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たたかう給食室  作者: 杉背よい
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1. 揚げパンの郷愁 ~小峰絢の場合~

給食を作る仕事をしている友人に話を聞き、尊敬の気持ちからこのお話が生まれました。

小学校の頃は苦手だった給食。でもそのおかげで食べられるものも増え、高学年になるにつれて

楽しみになっていました。給食を作ってくれる人、食べる子どもたち。全ての給食に関わる人の日常が穏やかでありますように。

夏の自転車は、とにかく高温。

「今日もヤケドしそうになるのかな」

 小峰絢は思わず口に出してぼやいた。自分で思っていたよりも低く、掠れた声だった。

 小峰は駐輪場に自転車を停めながら、帰りにはハンドルがかんかんに熱くなっていて、

触るのに苦労するだろうと想像する。

 小峰がパートを終えて帰る頃は、四時ちょっと前だというのに夏はまだまだ日が照りつ

けている。

 先週も仕事帰りに何気なくハンドルに触れ、 思わず「あっつ!」と大声を上げたばかりだった。

──あー、恥ずかしい。

 普段は無表情で、あまり感情を表に出さない小峰は周囲から「クール」などと言われて

いる。

 キャラを気にしているつもりはなかったが、誰かに見られていたら何となく気まずいなと周囲を見回したりした。

「しかも今週は揚げ焼きかあ」

 独り言ついでに小峰はまた声に出して言う。どうせ周りには誰もいない。

 声に出して言いながら、今から職場で振るう鍋の熱さを想像して小峰は顔をしかめる。


 小峰のパートは「給食調理員」だった。

 通称「給食のおばさん」。

 仕事仲間には年若い子もいるのでおばさん扱いするのは可哀そうだが、三十五歳子持ちの小峰にとっては気になることでもない。

 それはいいのだが。

 今週の担当である「揚げ焼き」というのは、その名の通り揚げ物と焼いたり炒めたりの

火を使った調理担当のことだ。

 「揚げ焼き」は週ごとの交代制の作業で、全作業工程の中で一番嫌煙されていた。

 普段からきついのに、いわんや夏場をや、だ。

──今週は灼熱地獄決定だわ。

 慣れていることとは言え、想像しただけでむうっとした熱気に体を取り巻かれるようだ

った。


 異常な高温からハンドルやサドルを守るため、今日から小峰は防護カバーをセットすることにした。うまく行けば、今日はやけどを免れることができる。

 間違いなく 停車、カバーを装着させたことを確かめると、小峰は歩き出した。

「お姉さん、すみません」

 そのとき、背後から、ふいにか細い声が聞こえた。

──お姉さん。

 子どもを産んでからほとんど耳にしない単語だった。

──私のことじゃないだろう。

 小峰はそう判断して、そのまま歩き去ろうとした。しかし声は再び「お姉さん」と縋るようにかぶせてくる。呼びかける声にはどこか悲痛な響きがあった。

 よく聞けば大人の男の声ではない。どこか硬質な、危うい高さの声。

──恥をかいたっていいか。

 決心して小峰は振り返った。するとそこには、俯き加減の少年が立っていた。

 やや長すぎる前髪から時折覗く目は鋭いが、全体としては自信のなさそうな雰囲気が感じられる。細く、長い手足を持て余すようにして、少年が小峰を前髪の下から見つめていた。

