63話 「ラカ・クヌ・ナク集団の戦い」①
20160422公開
特等席だったてんちょーの後ろの座席から『ラカ・クヌ・ナク』の背中に移された時はさすがにショックだったが、仕方が無いと言えば仕方が無かった。
私たちの安全を優先してくれた判断だし、てんちょーと士長という飛び抜けた戦力を有効活用するにはこれしかない。子供じみた抗議をしても逆効果だ。押す時と引く時を間違えては、難攻不落のてんちょーは振り向いてくれない。
それにインターフェイス経由の会話はかなり離れていても通じるし、風の音の影響を受けないから普通の会話よりもきれいに聞こえるからヨシとしよう・・・
昔、テレビか何かで放送されたアフリカで撮られた動物の大移動の映像を思い出す様な光景だった。
確か数千頭のヌーか何かの大移動だった筈だ。
畑にするには高低差が有り過ぎる荒れた大地を5千頭の『益獣』が押し合いへし合いしながら進んでいた。
「てんちょーさん、ごめんなさい。もっと早くに気付いていたら良かったんですけど」
『益獣』の大集団を避ける為に進路から逸れた高台に辿り着いた直後に千恵ちゃんが謝って来たが、それは逆だ。
「いや、千恵ちゃんが謝る事は無いよ。むしろ助かった。普通なら間に合わなかった筈だからね」
そう、千恵ちゃんが水平線の向こうに居る『益獣』の群れに気付かなければ、今頃はあの群れに呑まれていただろう。突破は可能だろうが、こちらも無傷とはいかなかったと思う。
「まあ、今は自然の驚異ってヤツを楽しもう」
「はい」
だが、思ったよりも移動速度が速い。
ここまでに要した日数から考えるともっとゆっくりとした速度だと思っていた。
もしかすると『害獣』の群れが近い可能性も考えられる。
「士長、移動速度が速くないか?」
「ええ、自分ももっとゆっくりと移動しているものだと思っていました」
「近いな」
「多分」
「『ラカ・クヌ・ナク』、群れに警告を出してくれ。意外と早く接触するかもしれん」
「ワカッタ」
俺は『益獣』たちがやって来た方を見詰めた。この高さから見える範囲は15㌔は有るだろう。時速36㌔で走っているとしたら、発見から25分で目の前を通る計算だ。
「視力強化」の魔法は結構便利だ。何と言っても解像度が上がる事で視力が向上するので双眼鏡とかと違って視野が狭くならない。
だから、こういった敵が現れる方向を絞り切れない時には便利だ。
「来たぞ」
10頭くらいの群れが『益獣』が辿った跡から少しずれた位置から現れた。それから次々と同じ様な規模の群れが姿を現す。移動速度は時速30㌔弱だろう。
それが、瞬く間に大群になっていった。
これは結構厄介な意味を持っている。
この島の野生の『害獣』は、1頭でも狩りをするし、群れたとしても大体4~5頭くらいまでだ。
それを上位の存在の『敵獣』が支配する事で大きな単位にして使役するが、コイツらは最初から10頭単位の群れを形成している。
わざわざ群れるという事は、連携もして来ると考えた方が良さそうだ。
単体では8Gの『大型害獣』が10頭も群れると単純な足し算の80Gでは無くなる。
俺の横に並んだみんなも敵の群れをじっと見ていたが、石井青年が呟いた。
「硬そうですね」
「ああ。下手な小細工は悪手だな。『鋒矢の陣形』で行こう。幸いにも縦に長くなっている様だ。分断は可能だな。あの少し広めの平坦になっている場所で後ろ1/3のところを噛み破ろう。千恵ちゃん、進路の指示を任せた」
「りょーかいです、てんちょーさん」
俺たちが平地に降りて陣形を整えるの要した時間は13分だった。
高台の裏手に身を潜めてタイミングを計っているが、そろそろ頃合いだろう。
この位置からでも足音が聞えて来ていた。
≪みんな、準備はいいか?≫
≪いつでもどうぞ≫
≪行けます≫
≪イケル≫
≪千恵ちゃん、タイミングは任せる≫
≪りょーかいです、てんちょーさん・・・・・ 5,4,3,2,1,今です≫
俺たち人間4人を含んだ群れは、高台を回り込みながら徐々に速度を上げて行く。
『害獣』の集団から『大型害獣』3個の群れがこちらに向かって来た。
とはいえ、群れ同士の連携は見られないし、集団にも変わった動きは見られない。
そのまま前辺を固めている『大型敵獣』の戦列にぶつかって来たが、あっさりと弾き飛ばされた。
『敵獣』と『害獣』では、同じ体長でも体格も身体能力も大きな差が有るのに、『大型敵獣』より一回り小さな『大型害獣』では勢いを殺し切れない。
弾き飛ばされた『大型害獣』の半数近くが傷を負っていた。
≪『ラカ・クヌ・ナク』、『害獣』の半分を回して、掃討してくれ≫
≪ワカッタ≫
こうして、『ラカ・クヌ・ナク集団の戦い』が始まった。
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