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52話 「荒野の戦い」Ⅶ

20160411公開

 さすがてんちょー・・・

 私の短い14年の生涯で初めて意識した異性は眼下でとんでもない戦いを繰り広げていた。

 どうやったら、あんな凄い戦いを出来るのか分からない。

 でも、これだけは分かる。

 あのてんちょーを表す言葉は『英雄』以外には有り得ない・・・・・



 

 俺は先手を取る事にした。加速性能はこちらが上だが、体重差が比べるのも馬鹿らしいくらいに有るので、下手に動かれると運動エネルギーの差だけで不利になる。

 一瞬で間合いを詰めて、ハチキュウの銃剣をヤツの鼻っ面に突き出す。

 銃剣を避ける為に顔面を下げながらヤツは右手を横殴りに振るって来た。

 その手に一旦引いた銃剣でカウンターを放つ。

 狙いはヤツの掌の皮の部分だ。2500℃の高温に耐える部分がどの辺りまで広がっているのか? もしくはどういったカラクリを使っているのか? を知る為に敢えて仕掛けた攻撃だった。

 

 人間は時間さえ掛ければ45℃の物体でも火傷をする。

 だが熱湯では1秒も掛からない。

 俺が知る限り地球最強のタフな生物といえるクマムシは宇宙空間で太陽光をまともに受ける実験でも生き延びた奴が居た。確か宇宙空間で太陽光を直接浴びると120℃から150℃かそこらの温度になる筈だ。人間では裸なら秒単位で確実に耐えられない(それ以前に宇宙線の被爆で後遺症が酷い事になるだろうが)。

 消防士が着ている防火服でも、十数秒で着ている人間が耐えられなくなる温度が確か1000℃だった。

 火葬場の焼却炉でさえ1500℃だ。

 そう、生物は2500℃もの高温に晒されれば、一瞬で接触部の細胞は死んでその周囲の細胞も壊死する。それは『敵獣』でさえ同じだ。

 では、何故、ヤツは耐えられているのか?

 考えられるのは生物離れした細胞を体表に持っているか、それとも人間を喰った事で取り込んだピコマシンを何らかの形で利用しているかだ。


 銃剣は皮を引き裂いて、火傷を負わせた。

 ほとんどタイムラグ無しで左手が振るわれた。

 その時には俺の身体は2㍍後ろに跳んでいたので、それは空振りに終わった。

 ヤツは右手の火傷を負った切り傷に下の2つの目の視線を向けて、その後で4つの目全てでこっちを睨んだ。


 銃剣が皮に刺さった瞬間はバッチリと見させてもらった。

 他の『害獣』と変わりは無い。

 となれば、次に試すのは体毛の生えている部分だ。


 俺はひたすら突き、躱す、突く、躱す、躱す、躱す、突く、突・・躱す、躱す、躱す、躱す、突く、躱す、躱す、突く、下がる、一息入れる、突進、躱す、躱す、突く、躱す、躱す、突く・・・・・・・


 という事を繰り返した。

 もう何分戦っているのか、さすがに曖昧になって来た。

 結局分かった事は、体毛が濃い所ほど耐熱性が高いと言う事だった。

 多分、炎弾を以前に喰らった事が有るのだろう。そして俺たちの使う炎弾がそれよりも強力な威力を持っている事から対策として体毛にピコマシンを分泌させて炎弾を受けた時に蒸発させる事で本体への被害を軽減させる独自のシステムを作り出したのだろう。違うか?


≪ピコマシンの耐熱温度は?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。回答不可。ですが少なくとも太陽の表面温度には耐えられます≫

≪ヤツの耐熱の仕組みは分かるか?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。ピコマシンを媒介に一種の魔法の発動を確認しております≫

≪魔法? おいおい、それってかなりヤバくないか? 人類だけが持つという前提が覆る。で、どんな魔法だ?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。一定以上の温度を感知した瞬間にピコマシンが周囲の空間の温度を冷却させる魔法です。一度使うとピコマシンのエネルギーが規定値を割る為に自然と休眠状態になる事から一度限りの掛け捨て魔法と分析≫


 何気に恐ろしい事実が発覚した。

 目の前のコイツみたいな奴が大量に現れたら、対処が難しくなる。

 とはいえ、実はそれほど深刻という程でも無かった。

 人類が大量に捕食された最後の惨劇はもう数年前の話だ。

 もし、その時にコイツクラスが大量に発生していれば、その事は把握されていた筈だ。


 ヤツも後半になるにつれて、耐熱されないところを集中的に突かれているので、身体の前面部の体毛が薄い所も含めて無数の火傷を負っている。

 自分でやっておいて言うのもなんだが、ちょっと可哀想になって来た。

 

≪再度、意思疎通を試してくれないか?≫

≪採集サンプルMale-3の要請を確認。実行します≫


 十数秒の時間が過ぎた。

 ヤツの表情が変わった(多分だが。俺はスーパーの店長であって、恐竜みたいな生物の表情が分かる有明海に住んでいるハゼの様な動物博士では無い)。


≪意思疎通の第一段階をクリア。第二段階に移ります≫


 更に数十秒が過ぎた。

 みんなが固唾を呑んで状況の推移を見守っていた。

 俺は視線をヤツに固定し、ハチキュウを構えたまま周囲の音に耳を傾けた。

 西と南の戦いは終わった様だ。乱れているが、それなりの数の足音が南と北からこちらに向かって走って来る音がする。撃退したので応援に駆け付けてくれているのだろう。


≪意思疎通の第二段階をクリア。第三段階に移ります≫


 更に数分が過ぎた。

 周りがさすがに騒がしくなって来た。

 今行われている事がどれほど大きな事かを知らされずにいるからだ。

 もっとも、俺に声を掛けて来る者は居ない。

 俺が戦闘態勢を解いていないからだ。

 戦いは今も続いていると分かっているのに、声を掛ける事は状況を混乱させる要因になると理解している筈だ。

 陣地で交わされる小声の会話が微かだが聞こえる。

 いや、千恵ちゃん、特大の炎壁を出す用意しなくていいから・・・・・・・


≪意思疎通の障害を全てクリアしました。人類に準じる知性は有りますが、知識は偏っています。その事を前提とした意思疎通は可能です。それと今まで隠していましたが、旧『南の国』沿岸部にこの島の南に存在する大陸から大量の生物が数日前から漂着しつつあります≫



 今日一番の爆弾が投下された・・・・・ 



 

 

 


お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m

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