──やっぱり、子ども……。

 小峰はざっと少年を観察して、「あまり見たことのない子だ」と考える。もちろんこの学校の全生徒を把握しているわけではないが、どこか馴染みのない様子を感じ取った。

「ごめんなさい……先生ですか?」

 少年は再びおずおずと、口を開いた。

「違うわ。私は給食のおばさんだけど……君は転校生?」

 小峰が尋ねると、少年は曖昧に頷いた。

「そう……です。校舎が……わからなくなってしまって」

 ひどくゆっくりと、少年は話す。小峰は見るからに内気そうな少年が心配になってしまった。

「校舎は反対側よ。一緒に行く?」

 少年は小峰が指さしたほうへ顔を向けると、静かに首を振った。

「大丈夫です……わかりました。この学校は、給食室があるんですね……」

 少年の話し方はゆっくりで、どこか無機質な印象があった。細い手足からはあまり食事を好むことは連想させなかったが──。

「私が作ってるから、たくさん食べてね」

 はい、と少年は再び曖昧に頷くと、小峰に何度も頭を下げながら校舎のほうへ走っていった。

──あの子、大丈夫かな。

 高学年、五年生か六年生だろうか……。小峰にも小学四年生の娘がいる。他人のようには思えなかった。


 小峰が給食作りのパートを始めてから一年半が経つ。

 あっという間の一年半だった。

 最初に赴任した小学校で一年勤めたが、年度が替わると現在の小学校に異動命令が出た。

 以前は「西小学校」通称「西小」で、十一人で千百人分の給食を作っていた。一人で百人分を作る計算である。

 今年に入って赴任した「かもめ小」では、四百人分の給食を四人で作る。頭数は変わらないが、規模が小さいのはやはり楽だった。

 現在は、ベテラン調理員の田所、一番若手のパート調理員野間、唯一の正職員であるまとめ役の調理員鮫島(ただし小峰よりもかなり年下だ)、そして小峰の四人で業務を回している。


