01
見切り発車です。
まだまだ設定が定まっていません。
お目汚しでしょうが、暇潰しにはなるか、と……
ちょっと待て。これって想像以上にチョロ過ぎないか?
初めてこの世界『インフェルノ』で魔法を発現させた時の感想がそれだった。
僕の名は『ディーノ』。
あ、勿論この世界にて生を受けて、血の繋がった両親からもらった、ペンネームでもラジオネームでも、(仮)でもなく本名です。
『この世界』なんて言い方をすれば、勘の良い人なら分かってしまうだろう。
僕は前世での記憶を残したまま、『インフェルノ』にて生を受けてしまった、ネット上だと何処にでもいそうな、ありふれた転生者である。
しかも都合の良い事に、覚えているのは一般的な常識や知識のみ。前世での名前や死亡理由なんかは一切覚えちゃいない。
……本当に、『御都合主義に満ちた存在』がこの僕である。
そして、『インフェルノ』では5歳の誕生日を迎えると初めて魔法に関する教育が行われる。
『インフェルノ』における魔法の力は絶大で、威力に差異はあれど、魔法が使えない人はいない。
そんな世界に生まれたんですよ?あの、妄想の産物でしかない、魔法が使えるんですよ!?男なら、誰しも最強を夢見るもんでしょ!!
「……うん、そんな感じじゃな」
僕が発現させた炎を眺めながら褒め称えているのが、村長のダンテ爺さんである。
ウチの村は王都に程近い場所に存在し、また、行商の人達の補給地としても機能しているため、人口こそ少ないものの、それなりに裕福な暮らしをしている。
「良いか、ディーノ?この世は炎が全てじゃ。炎の温度、発現できる大きさ……それが高く大きいほど有能な証じゃ」
「……炎なら水で消す事はできないのですか?」
「水、か……通説では『インフェルノ』という世界は炎に包まれた世界だとされておる。まぁこの世界の果てを知っている人間なんぞおらんから、その真実は誰も知らんがな……しかし、それを裏付けるかのように魔法で発現させた炎は水では消せぬ。魔力が尽きない限りは、な?」
要約するなら3点。
1、魔法と言えば炎。
2、火力が強ければ強いほど有能な証拠。
3、相手の炎は自分の炎で飲み込み、押し返せ。
どうやらそういう事のようです。
……魔法なんてファンタジーな力があるのに、力押しとは意外と原始的な戦い方である。
「……しかし、ディーノの炎は初めて発現させるような熱量では無い気が……」
「そう?気のせいじゃない?」
実のところ、ダンテ爺さんに魔法を教えてもらうよりも前から『インフェルノ』という世界の特有な力には気付いていたんだよね。
何て言うか、風呂で冷水に浸かっていても、まるで焚き火にあたっているかのようなピリピリとした感覚?言葉で説明するとそんな感じで、かなりややこしいとは分かっちゃいるけど、そうとしか説明できないんだよね。
多分、それがダンテ爺さんの言う魔法を発現させる源、『魔素』ってやつなんだろう。それが『インフェルノ』では過剰に存在し、『魔素』を操れば魔法となる。
そう結論付けて、僕は何とか現実を受け入れた。
「……まぁディーノもこれで半人前ぐらいじゃ。早う力をつけて、1人前になるんじゃな」
ダンテ爺さんは、豊かな白髭を撫でながらのほほんと告げる。
だが、この日、この時。
『僕』という存在が炎の魔法を修得した事は、歴史の転換期に突入する狼煙であっただろう。
―――――
「『魔素』の存在は感じ取れる。そしてその『魔素』を意識して操作し、魔法として発現させる事もできた……何故この世界では炎の魔法しか顕現しないのかは分からないが、まぁそれがこの世界での常識なんだし、受け入れるしかないか」
初めて魔法を発現させた、誕生日の夜。風呂も終えて寝室のベッドの中で思考を働かせる。
炎の魔法が主流で、炎の魔法しか発現しない世界。
魔法のある世界に転生だなんて、かなりテンプレ気味だが、炎魔法のみの制限とは少し不便さを感じてしまう。
本音を言うと、やっぱり多種多様な魔法を使ってみたかったな。
でも、属性が1種類のみなら、極めるのも簡単かも知れない。前世の、地球での科学的な知識でもって、この世界の炎魔法の新たな1ページを開いてやろう。
「……先ずは、父さんの狩りに同行させてもらって、平均的な強さを知りたいな」
