79話 「首都攻防戦」⑤
20160519公開
『外市街』に入った俺たちは横列を組んで蹂躙を開始した。
『標準敵獣』151頭を前列に配置して、72頭の『大型敵獣』を5㍍ほど下げて第2列としている。
例え建物の陰に居て視認出来なくても、千恵ちゃんが片っ端から見付けては『ラカ・クヌ・ナク』経由で伝えていくから不意打ちを食らう事も無い。むしろ、こちらが不意打ちを食わせる事の方が多い。
本来なら俺がインターフェイス経由で得る情報でも可能なんだが、千恵ちゃんと『ラカ・クヌ・ナク』のコンビは完璧なコンビネーションを見せているので任せている。
こちらの『敵獣』たちの動きを見てると分かるが、ほぼ千恵ちゃんがダイレクトに動かしているのに近い気がする。連携が妙に人間臭いのだ。今も横隊の右手の方で『巨大害獣』を2頭の『標準敵獣』が誘い込んで、待ち構えた『大型敵獣』が一撃で倒していた。
こうなって来ると、『大型害獣』であろうと『巨大害獣』であろうと変わりが無い。
元々単体で見た場合、『敵獣』は同程度の体長の『害獣』と比べて倍以上の戦力と見て良い。
それが一連の戦闘で更に差が広がっている。下手をすれば、『敵獣』1頭で同程度の『害獣』なら4頭同時に相手出来るかも知れない。32Gだ。で、『巨大害獣』が64Gとすれば、『標準敵獣』2頭で相手をする事も可能となる。
その上で、連携もされれば、バラバラの行動をしている『害獣』どもに勝ち目なんて有る訳がない。
まあ、問題も有る。
『益獣』がパニックになって、俺たちに襲い掛かって来る回数が増えて来た事だった。
≪てんちょーさん、どうします? もうちょいで左端の子たちが人間が守っている場所まで200㍍になりますよ?≫
≪おっと、そろそろ一旦停まろうか。それじゃあ、説明に行って来るので、現状維持しといてくれる?≫
≪りょーかいです≫
危ないところだった。千恵ちゃんが教えてくれなきゃ、同士討ちの危険性が有った。
『中の国』の部隊にも俺たちの事を伝える様に言っておいたが、実際に出合い頭に遭遇すると攻撃を受ける可能性が残されていた。万が一、反撃をして兵士を殺す様な事が有ると、お互いに悪影響が後に引いてしまう。
隊列の左端から抜け出て、『新市街』を守る城壁沿いにゆっくりと北上してしばらくすると、4人の近衛兵に出会った。
「応援に来たオダノブナガだが、そっちの指揮官は誰かな?」
ゆっくりと『膝突』を並足で進ませながら、俺はこっちを見て気が抜けた様な、ホッとした様な表情を浮かべている兵たちに声を掛けた。
1人の兵が司令部に知らせに走って行くが、かなり身体が重そうだ。
「小隊長は重傷を負われたので後送されました。自分は臨時に指揮を執っているムク伍兵長です」
「かなりしんどい戦いだったみたいだね。ご苦労様。もう少し早く来れれば良かったんだがね」
「いえ、ノブナガ殿がこっちに向かっているというだけで、我々は頑張れましたから・・・」
「もう大丈夫だよ。ちなみにみんな水は残ってる?」
「いえ、負傷した兵の傷口を洗うのにかなり使ってしまって、残っていないんです」
「やっぱり。じゃ、これをみんなに回して」
俺は、いくつか持って来ていた予備の水筒から2つ選んで渡した。中はハーブティと飲料水だ。
「こっちの赤い布を巻いているのはハーブティで、もう一つが飲料水が入っているから、好きな方を飲むといいよ」
「有り難く」
そう言って仰ぐように両手で水筒を受け取ったムク伍兵長は隣に居た若い兵士に渡した。
「お前から飲め。初陣で疲れただろ?」
「いえ、そんな、自分よりも伍兵長殿が先に頂いて下さい」
「命令だ、ほら、飲め」
「分かりました。有り難く頂きます」
そんな微笑ましいやり取りを見ていると、自然に笑顔が浮かんで来た。
こちらにもお礼をしようと俺の方を向いた若い兵が俺の顔を見た途端に腰が抜けた。
「おいおい、大丈夫かい?」
「は、はい。ノブナガ殿の笑顔を拝見した途端に、ああ、助かったんだなって思ってしまいました。すみません」
正直な気持ちだろう。
「ああ、もう大丈夫だ。この戦いはもうすぐ終わる。本当にご苦労様」
しばらくして近衛大隊の隊長がやって来たが、富田さんも一緒だった。
「ノブナガ殿、救援、感謝します」
「いや、こちらこそ遅くなって申し訳ない。それと富田さん、巻き込んですみません」
「いや、自分の意志で参加したんだ。謝る必要はないよ。それで店長だけではないんだろ? みんなは?」
「石井君と岡田あずさ君と鈴木様とこの千恵ちゃんも来ていますが、石井君と岡田君は『害獣』どもが逃げ出さない様に蓋の役をしてもらっています。千恵ちゃんはもう少ししたら来ますよ」
「変わった組み合わせだな」
「ま、色々有りまして」
思わず苦笑いが浮かんだ。
「じゃあ、群れを前進させます。これから現れる『敵獣』は味方ですので攻撃は控えて下さい」
3分ほどで現れた『敵獣』の2列横隊に、その場に居た全員が驚愕の表情を浮かべた。
そらそうだ。
瓦礫を乗り越えながら一糸乱れぬ行進をして来る『敵獣』の集団なんて、想像の埒外だ。
いや、味方で無かったら悪夢そのものだ。
そして、止めを刺すかの様に、隊列を抜け出して一際大きな『敵獣』が駆けて来た。
思わず、俺を除く全員が後ずさった。
場に似合わない可愛らしい声が響いた。
「富田さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ああ。鈴木君こそ元気だったかい?」
「おかげさまで、私も元気ですよ」
そう言って、千恵ちゃんがみんなから10㍍ほど先で『ラカ・クヌ・ナク』から飛び降りた。
「ラカ、あいさつする?」
「ハジメマシテ、『ラカ・クヌ・ナク』トイイマス」
俺と千恵ちゃんを除くその場に居た全員の顔から表情が抜け落ちた・・・・・・・
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