 給食作りは大げさではなく過酷を極める。

 あまりのきつさにすぐに辞めてしまう人が多く、人の入れ替わりにも慣れっこだった。

 大鍋は重いし、大量の食材の下準備は面倒くさく、スピードと腕力と判断力を求められ

る。

「女の土方」と呼ばれるのも間違ってはいない。

 おまけに女ばかりの職場で人間関係も厳しい。もたもたしていると罵声が飛んでくる。

「だけど、ここでやっていけるならどこでもやっていけるよ」

 ベテランの職員さんにそんなふうに声をかけられ、小峰は納得した。

 仕事を辞めなかったばかりか、何がしかの働きぶりを評価され、急な欠員が出た学校に

ヘルプに行くことになったり、異動を命じられたりした。

 どうやら小峰は、この仕事に向いているようなのだった。

「さてと」

 小峰はアスファルトから立ち上る熱気に一瞬だけ眩暈を覚えたが、勢いをつけるように

短い深呼吸をし、姿勢を正して歩き始めた。

「おなかを空かせた子どもたちが私を待っている」

 だから何も考えず、今日も戦おう。

小峰は静かに、決意をみなぎらせる。

 小峰にとって、給食作りは戦いなのだ。


「おはようございまーす」

 小峰がほとんど棒読みの挨拶をしながら出勤すると、先に来ていた野間アキが遠慮がち

に会釈を返した。

 野間アキは、いつものように黒目がちな目を伏せている。二十代半ばの女の子で、見える全ての毛量が濃く、黒い。

 髪も前髪が分厚い、腰までのロングヘアだった。

 そのせいか、性格も閉じこもりがち(な割に威圧感多め)に見えた。

 小峰は、マスクの上に覆いかぶさりそうな野間アキの睫毛の厚みに圧倒された。

──地睫毛かしら。さすがにつけ睫毛はしてないよね。 飲食の仕事だし。

 ちらちらと野間アキを観察しながら、でも「まつエク」というやつかもしれないと小峰

は思い至る。

 野間アキは結局会釈をしただけで、小峰と目も合わせようとしなかった。


 作業は週ごとの交代制で、早い時間は「下処理」と「調理場」に分かれる。今週、調理

場に割り振られた小峰は、大量の調味料を計量スプーンで測り始める。下処理の野間アキ

は、段ボールに詰められた野菜を取り出して洗っている。

 給食室のシンクは、ぴかぴかに磨き上げられていた。綺麗好きの野間アキが、最後まで

丁寧に磨いていた姿を、小峰は視線の片隅に捉えていた。捉えていながら、直接野間アキ

には声をかけずに「お先です」とつぶやいて頭を下げて外に出た。

 何度となく「一緒にやりますよ」と声をかけては、野間アキに丁寧に断られていた。

「大丈夫です。きりなくやっちゃうんですよ、私」

 声は申し訳なさそうだったが、野間アキの目は頑として鋭い光をたたえていた。その目

にひるんだ小峰は、自分の申し出を拒絶されたと受け取った。

──野間さんがもっとうまい断り方をすればいいのか。それとも私がうまく手伝いに入るべきなのか。

 小峰は少しの間考えたが、すぐに雑念に上書きされてしまった。


「おはよー」

 作業を始めてしばらくして、体を左右に揺すりながら入ってきた田所は、この職場の大ボスだった。

 もう十数年以上、給食調理員として働いているベテランだ。

 ドスの利いた低い声に、小峰を始め、職員たちの背筋が自然と伸びる。

 服装のセンスもなかなかパンチが効いていて、今日はパーマの取れかけた短髪が、全体的に右に持ち上がっている。

 五十代半ばで、体格のいい田所は、声も大きいが動作もいちいち大仰で目立つ。小峰の

以前の職場でままあったように怒鳴り散らすことはないが、皆田所を恐れ、一目置いてい

た。

 給食室の作業上のリーダーは鮫島だが、業務経験が抜きん出て長く、実質上田所は現場のリーダー格だ。 田所の言うことには逆らえない雰囲気がある。

「おはようございます」と小峰は口の中で小さく挨拶を返したが、曖昧な会釈を返す野間

アキの挨拶に田所は気付いていない。

「ああ暑い」としきりに汗を拭き、田所は誰にともなく恨みがましい目つきをした。

 暑さに対するやり場のない怒りかもしれない。

 野間アキは田所に対してだけでなく、誰とも親しくなろうとしないので田所の存在を認識しないように努めている雰囲気がある。

 鮫島は、田所の処理は小峰に丸投げしようとする節がある。

 

