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76話 「首都攻防戦」②

20160513公開

 最初に『中の国』のみゆき女王の応対をしたのは、残留組のリーダーを引き受けていた富田とスーパー織田の副店長の佐々木だった。

 富田は56歳で、日本に居る時の仕事は行政書士だった。

 その為、交渉力も高く(仕事を受ける為には営業力や人脈が必要)、若い頃に自衛隊に居た事も有って非常時に対応出来る人材だった事も有り、召喚以来みんなをまとめる役をこなしていた。

 佐々木副店長にとっても、お客様のかなめになってくれているおかげで、大助かりという事も有り信任が厚かった。


「大変言い難いが、召喚者たちの協力を得たい。もちろん、この様な願いをするのは兄との約束を破る事になる事は重々承知をしているが、背に腹は代えられん」


 挨拶を交わしてすぐにみゆき女王は本題に入った。

 『益獣』の集団が「ファティエル」近傍に来るまであと2時間ほどだった。迂遠な会話をする時間も惜しいのだ。


「ある程度は事態を聞いていますが、途中で進路を変える可能性は無いのですか?」

「ヤツラは『東の国』が栄えていた頃に引いた東西街道に沿って西進しておる。まっすぐこっちに向かって来ている。れることはあるまい」


 『中の国』が栄えた理由として、豊穣な大地に恵まれた事も有るが、『東の国』と『西の国』を結び付ける東西街道と、『北の国』と『南の国』を結び付ける南北中央街道が交わる位置に首都が築かれた事が大きい。

 特に『東の国』とは交易が盛んで、街道整備に巨額の資金を投入した結果、幅5㍍の荷馬車用と左右合わせて5㍍の歩道が整備されていた。『東の国』滅亡後も、『敵獣』の侵入を防ぐ為に兵や物資を頻繁に送る必要も有り軍事的価値から整備は続けられていた。

 『益獣』の集団は途中でその街道と交差後は、その整備された道の上を進んでいた。


「この街は防壁に守られています。並大抵の事では破られないと思いますが?」

「国境の防壁はこの「ファティエル」の防壁の3倍の強度を誇っていた。それを破られたのだ。楽観は出来はしまい」

「でしょうね」


 富田はあっさりと認めた。

 この期に及んで楽観的というよりも希望的な考えで動く事はより悪い方向に動く事になると考えていたからだ。


「それに、ここで召喚者たちが一切の協力をしないとなれば、いかに女王の私がかばっても、風当たりが強くなることは必定ひつじょう。ましてや「ファティエル」が陥落する事が有れば、召喚者自身の身の安全も保障のしようがない」

「ええ、その通りでしょう」


 富田は分かっていた。

 これまで自分達が保護されていた理由が、織田店長が提唱して奔走した『西の国』疎開計画が成功を収めつつある事と、それを現実に支援している事に対する恩恵という側面が大きいという事を。

 織田店長たちの疎開支援チームはこの半年で『西の国』の人口の1/3を疎開させる事に成功した。

 特に最初期に起こった「グミ村の戦い」を勝利で乗り切った事は、その後の世論に大きな影響を与えた。

 もし、ここに疎開支援チームが居れば、彼らなら言われる前に行動を起こしていただろう。

 だが、残留組は実戦経験も無く、戦う事に対する覚悟も作れていない。

 第一、37人居る残留組には5歳児を含めて8人の未成年者が居る。女性の比率も高い。

 実際の所、戦力として役立てるのは10人に満たないだろうというのが現実だった。

 とはいえ、ここで協力しない事は無事に切り抜けたとしても深刻な影響が出る。


「志願者を募ります。最悪でも私は協力します」


 富田は『召喚者は傍観した』という評価を避ける為には、最低でも自分だけでも防衛戦に参加する必要が有ると元から考えていたので、みゆき女王にあっさりと言った。

 驚いたのは佐々木副店長だった。


「いや、でも、富田様にはみんなの纏め役をしてもらわないと・・・」

「佐々木さん、そんな悠長な状況じゃないよ。これは有事だ。平時の考えをしていると、みんな死ぬよ。死にたくなかったら、戦うしかない。それに俺は元自衛官だから、一応は軍事的な教育は受けているし、身体能力は現役の頃よりも遥かに強化されている。わざわざ死にに行く訳では無いよ」

「ですが・・・」

「腹を決めな。追い詰められて力を使うよりも前に出て力を使う方が逆に効果が有る。女王様、5分だけ時間を貰えますか?」


 富田は召喚者が待機している部屋で事情を説明した後で、防衛戦に参加する志願者を募った。


 手を上げたのは店員からは田中、佐藤、高橋、小林の4名(男性3名女性1名)と、客からは長谷川、坂本、藤井、福田、西村、太田の6名(男性2名女性4名)だった。

 10人もの志願者が出た事は想定外だったが、半分の5人は以前に『西の国』までこの世界の現状を知る為に行った事の有る者たちだった。

 その10人の中に1児の母親ながら予備自衛官補の太田文子が入っている事は、富田にとって嬉しい誤算だった。

 一線級の現役自衛官では無い予備自衛官補とはいえ、訓練を受けていない志願者とは一線を画す戦力だった。なんせ、こっちの世界では毎日500発以上もの64式小銃もどきの実射訓練をこなしたのだ。

 64式小銃もどきを使える人間が2人とも参戦する事は、大きなアドバンテージをもたらしてくれるだろう。

お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m



 新たにブックマークをして頂いた方には、執筆意欲を増やして頂いた事に感謝を m(_ _)m

 また以前にブックマーク並びに評価をして頂いた方には、これまで支えてくれた事に感謝を m(_ _)m

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