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02

「いらっしゃいませ」



 魔法の鍛錬だけじゃなく、科学的な研究もする事5年。

 10歳になった僕は、ギルドに加入しソルジャーになるために『ジーク王国』の王都、『ジークルーネ』まで出向いていた。ウチの村、『フレア村』は王都に近いため、ギルドの出張所が無いのだ。


 それでも馬車で1日かかったんだけどね。


 とりあえず、目的を先に済ませ、今日はゆっくりと宿に泊まりたい。



「えっと、ギルドへ加入したいんですけど……」

「かしこまりました。それではこの用紙に目を通し、問題が無ければ署名をお願いします」



 差し出された用紙には、ギルドに所属するにあたっての注意点がいくつか記されていた。

 要するに、テンプレな『規則(ルール)』ってやつだ。身の保証は~とか、ソルジャー同士の争いは~とかね。


 事前に父さんから聞かされていたので、何の迷いも無く署名する。



「……ちゃんと読みましたか?」

「特に問題を起こす気は無いです」

「……分かりました。それでは、こちらの水晶に触れて下さい」



 多少は訝しんだ受付嬢も、仕事は仕事と割り切ったのだろう。次の手続きにうつる。

 何でも、水晶に触れれば魔獣の討伐記録や犯罪歴等が表示され、如何に実力主義の冒険者でも犯罪者は登録出来ないんだそうだ。


 それに、水晶と言っても黒い水晶で中は見えない……が、数秒間触れていると、ピッと音が鳴り、僕が行う手続きは終了した。



「それではライセンスの発行まで、少々お待ち下さい」

「ん。分かりました」



 さて、王都のギルドにはどのような依頼があるのだろうか?少しだけ掲示板を見てこようかな。



―――――


「リィナ、刻印お願い」

「分かった……それで?今回はどんな子なの?」

「ちょっと変わった子、かな?周りに怖じ気づく事も、見栄を張る事も無いし……まるで10歳には見えないわ」

「それってどんな子なのよ……」



 ギルドのカウンター内でそんな扱いをされている事など知らないディーノは、キョロキョロと掲示板を眺めている。



「……ん?既に魔獣の討伐経験があるんだ」

「へぇ~、10歳で経験者か……親がソルジャーとかなのかな?」



 まさか、魔獣討伐の最初が竜種だと知らない2人は、ほんの少しだけディーノの評価を上方修正した。



「何だと!僕を馬鹿にするのかっ!」

「ん?……あちゃー」



 騒ぎ声に視線を向けると、今まさに評価を上方修正したばかりのディーノが、厄介な人物に絡まれていた。



「まさか、『ドリー』に絡まれるとは……」



―――――


「んっ、しょ」



 ジャンプをして、掲示板の上の方に貼られていた依頼書を剥がした。手始めに受けるにしても、雑魚の魔獣では張り合いが無い。それなりに手応えのある魔獣を吟味した結果、『ガルム』という炎のブレスを吐く狼の討伐依頼を受ける事にしたのだ。『ガルム』なら狩りで倒した事もあるし、大丈夫だろう。



「あとはこれを受け付けてもらえば……」



 その瞬間、横から伸びてきた手に依頼書が奪われる。



「……ふんっ、君のような雑魚が魔獣を相手にするなんて100年早い!」



 依頼書を奪ったのは、ジャラジャラといくつものアクセサリーを身に付けた、『ボンボンの悪ガキ』、その理想像のようなやつだった。



「魔獣を狩るのは、僕のように力のある冒険者の仕事だ。君は身の丈に合った、薬草集めでもしてろ」

「……いやいや、実力が合っていないのは君でしょ。魔道具を使って上昇させた力が、本当の実力、なんて言えるの?」



 率直に思った事を述べただけだが、それがクリーンヒットしたようだ。



「何だと!僕を馬鹿にするのかっ!」



 周りの冒険者は、笑いを堪えている。でも、細かな魔力まで感知出来るようになった僕の目には、魔道具の強さだけが評価出来る、まさにいきがった弱者に見えるんだが……



「ふーっ!ふーっ!」



 怒髪衝天、とまではいかないが、顔を真っ赤に染めて怒りを露わにしている……誰だっけ?



