【エイタとエミ】愛を語るにはまだ青い
なぁ、お前は知らないだろうな。
真っ暗な部屋が好きだ。鼻先さえ見えない暗闇の中、一人じっと目を開けている。その上、静寂も大好きだ。耳鳴りがするほどの静けさが。血生臭い実生活を忘れられる唯一の手段だ。
徐々に己の呼吸音が響き渡り、頭の中がクリアになる。それからようやく考えるのだ。この、子供のような心の内について。子供の頃がどうだったかはほとんど記憶にない。それでも手の打ち様がない程、幼稚な考えを消す事が出来ないのだ。
世界が違うあの女をどうにか手に入れたい。力ずくで手に入れる事は容易だ。砂糖を溶かすよりも。
しかしそれではいけない、そうではない。そんな事を望んでいるわけではないのだ。
全てが欲しい。身も心も、それでいてエミが自ら赴かなくてはならない。特に不自由した事はない分、やり方に疎く困っている。
あの、エイタが撃ち殺した男越しに立っていたエミの姿を。呆気に取られ呆然と、それでも反射的にこちらへ視線を寄越したあの姿。近づけば声を上げる事なく視線だけが動いた。怯えていたのだろうか。普通ならばそうだろう。目の前で人が殺されているのだから。
あの日以来、エミはエイタの元を訪れなくなった。当然の対応だ。時折、顔を合わせる事はあっても笑顔ではいられない。微かに強張った表情のまま視線を落とすだけ。それが悲しくて悲しくて辛くて。単に会いたいと願う。
だから今ここにエミは寝ているのだ。まだ覚醒しておらず、薄い呼吸を繰り返している。
どうせ先の見えない不確かな人生なのだ、貪り合う他ないだろう。己の興味、楽しみ、意思のみを追求し生きているのだ。
それでもいざ行動を起した今、先に進めないでいる。彼女が目を覚ました時、まず何を言おうか。それを考え、小一時間が経過している。
「…」
自分以外の声が聞こえ、反射的に顔を上げた。顔が熱くなり動機が激しくなった。エミが目覚めたから。
「何…?」
ゆっくりと立ち上がり近づいた。こんな興奮はそうそう味わえないだろう。
□
□
□
■
■
□
□
□
「…誰?」
「俺だ」
「エイタ…」
「…エミ」
堪えきれない感情をどれだけ押さえつけていたのだろう。そうして今日それをぶつける。隠す事なく全てをありのままに。エミが受け止めきれる道理はないと知りながら。
覆い被さればエミが悲鳴を上げた。
初めて。やめて、やめて。やめて、エイタ。誰か。
どうせ言っても伝わらないのだ。お前の事を心の底から愛しているからこその行為だと、伝えても伝えなくてもどの道、エミは傷つく。
「どうして」
「どうして…」
どうしてねェ。
反芻し笑う。面白くて仕方がない。
随分昔に、お前はイカレていると言われた事がある。あれは一体誰に言われたのか。そうして何故、言われたのか。
まったく記憶にないとところを見れば、大した出来事ではなかったのだ。
それでも何故だか今、それを思い出す。その理由も分からないまま。
エミの目がこちらを見ている。大きく見開かれたまま微動だにせず。
これから先、自身に降りかかる事象をはっきりと理解しているのだ。彼女は。
「嫌」
胸元を掴んだ指先に僅かな力を込めそのまま引き千切る。視覚、聴覚、この二つが嫌にエイタ自身を興奮させ止まない。
ああ、そうか。俺は。
愛を語るにはまだ青い。