僕の父さんは村1番の魔法の使い手だという。元『戦士』なんて肩書きも持っており、そんな父さんの強さを目にすれば、目標となる強さも推し量れるだろう。
やりたい事、試したい事が次から次に頭に浮かぶ。
……いかんな。どうやら厨ニ病を発症してしまったようだ。
――――
「どうだ、ディーノ?」
「勉強になります……すごく……」
僕の父さん、『マーカス』は自慢気に炎を使って獣を狩ってみせてくれた。
炎の強さは想像を超えるものではなかったが、魔法で生み出した炎の『燃焼』については非常に勉強になった。
例えば怪我の治療。
欠損した部位等の修復は無理だが、『傷を燃やして消す』なんて治療方法は、全く概念に無かった。
炎の魔法がこの世界の理なのだ。狩りをするなら獣を燃やしてしまう事が当たり前。だが、燃えた獣の傷を『燃焼させて消す』だなんて……これは思っていた以上に炎の魔法というものは利便性があるようだ。
「……ん、次はフレイムラビットかな……ディーノ、試してみるか?」
「良いんですか?」
「実践に勝る経験は無いからな」
父さんの許可もいただいたので、自分の炎の力を試してみる。
ちなみに、獲物を感知するのも対象となる存在がまとう『魔素』を感知して探るんだそうだ。『探査』と名付ければ良いのかは分からないが、経験を積めば感知した『魔素』の量や特徴でどんな獲物かも分かるんだとか……
森の中を進んでいくと、確かにフレイムラビットはいた。その数、3匹。
3匹まとめて炎で包み込む事は可能だが、今回は初めての実践経験なのだ。試してみたい事は遠慮無く試さなければ。
「……燃えろ」
『魔素』の操作と、発現させたい魔法の具体的なイメージがあれば呪文の詠唱なんて必要無いのだが、まだ慣れていないんでトリガーだけを言葉として発する。
すると、ボッ!と3つの火柱があがり、フレイムラビットが僕の生み出した炎に包まれて焼け死ぬ。ここまでは想定の範囲内だ。問題はここからだ。
父さんの狩りを見るまでは、傷を燃やして消す、という概念は無かった。だが、実際に目の前で見たのだ。間違えなければ出来るはず。
傷と言っても、魔法でつけた傷なら総じて火傷である。そんな火傷を消し去るようなイメージを思い浮かべながら、死に絶えたフレイムラビットを炎で包む。
時間にして数秒。炎を消した時には、火傷が綺麗に消えたフレイムラビットが3匹転がっていた。
「……デ、ディーノ?」
「はい、何ですか?」
「狩りは、初めて、だよな?」
「はい。魔法を教えてもらったのが昨日ですから」
「そ、そうだよな……」
何故か困惑気味の父さんは、何かをブツブツと呟いている。ちょっと小声過ぎて聞き取れないんだけどね。
フレイムラビットを解体し、『魔石』を取り出す。炎の魔力の原石でもある『魔石』は、単純に売れば収入になるそうだ。
「おーぅ、『ベルセルク』!成果はどうだ?」
少し離れた場所から声が聞こえる。父さんの相棒、『フレッド』さんだ。そいでもって『ベルセルク』はウチの家名である。
ちなみに、ウチの村で狩りをして生計を立てているのは父さんと『フレッド』さんの2人だけ。他の皆は村を訪れる人々を相手に商売をしている。
「こっちは上々だ。そっちはどうだ?」
「まずまず、かな。イーターが5匹と、ディーが数匹だな」
「ほぅ、傷も綺麗に消してある上物じゃないか」
……まだ村の周囲にどんな獲物がいるかを知らない僕は会話に参加出来ない。だが、『フレッド』さんは僕が抱えているフレイムラビットを見て、事の推移を察知したようだ。
「……ディー坊は俺達を超えるだろうな」
「あぁ……今でこれだ。その内に大化けするだろうよ」
現時点の実力でも、褒められて悪い気はしないが、まだ科学的な知識を魔法で試してはいない。
もし科学と魔法を上手く融合させる事が出来れば……
「「っ!!」」
その時だった。魔法を修得したばかりの俺でも分かるほど、濃密な魔力の気配が辺りに広がる。
「ディーノ!村まで走れ!」
「皆を避難させるんだ!」
「え?えっ?」
「早くしろっ!」
険しい表情の2人に気圧され、僕は言われるがままに走り出した。
しかし、頭上を黒い影が覆い尽くした時、足は止まってしまった。ふり返り、父さん達を見て、僕はようやく事態を把握した。
