72話 「緊急帰還要請」
20160505公開
「織田店長、朝食を作りましょうか?」
私は、後から考えると無謀にも食事当番に名乗り出た。
昨日の晩にチエッチに入れ知恵をされたからだったが、言った途端に自分が実は手料理があまり得意ではない事を思い出した。母親の代わりに日本ではよく夕食を作ったが、どちらかと言えば惣菜を買ったり、冷凍食品を使う事が多かった。
しまった・・・・・
織田店長はやんわりと断った上で、豪華な朝食を作ってくれた。
元々10日分の食料を持って来たのに、明日で“遠征”が終わる為に余るからだった。
はい、リミッターを外した朝食は美味しゅうございました・・・・・
俺たちが『西の国』が建造した防壁に辿り着いたのは6日目の夕方頃だった。
俺が提案した『西の国疎開計画』に基づいて、この1年間で造られた防壁は合計すれば200㎞に及ぶ。「万里の長城」には遥かに及ばないし、一部は木造の部分も混じっているが(『ラカ・クヌ・ナク』の群れはまさしくその弱い部分から侵入していた)、それでもこの世界では最大規模の土木事業だった。
そして、防衛線を大幅に縮小した事により、防壁の建造の為に投下された資材は密度を上げて要所要所で強固な防壁を産み出した。
高さ5㍍を超える強化煉瓦作りの防壁は、並みの『敵獣』が率いる群れでは突破は不可能なレベルになっていた。
「ノブナガ殿、お待ちしておりました! 陛下より急ぎの書状を中隊長が預かっております。中隊長をお呼びしますので、今しばらくお待ち下さいませ」
防壁と一体になった側防塔の胸壁から大きな声が投げ掛けられた。
「分かった。中隊長が来るまで、ここで休んでいる」
防壁の上に多数の兵士が俺たちを見る為に鈴なりになるまでそれほどの時間は掛からなかった。
なんせ、人類がすぐそこに居るにも拘らず、驚くような数の『害獣』と『敵獣』がそれを無視するかのように身体を横たえたのだ。
そんな無防備な『害獣』と『敵獣』の姿を見た人類は少ない。
今回の遠征前に補給をしてくれた『中の国』第2集団第2大隊第1中隊くらいだろう。
5分ほどが経過した頃に指揮官が到着した。
「ノブナガ殿、127中隊指揮官フラです。早速ですが、陛下からの書状をお渡しします」
「分かった。今行く」
俺はそう言った瞬間に、『膝突』から飛び降りて防壁の方に走った。
あっという間に時速50㌔まで加速した。秒速で言えば14㍍近い。
自分自身の弾道計算から踏み切った地点は防壁から10㍍は離れていた。
計算に間違いは無かった様で、側防塔の胸壁内に俺は無事に着地した。
「しかし、凄いとしか言えませんね」
「まあ、おかげで助かっているがね」
ぽかんとした表情を浮かべた後、フラ中隊長が苦笑交じりで話し掛けて来たので、俺も苦笑交じりで答えた。
「こちらがつい先ほど届いた陛下からの書状です。よほど確実に渡したいのか、この辺り全ての中隊に同じものを送った様です」
「ただ事じゃないな」
その場で開封して、中身を読んだ。と言ってもこちらの文字は読めないので俺の視神経に入り込んでいるピコマシンの情報を基にインターフェイスが翻訳してくれるだけだが。
「『中の国』に関する詳しい情報や噂は?」
「情報が錯綜している為に断言は出来ませんが、かなりヤバい様です」
「ああ、ヤバいな。広範囲で防壁を破られた。こっちに増援された部隊には『中の国』への派遣命令が来る」
「そんなにヤバいのですか?」
「ああ」
「ですが、こちらも『害獣』の集団が押し寄せて来るので、それほど回せませんよ?」
「その事だが、こっちに来ていた集団のかなりを潰した。残っているのは3割くらいの筈だ。特に大きな方はほぼ潰した」
フラ中隊長の顔は見物だった。
たった数日で、1000頭もの巨大な『害獣』集団を壊滅に追い込んだと言われた訳だからな。
「そう言う訳で、俺たちも『中の国』に向かう。一番近い門は?」
「3㌔ほど北に有りますが・・・」
「ナジド王の要請には、『貴殿と仲間の速やかなる帰還を望む』と書かれている。外に居る『害獣』や『敵獣』の集団のボスは俺だ。ちょっと言い訳と言うには苦しいが、仲間とも言える。防壁の中に入れて貰う」
驚きの余り、しばらく言葉を失ったフラ中隊長だったが、ようやく発した言葉は掠れていた。
「・・・・・・・・・『女神様が遣わしてくれた神の兵』・・・・ 今、その言葉の本当の意味が分かりましたよ」
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