閑話休題 リトの忘れられない一日
20160323公開
その日、僕たちの村は、村も村のみんなも、この世から消え去るところだった。
噂で聞いた事のある『女神様が遣わしてくれた神の兵』が9人もやって来た時は驚いたけど、本物の『女神様が遣わしてくれた神の兵』は2人だけだった。
でも、砦の周りを埋め尽くすような『敵獣』や『害獣』の群れをやっつけたのだから、本当にすごい。
しかも、その砦を守っていたのが、僕の伯父さんだったのだ。
そう考えると、なんだか親しみが湧いて来る。
そうそう、9人は独特な顔をしていた。
なんというか、平べったい?
大人たちが話し合っている時に、僕と同じくらいの女の子がやって来て、話し掛けて来た。
歳を訊いたら、僕よりも2つも上だった。
妹のミミにはしゃがんで話し掛けていた。
彼女はミミの名前を訊いた後、背負っていたカバンの中から飴を取り出して僕たちにくれた。
うん、小さい飴だったけどうまかった。
その子は、僕たちだけでなく、村のこども全員に飴をくれた。
その後、彼女たちは魔法を使って、家を1軒ずつ包んでいった。
こんなすごい魔法なんて初めて見た。
だって、水を生む魔法は有るけど、それでもお椀一杯出すのも大変なんだ。それなのに、家を覆う程の石を生むなんて、ビックリだ。
半分くらいの家を包んだ頃だった。兵隊さんが走って来て、なんだかおかしな空気になって来た。
『女神様が遣わしてくれた神の兵』の1人が村長さんの所に行って、しばらく話し合った。
それから、村長さんが僕たちに大きな声で言った。
「『敵獣』と『害獣』がやって来るかもしれない。でも、逃げても無駄だから、この村で死にたいが、逃げたい者は逃げても構わない」と・・・
お父さんとお母さんが、僕たち兄妹を2人で抱き締めて言った。
「死ぬときは一緒だから」と・・・
でも、僕は怖くなかった。
「ミミ、しなないよ? だって、ぷらんとさまのへいたいさんがいるもの」
先を越されてしまった。
「ぼくもこわくないよ」
お父さんもお母さんも、涙を浮かべながら頷いてくれた。
僕たちみんなは邪魔にならなくて、しかも村が見渡せる丘の上に急いで行った。
ちょうど着いた時に、ヤツラが現れた。初めて見た『敵獣』は想像していたよりも大きかった。
1頭目を見た瞬間に、怖くなって来た。
そして、そんな『敵獣』が沢山いた。
『女神様が遣わしてくれた神の兵』が魔法を使い始めた。
僕も使える炎弾だった。でも、僕の炎弾よりも速いみたいだ。伯父さんが昔村に帰って来た時に見せてくれた炎弾くらい速いと思う。最初の炎弾は外れたが、その時に『敵獣』に何発も命中したかのように火花が散った。
え? 炎弾だよね? ぜんぜん見えない炎弾?
その後も見える炎弾と見えない炎弾が『敵獣』にいっぱい命中する。
すごい、すごいや。
周りの大人たちも、一斉に嬉しそうな声を上げた。
さすが『女神様が遣わしてくれた神の兵』の人達だ。
僕の何倍もの早さでどんどんと撃っている。しかも炎弾じたいの力が違うのか、外れて地面に当たった跡から煙が噴き出している。あんな炎弾なんて見た事ない。
僕たちは夢中で応援した。こんなにみんなで大きな声を一緒に上げた事は初めてだ。
でも、『敵獣』は走るのを止めなかった。
広場の半分くらいに来る頃には半分くらいになっていたのに、走るのを止めなかった。
その時だった。僕は初めて『女神様の奇跡』を見た。
いきなり白い柱が何十本と現れた。
一緒に見ていたみんなも思わず『女神様』への感謝の言葉を上げていた。
でも、『女神様が遣わしてくれた神の兵』は『女神様の奇跡』にお構いなしに炎弾を撃ち続けていた。
よほど炎弾の威力がすごいのか、白い柱を突き抜けていた。
びっくりして止まった『敵獣』の足元に魔方陣が現れたと思ったら、いきなり燃え出した。
え? そんな魔法は見た事も聞いた事もない。お父さんもお母さんもビックリした顔をしていた。
『女神様が遣わしてくれた神の兵』の方に見ると、4人が魔法を掛けているのか魔方陣が出ていた。
結局、柱の林から出て来た『敵獣』は5頭だった。『敵獣』の中でも大きい5匹だけだった。
すごい・・・ あれだけいたのに・・・
もう一度、『女神様が遣わしてくれた神の兵』の方を見ると、1人だけ後ろにいた、あの女の子が前に出て来た。あの子も炎弾を撃ち始めたのか、魔方陣が出たり消えたりを繰り返している。
残り2頭になって、勝てると思った時に『あっ! まだあんなにいっぱい来るなんて』という声が聞こえた。『害獣』が知らない間にたくさん柱の林から走り出して来た。
いくら、『女神様が遣わしてくれた神の兵』といっても、今までに撃った炎弾から考えても、「魔素切れ」をしてもおかしくない。
でも、『女神様が遣わしてくれた神の兵』は気にする事無く、今度は『害獣』に炎弾を撃ち始めた。
あ、前にいる1人が走り出して、『敵獣』1頭を倒した。でも、もう一頭とぶつかる・・・
一瞬何が起こったか分からなかった。分かっている事はあの男の人が放り出されたと同時に最後の『敵獣』が倒れた事だ。吹飛ばされた男の人は地面にぶつかる前に身体を捻って、ゴロゴロと転がったかと思えば、何事も無かったかのように立ち上がって何かの棒を構えて炎弾を撃ちだした。
あ、でも右足は血で真っ赤だ。
『害獣』は結局、1頭も生き残れなかった。
だって、最後の『敵獣』が倒れた途端に走る速度を落としたからだ。しかも半分くらいがその後で立ち止まってキョロキョロとしだしたからだ。
最後の『害獣』が倒れた時に僕たちは叫んだ。
泣き出す大人もたくさんいた。
僕は泣かなかった。
ミミと抱き合って、嬉しくてくるくると回った。
お父さんとお母さんが抱き締めて来るまで、くるくると踊るように回った。
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m