 調味料の計量を終え、次の手順に入ろうとする小峰に田所が真っすぐ歩み寄る。

「小峰ちゃんおはよ。あのさ」

 何故だか小峰は、田所に気に入られていた。

──まあいいんだけどね。

 田所処理班のような使命を司っている小峰は、頭の中で返答を考えた。

「ああ、田所さん。おはようございます」

 小峰はさも今気が付いた、という態度で、さきほどよりは大きく口を開けて挨拶を返し た。

「女優の岡田ゆめが不倫だってねえ。まったく腐ってるね」

「腐ってる」というのは、田所の口癖だった。

 小峰は、はあと生返事をする。ほとんど小峰はテレビを見ない。娘の真由にチャンネル権をすべて委ねているからだ。

 田所は小峰の態度に構わずさっさと両手を消毒し、ピーラーで野菜の皮を剥き出した。

 怖いことは怖いが、小峰はそれほど田所が嫌いではなかった。この手の女性は、どんな職場に行っても一人はいる。そうして、そのほとんどが悪人ではない。

 ベテランの田所は、口数も多いが何よりも仕事が早い。考えて行動するというより、反

射的に体が動いているように見える。

 田所の手順に見惚れていた小峰は、我に帰って下処理の終わった野菜を集めた。


「お母さんの自転車って、しぶいよね。」

 小峰の脳裏に、ふと娘の声が蘇る。

 実際は、ぼろくて錆びだらけで、知り合いが捨てると言ったものをもらった自転車だった。

 真由は、思ったことを直截的には口にしない。非常に遠回しな言い方をする。

「太っている」が「ふくよか」、「のろま」が「丁寧」、「老けた」が「落ち着いている」、と

変換される。真由の口からは、人を傷つけたり、罵倒するような言葉はまず飛び出さない。

声になる前に、真由の中で恐らく半無意識的に取捨選択がなされるのだろう。

 小峰の自転車は、「ぼろい」ではなく「渋い」と表現される。真由の中で、選択前の剥き

出しの言葉はどんなに鋭いのだろうと、小峰は逆に不安になる。

 たとえば昨日小峰は、揚げたての豚カツを真由の皿に起き、しばらく反応を伺っていた。

真由は無言で食べ終えたりはしない。必ず小峰を気遣う感想を言ってくれる。

「……食べ応えがあって美味しい」

 真由は湯気を立ち上らせている豚カツにかぶりつき、微笑みながら言った。

──肉片が大き過ぎるという意味だったのか。それとも旨味が少なくて大味だったのか……。

 小峰は何か一つ行動を起こすたびに、真由の返事を深読みしてしまう。勝手に裏を読んでは悪い想像をして、疲れる。

 真由は真由で、小峰の顔色をさかんに伺っている気がする。

 小峰の家では、疲弊感が廻っていた。

 

「お父さんは、しばらく帰ってこないことになったんだよ」

 献立の続きのように真実を伝えたら、真由は何と返答するのだろう。

 小峰は、幾重にも 覆い隠された真由の本心を慮ると、どうしても口にすることができない。そして、献立のように軽い事実だったらどんなによかっただろう。

 真由の父親である達夫が、家に帰って来なくなったのは一年半ほど前だった。

 奇しくも小峰が給食のパートを始めた頃。

 それまでは小峰が働くことを良しとしなかった達夫に伺いを立てると、二つ返事で賛成したのだった。

「女性が多そうな職場だし、料理の腕は上がりそうだし、真由の帰りにも間に合う。いいじゃないか」

 賛成してくれたはずのその言葉に、何故か小峰は無性に腹が立った。

 確かに小峰は達夫が並べたいくつかの条件に魅力を感じてこの職業を選んだのだ。

 特技のない自分も調理場なら使い物になるかもしれない。真由の帰りに間に合う短時間勤務はありがたい。家から近いし。だけど。

──それら全ては、達夫の権限でどうこう判断して欲しくはない。

 小峰はこれまで感じたことのない、達夫への憎しみが急に噴出した。するとそれに伴なうわけではなく先行していたのだが達夫の浮気が発覚。

 話はこじれてあと一歩で離婚、というところまで来ながら現在達夫は新恋人の家に転がり込んだまま帰ってこないのである。


「はああ」

小峰は過酷な労働と憂鬱な現実を行き来した。

そのあわいに、浮島のように真由がいた。うまく関係を結べなくても、真由は小峰のたった一つの希望だった。大げさな言い回しだが、たった一つの小峰の存在意義だった。


 おはようございます、と言って給食室に足を踏み入れた瞬間から、小峰の目の前には山積みにされた作業がある。

 その作業の山にかじりついて片端から切り崩していくうちに、いくつものメニューが出来上がる。子どもたちがお腹を空かせる頃にはあらかたの献立が出来上がり、食物の匂いは給食棟を抜けて、恐らくそれぞれの教室まで届く。

