表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

序 

ページをひらいてくださってありがとうございます。

下のイラストは例によって落描きなのですが……そして「序」の内容とかなりイメージがちがうのですが……両方あるのがレントリアという国なのでした。

では続編、開幕いたします。


      挿絵(By みてみん)








 陽のあたらない部屋の片隅に集まった、四人の男たちの目的は同じだった。

 目的のためには、もう手段など選ばない。その気持ちも同じだった。


 ひとりめの男のしわがれた声が、激情のために大きくかすれる。テーブルの上で握りしめた両のこぶしが、わなわなとふるえた。


「息子夫婦も孫たちもやられた。村長も跡継もみな……畜生、忌まわしき魔物ども。業火に焼かれて朽ち果てるがいい」

 こぶしを叩きつけた振動で、木のゴブレットが倒れてころがり、床に落ちた。すでに十分飲んだあとだったので、誰も気にとめなかった。


「もう嘆かれるな、ご老人」

 二人目の男が、心からの同情をこめてささやいた。剣士のがっしりした武骨な手が、ふるえ続ける老人の肩を抱く。

 嘆き節を聞かされるのは、先刻から何度目になるかわからないほどだったが、何度聞いても同じように痛ましい話だと思っていた。


「インキュバスを憎む気持ちは、よくわかる。おれとて、魔物狩りをする身として何度歯がみしたことか……幼生体でさえあれば、魔法剣などなくても容易に討ちとれるものを」


「生まれたときから、すでに擬態しておりますからな……」

 剣士の言葉を受けて続けた三人目の男は、学者であった。

 彼は、テーブル上のオイルランプがゴブレットとともに倒れないよう、ランプの台座をしっかり押さえていられたくらい冷静だった。


「一刻も早く、幼生体の共通点をみつけなければ。必ずどこかに兆候があるはず。幼生体か……あるいは」

 ひと呼吸おいて、重々しく告げる。

「生まれる前の胎児の身体に」


 学者の言を待つまでもなく、幼生体の特徴を発見することが急務であるのはまちがいなかった。無力で小さな魔物の姿をしているあいだに発見できれば、繭をつくる前に退治できる。


 学者は魔物の被害にあった人々の間をまわり、繭をつくる以前の夢魔がどんな姿だったのかについて、すでに調査を終えていた。結果は「千差万別」のひとことだったのだが──しかし夢魔が胎生の魔物であることだけは確認できた。


「そうだ、あきらめるにはまだ早い」

 涙でうるんだ老人の目に、意欲の光が戻りはじめる。

「そもそも半魔などという言い方がおかしいと、わしは常々思っておったのだ。人間か魔物か。それ以外になんの区別があろう」


 同感だ、と、剣士が深くうなずく。

「しかし実際にやるとなると人手がたりん。資金も……」

 言いよどむ剣士の声に、今度は別の男の声が重なった。

「ご心配なく。力をお貸ししよう。そのためにわたしがいるのだ」


 なんと頼もしい……三人の男たちの視線が、四人目の男に熱く注がれた。彼らはあらためて思いを確認しあった。生ぬるい領主たちにはまかせておけない。自分たちだけで、すべてのことを運ぶのだ。


「ともに力を合わせましょうぞ」

 酒の力も手伝い、いつにもまして饒舌になった老人が、四人目の男の手を強く握りしめる。

「微力ながら、わしの力も使ってくだされ。レントリアを守るため、人々の命を救うため。けがれし魔物を討ち果たすために」



 後日──。

 謙遜でなく、老人の力が本当に微々たるものであったことが、証明された。彼は見物しただけにすぎず、その時間すらほんのわずかなものだった。

 老いぼれた心臓には、刺激が強すぎたらしい。


 あのときの会合が頭をよぎり、四人目の男はおかしくなる。微力とはよく言った。自分の力のほどを十分わきまえていたとみえる。

 剣士のほうはもう少し役立つかと思ったが、腰を抜かして動けないとは、想像以上に小心者だった。

 彼らは自分たちの決断を後悔しているだろうか。

 興奮しているのは学者だけだが、これは後悔していないようだ。気力もおとろえていないし、手も無駄にふるえてはいない。


 ふと頭上に異質な気配を感じて、四人目の男は上を見た。日差しをうけて、白いものが反射した。

 天馬? 

 しかしすぐに興味は失われた。白きものなどどうでもよい。目の前のものがあまりに魅惑的だし、そこから想起されるあまたのものも、さらなる魅力に満ちている。


 想起、すなわち割れた樽から噴き上がる葡萄酒。熟れた果実からあふれ出す果汁。ひらききった花弁から、滴りおちる甘い蜜。

 この芳醇とこの芳香。吹きつけてくる蒸気と熱気。

 いかなる貴石もかなわない。紅玉、珊瑚、柘榴石。そんなものは消え失せよ。

 悦楽とともに、愉楽とともに。まごうかたなき喜悦の時を味わいながら──。


 笑え、歌え、踊れ、叫べ。

 天上の聖に用はない。 

 これが地上の、聖なる宴。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 1番最初の絵は、「妖精通信」で出てきたエルフでしょうか? 大変可愛らしいイラストですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