9話 「化け物への選択」
20160223公開
大体の事情を把握した俺は、みんなの所に戻った。
俺を見るお客様の目が痛い・・・・・
それはそうだろう。一流のアスリートもビックリな身体能力を、その辺の只の人が披露して、ましてや剣で武装した金属鎧着用の騎士みたいな集団を素手で殴り倒しまくったのだから。
うん、自分で言っておきながら、俺も『それってなんていう少年マンガ?』と思う。
ただ、店の従業員には先に注意を伝える必要が有った。
「えー、『選択』をしたスーパーの従業員は、各自、空いている場所で自分の身体能力を確認しておくように。今までと同じ様な感覚で下手に動くと、痛い目に遭うからな。田中君、自分の能力を把握した後はみんなの手伝いをしてくれるか?」
大学時代は体操選手だった田中君は運動神経の塊だった。
うちの店員の中では抜群のセンスを持つだけに、彼なら期待に応えてくれるだろう。
「了解です、店長! あ、でも、ひょっとして、自分もみなさんも店長並みの化け物になったという事っすか?」
「うん、田中君、面と向かって化け物って言わないようにな。おじさん、ちびっと傷付いたぞ」
「あ、申し訳ないッス」
「まあ、いい。それよりもみんな、怪我をしない程度にな。本当なら、こんな能力は要らないのだが、もうみんなも気付いていると思うが、この世界では自分の身は自分で守る必要が有る。あの女性が説明したように、この星の人類を追い詰めている『敵獣』と呼ばれている奴は肉食恐竜みたいな奴らしい。戦いたくなくても、襲われた時に逃げる力は必要だから、敢えて『解放』を選んで貰った。責任は全て俺が取る」
そう言って、俺はみんなに頭を下げた。
「あ、そんな、店長、頭を上げて下さい。もし『封印』を選んでいたら、生き残れないって理解しましたから」
少し気が弱い所は有るが、性格の良い佐々木副店長がみんなの気持ちを代弁するかのように言った。
「ありがとう。まあ、個人的に何か言いたい事が有れば、後で時間を作るから遠慮なく言ってくれ。怪我だけはしないようにな」
そう言って、俺は店員たち以外の集団、すなわちお客様を1人1人見渡した。
俺は、ここに居る不安そうな表情を浮かべたお客様全員の苗字を知っている。さすがに下の名前までは知らないお客さんも半数は居たが・・・
「改めて自己紹介しますが、スーパー織田の店長の織田です。お買い物中の皆様には大変なご迷惑をお掛けしている事を深くお詫び致します」
俺は一番深いお辞儀をした。角度は目安となる45度を超えてしまったが気にしない。
お客様に罪は無い。こんな事に巻き込まれる様な落ち度もない。
ただ単に、そこに居た、というだけで、こんな危険な場所に連れて来られたのだ。
「また、これから、皆様にご不便をお掛けする事にもお詫びを致します」
そう、平和で便利な日本と比べると圧倒的に生活が不便になる事は確実だった。
さっき確認した知識の中には飢餓による死者数も入っていたのだから。
「責任は全て店長たる私に有ります。全力を尽くして、皆様のご不便を軽くする積りです」
3度、頭を下げる。
本心だった。
そして、不便を掛けない様にすると言い切れないのも事実だった。
お読み頂き誠に有難うございます。