 今日の献立の一つは揚げパンだった。揚げパンは小学生だった小峰の好物で、クラスのほとんどの子の好物でもあった。当時は欠席した子に届けてあげたほど人気があった。

 小学校が違うので、メニューが同じとは限らない。だが、今月のどこかできっと真由も揚げパンを食べるだろう。

 出来上がった給食を四人で食べながら、やっと休憩かたがた雑談をする。

 もっとも、田所がほとんど一人で喋っているのだったが、「今日も無事に給食が出来上がった」と思うだけで小峰はほっとして涙が出そうになるのだった。

──真由も、揚げパン好きかな。

 小峰は真由を思い浮かべながら給食を完食し、手を合わせた。


 業務を終え、再び駐輪場に向かって歩いていくと、朝出会った少年が駐輪場にもたれかかって立っていた。

 少年は小峰を見ると「あ」と言って、小さく頭を下げた。まだ授業時間内のはずだし、少年は朝とまったく同じで、登校カバンを細い体に引っ掛けていた。

「今日は早退するの?」

 思わず小峰は声をかけた。少年は前髪の下から小峰の目をまっすぐに見た。思った以上に大きな目だった。

「……はい」

「病院に行くのに……親が迎えに来るんで……」

 少年の話し方はゆっくりで、相変わらず覇気がなかったが、病気を患っているのかと心配になった。駐輪場は来客用駐車場と隣接している。もうすぐお母さんが車で迎えに来るのだろう。

 小峰は少年本人と、母親の両方に同情した。少年の口ぶりから、突発的な体調不良ではなく、定期的な病院通いを連想した。

「揚げパン食べた?」

 小峰は何気なく少年に問いかけて、自分でも驚いた。何故、そんなことを聞いてしまったのだろう?

 少年は一瞬目を見開いたが、何かを察したようにまた静かに伏せた。

「揚げパン……はい」

「母さんが好きだった、って言ってました。昔、よく家まで届けてもらったって」

 驚いたことに少年のほうから話をつないだ。特別楽しくもなさそうなのに。

「君は?」

 小峰は訊ねてみた。本当は真由に聞いてみたいことだった。

「……好き、だと思います」

 少年は言い終えると、ほんの少しだけ笑ったように見えた。

 小峰は、はははと声に出して笑った。乾いた笑い声だった。

この子にはこんなに普通に話せるのに。そう思うと、自分が滑稽で仕方がなかった。

 真由が何を考えているのか知りたい。でも、本心を知って嫌われるのは怖い。今、小峰には真由しかないだからーーそう思いかけて、ふと我に帰る。

「……おばさんにもね、君と同じくらいの娘がいるんだけど、全然普通に話せないの」

 気付くと小峰は、少年に向かって自分の話を始めていた。

「あなた揚げパン好き?、そんな簡単なことも聞けないのよ……」

 小峰は自分で言いながら泣き出しそうになっていた。少年はじっと、小峰を見つめていた。表情一つ変えず、うろたえることもせずに。

「おんなじだと思います」

 少年ははっきりした声で言った。

「え?」

「今、あなたが思っていることと、娘さんが思っていること」

 少年はひどく大人びて見えた。

「生意気なようですが、俺も母さんに聞けないですし。言えないから、わかります」

 少年はカバンの中を探ると、幾重にも紙に包んだ白いものを取り出した。

──揚げパンだ。

 小峰は大きさと、紙にうっすらにじんだ油ですぐにわかった。

「これ、隠して持ってきました」

 少年は小峰にそれを手渡しながら、言った。

「娘さんに、今俺にしたのと同じ話をしてみてください」

 いやいや、と両手を振って小峰は断った。

「だってこれ、君か君のお母さんのものでしょう?」

 小峰が頑として受け取らずにいると、少年は困ったように笑った。

「……事情があって食べられないんです。でも、好きなのは嘘じゃないです」

 そう言うと、大きな車が近づいてきた気配を察して少年は車のほうへ走り去った。

 去り際にくるりと小峰に向き直り、ぺこんと小さなお辞儀をして。

 運転席までははっきり見えないが、高級車のたぐいに違いない。


 少年が車に乗って走り去ると、揚げパンを手に呆然と立ち尽くす小峰が残された。

──今度あの子に会ったら、ちゃんとお礼を言おう。

 そして名前も教えてもらおう。

 小峰は潰れないように気を配りながらリュックに揚げパンをしまう。

 朝、事前にセットしたカバーの効果は上々だった。ハンドルもサドルも熱くはない。

「今日は話せるかもしれないな」

 揚げパンを取り出したら、真由は呆れた顔をするような気がした。

 小峰は颯爽とサドルにまたがると、いくらか涼しい風が吹く校庭の外へ自転車で走り出した。


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