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51話 「荒野の戦い」Ⅵ

20160410公開

 地味にヤバい・・・・・

 チエッチ、歳の割に意外と策士だ・・・

 『てんちょーって、きっと友達から始めた方が懐にはいれると思うんです。漢字では『戦友』と書くんですけど・・・ だったら、私が『戦友(友と書いて仲間)』に足る能力を示せば、意外とあっさりと認めてくれる気がしますけど、どう思います?』

 チエッチは店長攻略の足掛かりを得た様だった。

 それに対して私は未だ『士長』の攻略ポイントを掴んでいない・・・




 我ながら今回は無茶をしたという自覚は有る。

 ここまでは何とかなったが、さすがにコイツは一筋縄では行かない事は肌で感じていた。

 『益獣ポニー』に乗った騎兵と歩兵の盾と槍が作る壁の中で、最後に残った『敵獣』と俺は真正面から向かい合う形で対峙していた。勿論、ハチキュウは接近戦に備えて銃剣を生やした状態だ。


「みんなは手出しをしないで欲しい。下手に手出しされる方がやり難くなる」


 コイツはこれまでの『敵獣』とは明らかに違う。

 2回りどころか、3回りも大きい体長で、何発か炎弾を喰らったのか体毛がところどころ焦げている。問題はただ単に焦げているだけという事だ。『疎開支援チーム』が放つバリスタの速度での炎弾では遠距離からの攻撃は通らないという事を示している。他の『敵獣』にはダメージが見られたのに、コイツだけは無傷の様に見えたのは隊列のポジションだけでなく、防御力が高い為だったのだ。

 防御力もそうだが、他の『敵獣』との最大の違いは賢そうな雰囲気をまとっている事だ。

 今回の襲撃で特徴的だったこれまでとは隔絶した理性的な行動は、もしかすればコイツが原因かもしれない。


≪もしかすれば、こいつとは意思の疎通が可能じゃ無いのか?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。情報が不足している為に現状では不可能です≫

≪それなら、今、試してくれ≫

≪採集サンプルMale-3の要請を確認。実行します≫


 『敵獣』に向けてインターフェイスが何やらシグナルを送った事に気付いた。

 少なくとも音では無かった。

 多分、光の明滅か何かか?

 今度は耳に聞こえない様な高周波の音を試している。

 その後、数秒間に亘って色々試した様だが、残念ながら実験は失敗に終わった。

 『敵獣』がいきなり突進して来たからだ。

 陣地から援護の炎弾が7つ降り注いだが、効果が有ったのは2つだけだった。

 その2発も浅い。それ以外は角度が悪かったのか、弾かれてしまって地面に穴を開けただけだ。

 この距離でも効果が薄いという事は厄介以外の何物でも無い。まるで戦車を相手にしている気分だ。

 頭の片隅でそんな事を考えながら、俺の身体は反射的に動いていた。

 コイツの巨体が産み出す運動エネルギーをまともに喰らえば、あっさりと吹飛ばされてしまう。

 かと言って、単純に避けると、そのまま逃走に移るだろう。


「コイツの逃走を抑えてくれ!」


 と叫びながら、ギリギリのタイミングで跳躍しながら鼻先を銃床ではたいた。

 ヤツの頭越しに跳んだが、当然の様に尻尾が待ち構えていた。


『まあ、それ位は読んでいるよな』


 と思いながら、こちらも予測していたのでヤツの背中を踏み台にして加速してタイミングをずらす。

 

『俺を踏み台にした!?』

 

 という空耳が聞こえたが、連邦軍のVTOL輸送機が乱入する事も無く、女性士官が宙を舞う事も無く、俺はヤツの背後に着陸すると逆襲に備えて慣性を殺した。

 背後では牽制の為だろう、ハチキュウが放つ炎弾が地面に着弾している音が聞こえる。途中で音が変わるのは『敵獣』に命中している為だろう。その他にも何発か炎弾が命中しているが、そちらの効果は余り期待出来ない。

 振り返った時にはヤツも身を翻したところだった。

 確実にれるなら、炎弾を使うところだが、陣地の上からと違って、俺の位置からなら跳弾したら確実に味方に被害が出る。


≪ハチキュウを改良する事は可能か?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。89式5.56ミリ小銃擬態体は魔法の為に可能です≫

≪なら、ハチキュウの銃剣部を炎弾と同じ温度にしてくれ。勿論、その他の部分は通常どおりだ≫

≪採集サンプルMale-3の要請を確認。89式5.56ミリ小銃擬態体の銃剣部のみ2500℃にします≫

 

 ハチキュウの銃剣部が炎に包まれた。

 おお、という声が周囲から上がった。

 もう、89式小銃もどきは89式魔銃というか、89式魔剣と呼んでもいい気がして来た。



 さあて、ガチの肉弾戦の始まりだ・・・・・

 


お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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