますよ?最初は自分で自分の力を制御出来ない方が」
「そ、そうですか……」
自分の力をコントロール出来ないとは……思っていたよりも『ギフト』とは強力なようだな。
「それでは、始めましょう」
バタンと扉を閉じ、神官は部屋を出て行った。これから何が始まるかは分からないが、せめて暴走はしないようにコントロールしてみせよう。
中央の椅子に座り、暫く待っていると、不意にドクンッと心臓が高鳴った。何だ?
「……熱っ!」
思わず握っていた『輝石』を手放した。床をコロコロと転がる『輝石』は、真っ赤に発光しており、かなりの熱量を持っているのが分かる。
「えぇぇ……」
こんな状態の『輝石』が僕に秘められた力をコントロールするの?真っ赤になる程熱を発していて、出来れば触りたくないんですけど?
それでも『輝石』は『ギフト』をコントロールしてくれるのだ。炎を手に灯して防御策を取ると、覚悟を決めて『輝石』に手を伸ばす。
「ぐっ……」
現時点でも発現出来る炎の熱量には自信があったが、それでも熱さを感じるとは、これはかなりの熱量だな。
しかし、『輝石』が熱を放っていたのも数分の出来事で、次第に手の中で冷たくなっていく。
その反対に、『輝石』が持っていた熱量は、俺の体に転位したようだ。体が燃えるように熱い。頭の中にまでその熱が届こうとした時、まるでタトゥーのような紋様が体中に浮かび上がった。
チクチクと痛みはするが、このタトゥーには何の意味があるのだろうか?試しに炎を指先に灯してみるが、何の変化も無い、いつもの炎だ。
「終わりましたか?」
「うぉっ!」
神官さんがいきなり声をかけてきたので驚いた。いつの間に部屋に入ってきたんだ?
「……見たところ、無事に『ギフト』は授かったようですね」
そりゃ、いきなりタトゥーのような紋様が体中にあったらそう判断しますよねー。
それに、多分それで正解だから否定は出来ないけどもさ。
「無事に『ギフト』を授かり、暴走もしない。前途有望ですね……ですが、貴方はまだ若い。若すぎます。成長が早いのは良い事かも知れませんが、全力で走ると転んだ時の怪我も大きくなります。無茶はしないで下さいね」
ギルドの受付嬢からも何度も何度も言われたんだけど、僕ってそんなに生き急いでいるように見えるのかな?依頼は結構マイペースにこなしているつもりなんだけど……
―――――
何はともあれ、『ギフト』は授かった。タトゥーのチクチクした痛みも静まってきた。早速『ギフト』の能力を検証してみたいんだが……
「……丁度良いのが無いな」
もちろん狙いは魔獣の討伐だ。だが、この数日で、近隣にいたある程度の強さをもつ魔獣は狩りまくった。残っているのはザコばっかりなんだが……
「ディーノ君!良いところに!」
掲示板を眺めていた僕に、受付嬢が声をかけてきた。
「何かありましたか?」
「『オーク』の群れが目撃されたのよ!」
『オーク』とは、まぁ簡単に言えばゴブリンの上位種みたいなもんだ。ただその図体と膂力、操る魔素はゴブリンの数倍以上だが。
「『ファイター』だけじゃなくて、『メイジ』も目撃したそうなのよ!」
『ファイター』は近接攻撃オンリーの魔獣の総称で、『メイジ』は逆に魔法オンリーの魔獣の総称だ。魔素なんてものを扱う分、『メイジ』の方が厄介なんだよね。
「今は腕利きのソルジャーも依頼で街を離れているし……他のソルジャーでは力量が……」
「ん、僕1人で良いですよ」
「……え?」
「『オーク』なら何匹だろうが大丈夫です。方向は?」
「東の砦に……って、本気なの!?」
「皆には王都の防衛をお願いします……じゃ!」
気楽な対応と思われただろうが油断や慢心はしていない。まだまだ頭に殻をかぶったヒヨコでも、ソルジャーはソルジャーなんだ。死と隣り合わせなのは承知の上。
だが、今はまだ死ねない。それだけだ。
―――――
「おーおー、よくもこんなに集まって……」
2時間程かけて、東の砦に到着した時点で、眼下には50を超える『オーク』が集まっていた。普通の人間の数倍の巨体が集まり蠢く姿は、さぞかし脅威に見えるだろう。
でも、1ヶ所に集まっているのなら幸いなんだよね。
魔力を集めて一気に放つ。『オーク』を相手にするには、ちょっとオーバーキルだとも思ったが、『ギフト』は戦闘スタイルを変える、とまで言われたんだ。何らかの効果は現れるだろう。
いつものように魔素を集める。まだ全力ではないが、青く燃える炎が現れ、激しく燃え盛り飲み込んだ全てのものを灰燼と化す……何も知らずに見たら、軽い地獄絵図だな。
炎の障壁を発現させたヤツもいたが、絶対的に熱量が違ったのだろう。ほんの数秒で1匹残らず燃やし尽くす事が出来た。
「討伐完了……で、良いんだよな?」
『ギフト』の詳細は欠片も分からなかったが、一応務めは完了したわけだし、魔石を回収しながら討ち漏らしが無い事を確認する。
全ての作業が完了し、帰路につこうと思った時、王都の方角から急接近してくる強い魔力に気付いた。
何だ?新手の魔獣か?
燃えたぎる流星のように赤く燃えた塊が、御丁寧に僕の目の前に落ちる。炎が消えると、眼帯をした1人の赤髪の男がそこにいた。
「ほぅ……噂には聞いていたが、10歳の坊主が『オーク』の集団を潰したか……」
鋭い眼光で俺を見つめてくる男性。もしかして、ギルドが送り出した援軍、とかだったのかな?
「……坊主、名は?」
「……ディーノ・ベルセルクです」
「ディーノ……覚えておこう」
男性は、それだけ呟くと再び流星のように体を真っ赤に燃やし、王都の方角へと飛んでいった。
「……何だったんだ?」
疑問の残る出会いだったが、王都に戻り、『オーク』の殲滅を告げた時にその男性の事を聞かされた。
ジーク王国最強のソルジャー、『ユアン・オルティス』の存在を。
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