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42話 「炎弾」

20160330公開

 『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』は我々とは全く違う“人間”だと云う事を思い知らされたのは、『敵獣』の死骸が点々と横たわる広場を見た時だった。

 確かにあの人達が時々見せる怪力も、人間離れした速力も凄い。鍛えている我々でさえ2人掛かりでないと持ち上げられない様な倒木を、少女が1人で持ち上げた光景を見た瞬間は眩暈がしそうだった。疎開する住民の家を包んでしまう魔法も凄いとしか言い様も無い。

 だが、実際に“我々とは違う人間”と思ったのは、あの瞬間だった。

 341中隊のバロ中隊長が、『どうやったら、あれだけの威力を込められるのか分からない』と言っていた意味がやっと分かった。『敵獣』の死骸に残されていた炎弾が直撃した跡を見ると皮には2インチほどの穴が開き、体内も焼かれた跡がいくつも残されていた。

 もっとも、ノブナガ殿が初めて戦った『敵獣』の死骸に残されていた跡は直径4インチでしかも貫通していたそうだから、『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』と云う異名は伊達では無いのだろう。




「ノブナガ殿、宜しければ、お教え頂けないでしょうか?」


 そう言って俺に声を掛けて来たのは、342中隊のヤカ中隊長だった。

 今は次の目的地に向かっている最中で、あと少しで目指す村が見える筈だった。

 俺は『益獣ホース』の上で首を彼の方に向けた。生真面目そうな彼の顔にちょっとだけ緊張感が浮かんでいる。


「召喚者の皆様が使っている炎弾は我々とは段違いの威力を持っているのですが、我々にも使えるのでしょうか?」


 実はその答えは出ている。インターフェイスに質問済だったのだ。

 だが、インターフェイスが抱える矛盾が基で、敢えてこちらからは言わない様にしていた。


「使えるが、運用が難しくなる。君たちが使っている炎弾の3倍のピコマシンを消費する事になる。理由は女神プラント様しか知らないが」


 嘘だった。俺は理由を知っている。

 人類に有利になり過ぎると云う判断で、温度を抑えられていたのだ。

 本当ならば、木炭を使った製鉄の技術が有る段階で1000℃以上の温度に触れている筈だが、実際は焚火程度の温度に設定されていた。

 だが、俺が持ち込んだマッチの着火時の温度2500℃を俺たちの基準とした事で、この世界の人類の基準は変更可能となっていた。

 もっとも、召喚時に最新のバージョンに改造を受けた俺たちと違って、この世界の人類の改造は限界を迎えている。俺たちと同じ威力を出すには1.7倍以上のピコマシンを消費するらしい。体内に取り込んでいるピコマシンの量の少なさと効率の悪さから俺たちの1/7しか撃てない計算になるそうだった。こちらの人類でピコマシンを多く抱えられる体質の者でも30発から40発くらいしか撃てなくなるそうだ。

 

「もしよろしければ、そのう、御教授頂けないでしょうか?」

「構わないが、魔法兵でも30発も撃てなくなるかも知れないが?」

「構いません。牽制にしか使えなかった炎弾の威力が上がる事は大きな意味を持ちますから」 

「次の村の疎開支援が終わったら、時間を作ろう」


 俺の言葉に、ヤカ中隊長は『西の国』の騎乗礼をした。


 疎開支援作業自体は円滑に進んだ。

 『グミ村の戦い』の話が、早くも伝わっていたからだ。

 まあ、グミ村の村人がこの村を通って疎開して行ったのだから、自然と話が伝わっていたから不思議でもなんでもない。

 だが、家の梱包作業が終わってからが大変だった。

 今、村の広場は黒山の人だかり状態だ。

 そのまま疎開して行く筈の村人が、20㍍ほど離れた場所で期待に満ちた目で俺を見詰めていた。

 反対側では341中隊と342中隊の将兵がこれも期待に満ちた目で俺を見詰めている。

 正直なところ、かなり恥ずかしい。

 だが、ヤカ中隊長に炎弾のバージョンアップの手助けをする約束した手前、仕方がないし、疎開して行く村人も話に聞いた『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』の炎弾を見たがったのだ。

 まあ、別に機密でもなんでもないし、生まれ育った村を離れる心労を軽減出来るならお安い御用と諦めるしかない。


「通常、炎と言えばロウソクや焚火を思い浮かべると思いますが、実際はもっと高温の炎も存在します。例えば、太陽です」


 ここで、首を捻った村人が多く発生した。

 実際にこの惑星系の太陽ネオソーラーを見た村人も多く居た。


「我々の母星、地球の主星たる太陽ソーラーとほぼ同じ表面温度ですから、6000℃となります」


 こちらの世界でも『太陽ソーラー』は人類が生まれた『地球アース』の母星として知られていた。

 

「我々は偶々、焚火よりももっと高温の炎を身近に使っていた為に、それを炎弾の基準温度にしています。具体的な温度は2500℃です」


 そう言って、2つの炎弾を発現させた。


「1つは我々の炎弾で、もう1つはみなさんの炎弾です。ただし、我々の炎弾は危険な為に私が直接指導しなければ発現出来ません」


 これはインターフェイスが出した条件だった。

 専門の訓練もしていない人間に扱わせるには危険が高過ぎるので当然の規制だろう。


「さて、そろそろ疎開を始める時間となりましたので、このあたりで終わります」


 そう言って、俺は更に10個の炎弾を同時に出現させた。

 どよめきが起こった。

 合計12個の炎弾を上空に飛ばす。

 一斉にその行方を追って、みんなが上を見上げた。

 俺に視線を戻したみんなの目は希望に満ちていた。


女神プラント様は言いました。『なんじらのらぬこの世界はの望むところでは無い。また、この世界に元から生物いきものも全て絶えた世界を望むものでも無い。苦労を掛けるが、は常に見守っておる故に汝らの全てを賭けよ。また何時いつか相見あいまみえる日がらん事を』と・・・。生き残って、女神プラント様の願いを叶えましょう」


 返事はこれまでの人生で聞いた中で最大の集団の叫び声だった。

お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m



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