6話 「ピコマシン」
20160221公開
人間離れした登場で姿を現した女性は人間では無かった。
ただのインターフェイスだった。
彼女の説明によれば、彼女を形作るのはそれこそ無数としか表現の仕様が無い数の、極少の物質の集合体という事だった。俺でもナノマシンくらいは知っている。癌の治療に使える技術が開発されそうだという新聞の記事を読んだからだ。
だが、彼女を構成する単位は、ウィルスサイズのナノマシンの更に1000分の1サイズのピコマシンと言ってもおかしくないレベルだった。原子よりも遥かに小さな素粒子レベルのサイズのマシンにどうやって動力を載せたのか?とか、どうやって制御しているのか?とか、突っ込みたい部分は有るが、説明されても理解出来ない世界という事は弁えている。
少なくとも理解出来た範囲で感想を言ってみた。半ば理解を超えた説明に麻痺したせいだった。
「『クラークの三法則』を知っているか?』
「残念ながらライブラリーには有りません」
「この場合、三つ目の法則がぴったりするな。確か『発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』だったかな?」
そう、彼女が語った説明は、俺たちにはSFと魔法の融合としか思えないものだった。
俺たちの文明は数千年を掛けて、太陽系を開発し尽くすほどに発展したそうだった。
だが、文明が発達しても、生物としての人類は限界を迎えつつあった。
そこで提起されたのが、未知の世界に『種』を蒔く事によって生物としてのブレイクスルーを探る計画だった。
万が一、太陽圏の人類が衰亡しても宇宙に蒔かれた人類が再興する可能性に掛ける意味合いも有った。
焦燥感故に暴走した計画は、ある意味人類よりも高位の存在を生み出してしまった。
徹底した観測によってテラフォーミングが可能と判断された幾つかの太陽系外惑星に幾つもの『プラント』が送り出された。
『プラント』は数万年に亘る航宙の間に、自己進化を遂げるように設計されていた。
この惑星に辿り着いた『プラント』は、その時点で自らを生み出した人類を超える技術を開発していた。
その1つが技術の究極とも言えるピコマシンだった。
もう一つが時空に関する技術の開発だった。
『プラント』は目的の惑星に辿り着いた事と、惑星に関する情報を定められた通信手段で創造主に報告をした。
だが、返事は来なかった。
創造主の新たな指示が来ない状況で『プラント』が下した判断は、その後の惑星の運命を変えた。
惑星に生存している生物を絶滅する事は禁止されている為に、自らの構造体に抱えている人類の遺伝子を改造し、更に補助としてピコマシンを体内に常駐させる事にしたのだ。
こうして、この惑星の自然環境に適した人類が誕生した。
最初は問題無く計画は進んだが、数百年が経つ頃には問題が発生した。
人類が衰退し始めたのだ。
それほどにこの惑星の生物は強力であった。
『プラント』は一つの対策を施した。
人類種だけが扱える『魔法』を開発したのだ。
実際は『詠唱』という形でピコマシンに魔法の発動様式を説明をして、それをピコマシンが実現するという工程を踏んでいた。
この惑星の生物に対抗出来る強力な魔法の発動の条件として、この惑星で生存出来るように人類の体内に滞在させているピコマシンの排出が採用された。
魔法を過剰に使用すると、生命維持の為に身体が拒否反応を起こす事で、歯止めを掛けたのだ。
当然ながら、魔法の過度の使用は、食い止められた。
だが、その魔法をもってしてさえも人類は追い詰められていた。
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