「……あぁ、ごめん。君、誰?」

「なっ!!」



 ついに堪えきれなくなったようで、周りの冒険者達も笑い声をあげた。



「『ドリー・ノートン』!僕の父は、あの『ケビン・ノートン』だぞ!」

「……いや、知らないから」



 またもやドッと笑い声があがる。



「~~っ!決闘だ!貴様に僕の強さを叩き込んでやる!」

「はいはい」



 確か、正式な決闘ならギルドでも認めていたはずだ。勝敗の条件にもよるんだろうが、まぁ最悪殺さずに鎮圧すりゃ良いか。



「お待たせしました!ディーノさん!」



 止めるかのような素振りと共に、ライセンスを持ってきてくれた受付嬢だったが、僕がライセンスを発行したばかりのヒヨコだと知った『ドリー』君は、少しばかりの余裕を見せた。



「どうする?決闘を受けるかい、新人君?」

「あぁ、良いよ?本当の実力ってものを教えてあげる」

「っ!」



 またもや顔を真っ赤に染めて怒りを露わにする『ドリー』君。血圧が心配だな。



 場所をギルドの裏にある闘技場に変え、一定の距離を取ったところで、『ドリー』君は勝敗の条件を提示した。



「無事に生きて帰れると思うなよ!」

「はいはい」



 ギルドの受付嬢を立会人として、他のソルジャーが観客に回り、『ドリー』君との決闘が始まった。


 ボッ!といくつもの火球が現れる。それは『ドリー』君が魔道具で魔力を『増加』させ、『発現』させ、『分裂』させただけの火の玉だ。まぁ、熱量はそれなりにあるようだが……まだまだだね。



「燃え尽きろ!」



 おいおい、冒険者になったばかりのヒヨコ相手に殺す気満々じゃないか。

 360度、全方位から迫ってくる火球に、僕が取った策は単に全方位を包む火柱の壁のみである。

 だが、『ドリー』君は魔道具まで使っておきながら、僕が発現させた火柱を超える熱量の火球を発現させる事は出来なかったようで、僕の炎の防御力に唖然としていた。



「……こんなもん?」

「うるさい……うるさいうるさいうるさいっ!」



 魔道具に込める魔力がどんどん高まる。魔道具によって『増加』させた魔力まで腕輪に集中させた。



「うわっ!あのバカ、ここで放つ気かよっ!」



 観客に回っていたソルジャー達は、一斉に炎を纏い防御を始める。



「焔の吐息!」



 ゴォォォッ!!と、魔道具にヒビが入る程の熱量を生み出した『ドリー』君だったが、僕も軽く本気を出した。



「範囲指定、方向転換……『全反撃(フルカウンター)』」



 『ドリー』君の放った魔法が、数倍になって跳ね返る。


 『全反撃(フルカウンター)』は、魔法というよりは魔素を操作しただけの技だ。魔法の源である魔素の操作が出来れば、あとは理解力にもよるが、誰にでも使える、絶対に攻撃を食らわないという、軽く反則的(チート)な技である。


 『全反撃(フルカウンター)』は遊びのつもりで作り上げた技なんだが……これが思っていた以上に役に立つからビックリだ。まぁ魔法を修得してからこの5年、僕は僕なりに魔法について研究してきたのだ。『全反撃(フルカウンター)』なんてまだまだ序の口である。


 相手の全力を潰せば、戦意喪失すると思ったんだが……全力の全力だったのだろう。『ドリー』君は『全反撃(フルカウンター)』を見る前に魔素の使いすぎで気絶していた。



「方向変換、上昇、消滅っと」



 クイクイッと指先で操作をしながら、魔法を掻き消す。その光景を見ていた他のソルジャー達は、声を失っていた。

 まぁ良い見せしめにはなったようだな。



「これで僕の勝ち、ですよね?」

「……へ?あ、はい!勝者、ディーノ・ベルセルク!」



 シンと静まり返る闘技場。ちょっとやり過ぎた、か?

 視線を観客に向けると、全員がビクッと反応した。



「僕の邪魔はしないでね?」



 コクコクと頷く一同。うん、よろしい。



「……じゃあ、この依頼を受けます」

「え?……えぇ!?」



 2段階の驚き方を見せた受付嬢だったが、『ガルム』の討伐はまだ早かったのかな?



