5話 「採集サンプルFemale-2の死亡」
20160220公開
一体何が起こっているのかが分からない中で、唯一確実な事実は、ばあちゃんが死んだ事だった。
両親を二十歳の時に失った俺にとって、残された唯一の肉親であり、上司であり、生きる気力を再び取り戻させてくれた存在・・・
そのばあちゃんの亡骸を呆然と抱き抱えている俺に遠慮がちな声が掛けられた。
「て、店長・・・ 社長は・・・・・ も、もしかして?」
副店長の佐々木だった。
「ああ、亡くなった。弔いたいが、どうしたらいいんだろう?」
その俺の言葉に重ねるように声が聞こえた。
その声には、聞き覚えが有った。
「採集サンプルFemale-2の死亡を確認しました。これより試料回収を実行します」
その声はここに居る全員に聞こえた様だった。
あちらこちらで不審げな声を上げた後でキョロキョロとしていた。
その様子を確認してから、抱いているばあちゃんの亡骸に視線を戻すと、ばあちゃんの身体が急速に実体を無くしていた。
俺は呆然とその現象を見ていたが、同時に鉄臭い血の匂いも、死んだ時に起こる失禁によるアンモニア臭も急速に薄れて行く。
気が付いたら声が出ていた。
「おい、説明しろ! 何をしているんだ?」
俺の声が聞こえる範囲に居た数人が怯えた様な表情を浮かべているのが視界に端に映った。
「見ているし、聞いてもいるのだろ? 説明しろ!」
再度、声にして説明を求めると、いきなり目の先に女性が現れた。
「採集サンプルMale-3の要求により、これより現在の状況説明を行います。なお、今回採集されたサンプル全員に対しても状況の説明も同時に行いますが、採集サンプルMale-3の許諾を求めます」
「ああ、構わない」
「採集サンプルMale-3の許諾を確認。説明に移行します」
その声が響いた時には、ばあちゃんの亡骸は消えていた。
説明された内容に衝撃を受けたせいで時間の感覚に自信は無いが、1時間ほど経った頃だろうか?
謎としか言えない存在による説明が終わった。
余りにも荒唐無稽な話だった。周りのみんなも同じ様な感想を抱いたのだろう。
全員が納得していない表情をしていた。
「幾つも疑問が有るが、確認していいか?」
「採集サンプルMale-3の質問に可能な限り答える事は可能です」
「お前は機械なのか、それとも神なのか?」
「人類が創りだした機械でしかありません」
「時空を操れる段階で神様みたいなモノだろうに・・・ 次の質問はイエスかノーかで答えろ。俺たちは帰れるのか?」
「答えはノーです。私にも実行不可能な事象は存在します」
一番知りたかった答えは即時に返って来た。
俺たちは、その存在さえも知らなかった未知の惑星に拉致されたのだ。
そして、二度と地球に戻る事は出来ないと言い切られてしまった・・・・・
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