74話 「油断」
20160508公開
チエッチはきっとこっちの世界の水の方が日本よりも合うのだろう。
あんなに恐ろしげな恐竜もどきをペットの様に扱っていた。
思わず浮かんだ言葉は『もの●け姫』だった・・・・・
≪情報を寄越せ≫
俺はかなり頭に来ていた。
インターフェイスが寄越す情報が余りにも少な過ぎるからだ。
『中の国』に関する情報はナジド王からの手紙を受けてからも確認していたが、首都までも危険になるほど深刻とは思えなかった。少なくとも被害は甚大だが首都に達する前で食い止められるレベルだと思っていた。
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。『害獣』に追い立てられた『益獣』亜種4912頭が、『中の国』が造った防壁を破壊した後に、『害獣』亜種1047頭の露払いを務めるかの様に『中の国』の首都を目指しています≫
≪どうして詳しく教えてくれなかった?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。人類の情報の伝達の問題と判断しました≫
切っ掛けやある程度の手助けは与えるが、実際の運用は人類に丸投げするという姿勢に変わりはないという事か?
確かに俺も気付くべきだった。広範囲に防壁を崩したのが『益獣』らしいと、ナジド王の手紙に書いていたのだ。『益獣』の全頭がその犯人だと思わなかった。
くそ。もしかすれば、西側の集団を叩いた事で、どこか浮かれていたのかもしれない。
油断以外の何物でも無い。
俺はなんとか怒りを鎮めた。
≪現状を地形図に重ねて表示出来るか?≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。表示します≫
インターフェイスが示す情報を確認していると、声を掛けられた。
「店長、お疲れ様でした。それでどうしますか、このあと?」
渡辺さんだった。
疎開支援チームも、予定されていた村の作業を終えて仮首都に戻ったばかりとの事だった。その為にほとんど情報が無いとの事だった。
俺は今掴んだばかりの情報を説明する為に、ナジド王に会議室の用意を頼んだ。
10分後、20畳ほどの会議室には人が満ちていた。
「プラント様が情報をくれた。これが現在の状況だ」
時間が無いので、俺が司会をしている。
いつかの時の様に空中にこの島を衛星軌道上から写した映像が出た。ズームアップが始まり、『中の国』の首都を中心とした映像で止まる。地図を見慣れた者が見れば首都の位置とかは見て取れる筈だ。ついでその映像に2つの色が追加された。青色と赤色の帯が存在していた。赤色より大きな青色の帯の方が西に在る。
「『中の国』の首都の位置はここだ。青色の帯が『益獣』約5000の集団で、赤色の帯が『害獣』約1000を表している」
どよめきが起きた。白点で表された『中の国』の首都が青色の帯のすぐ左側に出現したからだ。
「念の為にこの状況になった原因を説明する。『中の国』の東側で『害獣』に追い付かれた『益獣』の集団は選りに選って進路を西に変えた。原因は偶々西側が下り坂だったからだ。恐慌状態の『益獣』の集団はそのまま『西の国』の防壁を数の力で破った後、そのまま西に向かった。『害獣』はそこで大量の餌を得た。なんせ、防壁を突破する時に傷付いてしまって動けない『益獣』がそこら中に転がっていたからな」
俺は全員の顔を見渡した。ここまでは付いて来ている。
「そして現在だ。青色の帯、すなわち『益獣』の集団は『中の国』の首都の東側10㌔の位置を時速5㌔で移動中だ。赤色の帯、『害獣』の集団は時速15㌔でその後方20㌔を進んでいる。防壁のところで大量の餌を食べる為に足を止めた上に途中で『中の国』の迎撃で足止めを喰らったせいで遅れた分を取り戻す為に無理をしたのか、これ以上の速度は出していない」
俺は一瞬、間を開けた。
「『害獣』と『益獣』がこのまま行けば、首都周辺で『害獣』の集団が『益獣』に追い付く」
その事がどの様な事態を引き起こすのかは誰にも分からなかった。
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