―――――


「こんなもん、かな」



 依頼にあった『ガルム』の規定数を討伐し、魔石を回収した後、死体は放置。魔物になった生物の肉は、野生の動物でも食う事は無いらしいので、大人しく朽ちて自然に返りなさい。



「……?」



 街へと戻る道の途中で、不自然な魔素の集まりを感知した。数は……10匹ほど。この感覚は……ゴブリン、か。


 1匹1匹の力は弱いが、繁殖力が高く集団で獲物を狩るゴブリンは、数が少ない内に掃討。それが基本である。


 少しばかり寄り道ではあるが、魔石を余分に回収出来れば、宿屋もちゃんとした店を選べるかもしれない。そういう考えが頭をよぎった瞬間に、ゴブリン討伐は決定事項となった。



「ん。やっぱりゴブリンか」



 巣穴らしき場所を見つけ出し、門番のゴブリンを見付けた瞬間に焼却する。数は大した事無いし、一気に殲滅しても構わないだろう。巣穴の中に入っていくと、ボロボロの武器を手にしたゴブリン達が、野生の勘をフル稼働させていたのか戦闘態勢で待ち構えていた。


 ……でも、魔法使い相手に接近戦は不利だって分からないのかな?分からないんだろうなぁ……所詮は知能の低い魔獣だし。


 いちいち魔法を発動させるのも面倒なので、青い炎を弾丸のように発射する。1匹目を軽々と貫通した青い弾丸が数匹をまとめて葬り去る。時間的には数十秒の出来事だが、これでそれなりの臨時収入になるんだから儲けもんだ。


 撃ち漏らしが無いか、巣穴の最深部まで到達し、殲滅完了を確認し、魔石を回収するとさっさと街に戻った。


 ソルジャー生活の初日なんだから、これ以上目立つような事は避けたい。まぁ、父さんの影響もあり、僕が今目指しているのは、先ずはこの国で1番のソルジャーなんだが、まだまだ10歳だからね。自重はしますよ?


 ……『ドリー』君の1件?

 HAHAHA、路傍の石ころに気兼ねなんてしないさ。



「はい。では、『ガルム』とゴブリンの討伐報酬になります」



 報酬合計は40万4000ジニー。貨幣価値は1ジニーが1円ぐらいだから、1ヶ月の生活費くらいにはなる。


 ……普通に働けば、ソルジャーってボロ儲けな仕事なのか?


 ギルドで教えてもらった初心者向けの宿屋、『梟亭(ふくろうてい)』。そこを宿に決めると、とりあえず10日分の宿泊費を先払い。

 運悪く仕事中に息絶えてしまった人に請求は出来ないからね。



「……1人、か」



 部屋に入り、ベッドに横たわると、嫌でも1人を実感する。

 村では全員が家族のようだったし、窓の外では子ども達の遊び声や商売の声が聞こえていた。それに、同じ屋根の下に父さんがいた。


 それが、今は、無い。


 ……センチメンタルに浸る前に、飯を済ませよう。


 階下の食堂に出ると、僕と同じような新米ソルジャー達が食事をしていた。既にパーティーを組んでいる面子もいるようだ。



「おい、あれ……」

「うん。確か、『ドリー』を……」



 ……うわぁ。何か変な噂が流れてそうだ。好奇の視線が刺さる感覚なんて、初めて感じたよ。


 全部『ドリー』のせいだよな。今度何か仕掛けてきたら、今日より酷い目に合わせよう。


 そう決意しながらテーブルに着くと、メニューは固定なのかすぐに料理が運ばれてきた。

 新米ソルジャー向けの宿ではあるが、ちゃんと稼いでいるソルジャーが宿泊する宿なだけあって、食べ放題のフカフカなパンと肉厚なステーキにコーンスープ。


 これは……アレだな。ハンバーガー作れって事だ。


 パンを開いてステーキを挟み齧り付く。

 すると、ナイフやフォークを使っていた他の面々は呆気に取られていた。ヤバい、マナーとか教わってないぞ?



「兄ちゃん、面白い食い方するな」



 厨房でステーキを焼いていた、ちょい強面な『梟亭(ふくろうてい)』の主人が声をかけてきた。



「……んんっ、マナー違反、でしたか?」

「こんな宿でマナーなんぞ求めちゃいねぇよ。それより……その食い方、教えてくれないか?」

「は、はぁ……」



 パンに挟むステーキ肉は、分厚い1枚肉よりもミンチを捏ねて成型した方が良いとか、ステーキ肉だけじゃなくシャキッとした葉野菜もあれば食感が楽しめるとか……異世界に来て10年目。ソルジャーとして成り上がる前に、ハンバーガーをレクチャーするとは夢にも思っていなかった。



―――――


 ……風呂上りに宿の店先がやけに賑わっているなぁと思って顔を出してみると、『梟亭(ふくろうてい)印のはんばーがー』と書いた看板を立て、小腹の空いた人々の夜食にハンバーガーを売りまくる主人の商魂の逞しさには脱帽した。

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