14(晩餐会)
結局のところ、エセルはその後の数日間を、次期伯爵とともに過ごすことになった。
というのも、夜に催された晩餐会の席で、彼女がマリスタークへ訪問するという話が、あっというまに決まってしまったのである。
晩餐会は、何日も馬車に揺られて都に出向いてくる領主たちをもてなすためのもので、領主会の晩の恒例だった。
日頃は遠方にいる領主たちだが、季節のいい春や秋には王城に伺候して、領地の様子を女王や廷臣たちに報告する。決められた日時に集まり、それぞれが個別にていねいな面談を受けるのだ。
領民の様子や生産物の出来具合、経済状態、それに魔物の討伐状況など、話す内容は幅広い。領内の統治方法について相談したり、都から支援をとりつける交渉をしたりすることも、あわせておこなわれている。
領主たちにとっては、数少ない貴重な機会なので、みな丹念に前準備などをして、気をひきしめながら王城を訪れる。
だが、晩餐会の時間がくれば話は別だ。
主賓は領主、接待するのは女王や王族、廷臣たち。地方を守ってくれる責任者たちの労をねぎらって、感謝を示し、くつろぎながら親睦を深めあうことが、女王陛下の望む方向性だった。
晩餐会はそれにふさわしく、皆の舌を満足させる料理が、長テーブルでふんだんに並べられる。
春野菜をこしてさっぱりと味付けしたスープのあとは、鶏肉をしっかり煮込んだ濃いスープ。牛や鹿や鴨のローストには、何種類かの香草と肉汁を煮詰めたソースがたっぷりかけられ、やわらかくて香ばしい。
ニシンやマスといったおなじみの魚のほかに、カニやカキなどの皿も用意されている。焼き立てのパンはもちろん、雑穀のかけらもない良質な小麦粉だけの白さだ。
最高級の葡萄酒は、望めば給仕たちが好きなだけつぎたしてくれるのだが、欲望のまま飲みほそうとする者はいなかった。酔いがまわりすぎて、その後の団欒に加われなくなったら、せっかくの長旅が台無しだったからである。
食欲を十分に満たしたところで、続きの広間に移動すると、今度は自由に歩き回りながら話に花を咲かせる時間がやってくる。
領主たちの中には奥方を同伴している者もいたので、広間は高い声から低い声までがさまざまにさざめいて、にぎやかだった。そしてこのひとときは、不幸にも女王や姫君の近くに席をとれなかった者たちにとっては、食事以上に待ちかねたひとときでもあった。
三人姉妹の姫君たちは、挨拶をかわしたり談笑したりしながら、賓客たちの間をまわっていた。
皆の目を楽しませるように美しく着飾り──けれど奥方たちに引け目を感じさせないよう、けして華美にはならず──それぞれが交流を楽しんでいる。
人の輪の間をすべるように動く様子は、美しい花のようでもあり、蝶のようでもあった。
だが、どれだけ姫たちがみなの注目をあつめても、この場の主役というわけではない。また、晩餐会の主役は領主たちとその同伴者だと、女王がどんなに思っていようと、領主たちが主役になりえるはずがない。
女王陛下その人がいる限り、人々が認める唯一の主役は彼女であり、大広間のはなやぎはすべて彼女のものだった。