『紅竜』。
それは父さん達が日常的に狩るような獣ではない。
れっきとした『魔獣』である。
『魔獣』は戦闘を生業にしている人々が数人がかりで討伐する存在。しかも『紅竜』が出るなんて、軍隊出動レベルだ。
それは、頭では理解していた。だが実際に目の前にした時の禍々しい威圧感は想像以上である。
「グアァァァッ!!」
竜種の放つ灼熱のブレス。それは人間が生み出す炎とは桁違いな熱量を誇る。
必死に炎の壁で防御している父さん達だが、このままでは何の抵抗も出来ず、一方的に焼き尽くされてしまう……
そう悟った瞬間、僕の中で何かが切れた。
……気が付けば『紅竜』に向かって突進していた。
「ディーノ!?止めろ!逃げるんだ!!」
「ディー坊!逃げろ!」
制止の声が耳に届いたが、今さら止められない。炎をまとった僕の拳が『紅竜』に突き刺さる。
「ギャォォォッ!」
殴った感触としては硬い竜鱗だったが、拳にまとわせていた炎が『紅竜』の体を一気に包み込んだ。
「なっ!?」
「あ……『青い炎』!?」
科学を少しでも学べば誰でも簡単に思い付く、『酸素を十二分に含んだ炎』。科学と魔法の融合は、こんな初歩的な事から始まった。
―――――
「『紅竜』の素材!?」
「はい。買い取っていただけますか?」
「もちろんだとも!それで!?現物は!?」
青い炎に包まれて絶命した『紅竜』。その解体を行い、『魔石』と売れそうな部位だけを持ち帰ると、ちょうど村に来ていた商人に売り払った。
周りには父さんと『フレッド』さんの2人が協力して討伐に成功した、と告げた。村の人達は、流石は『マーカス』と『フレッド』、と誉め讃えていたが、その2人は微妙な表情だ。まぁ、『5歳のガキが、誰も見た事の無い強力な炎で竜種を焼き殺した』なんて事実を話しても、誰も信じないだろうから僕としてはどっちでも良いんだけどね。
「……ディーノ、帰るぞ」
「はい」
口数少なく、父さんは帰宅を促した。それに従い僕も家路につく。
「……ディーノ」
「はい」
「あの、『青い炎』は何なんだ?」
「酸素……っていう、可燃性の空気を含んだ炎です」
「可燃性の空気、か……」
再び沈黙が続く。僕には父さんが何を考えているのか、さっぱり分からず、ただ変な緊張感に包まれていた。
「……ディーノ」
「は、はい」
「あと5年で10歳だな」
「はい」
「10歳になると、『ギルド』に加入出来るのは知ってるな?」
「はぁ……」
「……どうだ?『ギルド』に加入して『戦士』になって、世界を旅してみないか?」
「……へ?」
何だ?『戦士』になると、良い事でもあるのか?
「『紅竜』を焼き尽くす程の炎を生み出す5歳なんて、普通は考えられない」
「……はい」
「ましてや、俺は竜種を焼き殺す程高温な『青い炎』なんて初めて見た」
「……はい」
「……親バカな発言かも知れないが、ディーノには才能があると思う」
「才能、ですか?」
「あぁ。行く末は、俺なんかは足下にも及ばない、立派な『戦士』になれるんじゃ……と、今日思った。いや、確信した」
「そんな大した事なんて……」
……してますね。軍隊レベルの『魔獣』を殺しましたから。
「『戦士』はな、実力が全ての世界だ。俺は……まぁ中の下程度の実力しか無かったが、ディーノには、もっと広い世界を見て、1人前の『戦士』として生きてみて欲しい」
「……なれるんでしょうか?」
「そこはディーノの頑張り次第だな」
そう言って笑う父さんからは、嫉妬や怖れといった感情は感じられず、ただ我が子に対して夢を見る、1人の父親の姿があった。
「10歳、か……あと5年。長いですね」
「まだまだ世に出る準備期間だと思えば良いさ。俺に出来る事は全て教えてやる。頑張れよ!未来の『戦士』!」
そう言ってバシバシッと背中を叩く父さん。その姿は、まさしく理想の父親と言っても過言ではないだろう。
その翌日から、父さんによる魔法の使い方や、その利便性についての指導が始まった。
初めの1年間は『フレッド』さんも一緒に指導をしてくれたが、2年目、3年目となると、僕が炎の魔法の可能性を試す時間となるのであった。
……そして、5年の月日は流れる。
感想・ご指摘、バンバンお待ちしています。
ですが、豆腐メンタルなので優しめでお願いします。