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44話 「迎撃準備」

20160403公開

 福島第一原子力発電所の事故は私たち親子の運命を変えた。いくら想定以上の津波に見舞われたと言っても、その代償は周辺の住民にとって理不尽とも言える心労を与えた。私が知っている人も自殺をした。

 私たち親子も自宅に戻れなくなって、1年後には私の実家に移り住んだ。

 そして、運命は更なる試練を私たち親子に与えた。

 どうして、私たち親子だけがこんなにも悲運に見舞われるのかとふさぎ込んでいた時に、織田店長が『西の国』から戻って来た。

 あの人は異常だ。

 自分の祖母を殺した相手に政治的な落とし前を付けるなんて、余りにも家族への情が無さ過ぎる。

 ましてや、その仇と行動を共にするなんて、私には無理だ。

 だが、彼が戻って来てから言い出した事は私の琴線に触れるものだった。

 それまで暮らしていた家を理不尽な理由で手放す者の心情を分かっていないと考える事も無いような事を提案したのだ。

 私は気が付けば、声を上げていた。

『やる! 私はその仕事をやります!』



≪詳しく教えてくれ≫

≪採集サンプルMale-3の要請を確認。先程の採集サンプルFemale-29の指摘以外にも視界外にも群れが存在します≫

≪全体の群れの数と規模は? それと構成は?≫

≪採集サンプルMale-3の質問を確認。群れの数は17。総数は542。『敵獣』57、『害獣』485≫


 1つの群れで30強。その中に平均3頭以上の『敵獣』が混じっている。

 どう考えてもこのままでは絶体絶命だ。 


≪動きはどうなっている?≫

≪採集サンプルMale-3の要請を確認。投影します≫


 奴らは包囲網を形成しようとしていた。

 厄介な事に明確な指揮系統の存在を示している。

 俺は直ぐに周囲に居る騎兵を使って341中隊と342中隊にすぐに集まるように伝令を出した。


「士長、ここでヤツラを迎え撃つ! 孝也君、あずさ君、こっちに来てくれるかい?」


 さすがに死線を潜った者同士、今では敬称はほぼ使っていない。

 顔を強張こわばらせた岡田兄妹がやって来た。


「思ったよりもヤツラの数が多い。このままでは押し潰されてしまう」


 俺の言葉に2人は顔色を無くした。


「そこで2人には、要塞を造って欲しい」

「店長、要塞ってどういう意味ですか? 五稜郭でも造るのですか?」 


 妹の女子高生のあずさちゃんが質問をして来た。

 要塞と聞いて『五稜郭』を例に挙げて来るとは、噂に聞く『歴女』なのだろうか?


「惜しい。そこまで凝った造りは必要無いよ。まあ、規模としては直径15㍍ほどで、1㍍50㌢を地下に埋めた高さ5㍍ほどの円柱を発泡スチロールで作ってくれるかい?」


 さすがにこれだけでは意味が通じなかったので、インターフェイスが産み出す立体映像を2人に見せた。


「俺たちはその上からヤツラを迎撃する。千恵ちゃんでもいいけど、彼女にはヤツラの監視と障害物の設置を頼む予定なので、無理はさせられない」


 そこまで言った時だった。隊列の前後から騎兵と歩兵が走って来るのが目に入った。

 両部隊の隊長がやって来ると、3分ほどで情報を共有化して、迎撃の為の布陣を整え始めた。

 中央に巨大な円柱を置き、その上に俺たちと両中隊の魔法兵を配置した。

 行動を共にしている2つの中隊はグミ村で多数の死傷者を出したが、その後の強化で以前よりも強力な火力重視の部隊に生まれ変わっていた。

 原因は補充された兵を上回る魔法兵が増強されたからだ。2500℃の炎弾を撃てるようになるには俺が指導しなければならない為に、優先的に魔法兵を回して来たのだ。

 魔法兵を除く2つの中隊をそれぞれ2つに分けて四方に配置した。

 各部隊の指揮を執る司令部用にも上部の直径が5㍍、高さ2㍍の高台を4つ設置した。


 配置を終えたのは、『敵獣』と『害獣』の包囲網が完成したのとほぼ同時だった。

 

お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m


201604030746追記

 先月24日に挫けて一度更新を止めましたが(『おねだりはするもんじゃない事件』)、待って頂いた皆様のおかげで再開出来ました。

 改めてお礼申し上げます m(_ _)m

 また、その後に頂いた評価や感想も本当に嬉しかったです。

 重ねてお礼申し上げます m(_ _)m

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