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73話 「凱旋」

20160507公開

 最初の頃は怖かった『害獣』と『敵獣』だったが、最近では可愛いと思ってしまう。

 傷付いた子らを何度も治療して上げたり、ラカ経由で命令している内に私たちを“食料”とか“進化の為のにえ”ではなく、“ご主人”と認識した様で、ご機嫌をうかがう様な仕草を見せだしているせいかな?

 今も『ワカイノ』の1頭が頭を下げて、撫でて欲しそうな素振そぶりをして来た。喉もゴロゴロと鳴らしている。こうなれば猫と変らない。 

 あ、この子、最初の戦いで右手を裂かれていたのを治療した子だ。

 結構深手だったけど、その後は傷付く事無く無事に生き残れたようだ。


「よしよし、いヤツよのう。おぬしのことを『たま』と名付けよう。これからも精進しょうじんするのだぞ」


 笑顔を浮かべてそう話し掛けながら『たま』と名付けた『ワカイノ』の頭を撫でた私を、あずやんが呆れた顔で見ていた。



 


 第127中隊のフラ中隊長が関係各部署への報告と通告と補給の要請、並びに俺たちが通る路筋みちすじに先触れの兵を送る命令を下している間に、俺たち人間は夕食を摂る事にした。

 『ラカ・クヌ・ナク』の群れの大半は、今日の昼頃に遭遇した外来種の『益獣』の群れを狩ったので問題は無かったが、『ラカ・クヌ・ナク』と『ワカイノ』はそろそろ牛肉が食べたいと言って来ていた。

 フラ中隊長が手配してくれる補給物資の中に牛肉が含まれてはいるが、高級食材とも言える牛肉が簡単に手配が可能とも思えなかった。

 第127中隊が用意してくれた夕食はそれなりの量と質だったが、残念ながら補給物資の集積地も兼ねているキファ砦の『中の国』第2集団第2大隊第1中隊ほど贅沢な物では無かった。

 夕食が終わっても、3㌔北のゲートの通行許可が下りなかった為に結局はこのままここで野営する事になったが、移動と戦闘が続いたせいで蓄積した疲れが取れた事は良かったのかも知れない。

 翌朝の朝食が終わる頃にやっとゲートを通る許可が出たが、考えればこれでも早いと言えた。

 なんせ、1300頭もの『害獣』と『敵獣』の集団が堂々と国内を通行するのだ。

 万が一の事を考えれば、通常であれば許可は下りないだろう。

 だが、『中の国』の危機的状況と、俺たちが『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』と言われる程に上げて来た戦果と名声、更には1000頭もの巨大な『害獣』を打ち破った事も早期な許可に繋がった様だった。


「ノブナガ殿! やっと手配が出来ました! 10頭分の牛肉ですが、15㌔東に在るトテの町で受け取れます!」


 ゲートをくぐって、『中の国』に向かう俺たちに走って追いかけて来たフラ中隊長が息を切らして伝えてくれた。


「ありがとう、苦労を掛けたな」

「いえ、これくらい、1000頭もの巨大な『害獣』を相手にする事に比べれば、どうって事ないです」


 そして彼は、『西の国』式の敬礼をした。

 俺も膝突ひざつきの馬上から自衛隊の敬礼で応える。


 牛1頭当たり150㌔ほどの食肉が取れるから、10頭だったら1500㌔の牛肉が取れる。

 『害獣』は1回の食事で1頭あたり2㌔弱、『敵獣』で10㌔強を食べる。となると牛10頭分だと十分に足りる計算になるが、『害獣』には回らない。まあ、『益獣』の肉をたらふく食べていたから無くてもいいだろう。

 

 『西の国』国内を通る俺たちを警護というか、野次馬を近付かせない様にする為にわざわざ1個中隊が割り当てられた。

 先遣隊が先行して、交通整理とこれから通る『害獣』と『敵獣』は味方である事、その群れを率いているのが『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』の俺である事を周知していた。


 トテの町は前線に送る物資の集積と配分を行う町と言う事も有り、かなり大きな町だ。

 そこで働いている民間人も多く、俺たちが近付くと町の外が野次馬で黒山の人だかりになっていた。

 駐留している部隊が整理しているが、大変そうだ。

 まあ、他人事ひとごとではないんだが・・・


「112中隊隊長のフキです。さすがに町の中を通ると収拾が付かない騒ぎになりますので、もう少し行ったところで補給物資をお渡ししますが、構いませんか?」

「ああ、構わない。それよりも大丈夫か、あれ?」


 俺の視線を追う様にフキ中隊長が野次馬の集団を見た。


「なんとかなるでしょう。第一、『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』の武勇は鳴り響いています。そこに更なる凄い武勇伝が加わったのですから、その姿を一目見たいと思うのは当たり前ですし」


 確かに・・・

 誰が想像出来るというのだ? 

 疎開作業を支援していたと思ったら、1300頭の『害獣』と『益獣』を従えて戻って来た・・・

 しかも、1000頭もの外来の巨大な『害獣』を撃破して・・・


 うん、無理だな。

 マンガなら有り得るが、現実にそんな事が起き得ると想像出来る人間は妄想癖を疑った方がいい。


 俺たちの噂は、俺たちの行進速度よりも速く伝わった様で(ネットも電話も無いのに軍事行動よりも速いってどんだけなんだ?)どんどんと沿道の野次馬が増えて行った。

 『中の国』の最西端の平野部に造られた『西の国』仮首都に着く頃には、お祭り騒ぎに近かった。

 だが、久し振りに会ったナジド王の表情は、厳しいものを浮かべていた。

 労いの言葉もそこそこに、最新の状況を教えてくれた。



「『中の国』の首都がこのままでは危ない」  

お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m



 新たにブックマークをして頂いた方には、執筆意欲を増やして頂いた事に感謝を m(_ _)m

 また以前にブックマーク並びに評価をして頂いた方には、これまで支えてくれた事に感謝を m(_ _)m

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