39話 「グミ村の戦い」 中編
20160321公開
『グミの村の戦い』で特筆すべき事は、『召喚者』が持つ圧倒的な魔法をいかんなく発揮した戦術に有った。ただ火力だけに頼る事無く、その火力を活かす為に採用された戦法は、その後の戦いに小さくない影響を及ぼした。
「『敵獣』の集団を視認! 射撃を開始して下さい!」
俺は後方に控えるみんなに聞こえる様に叫んだ。
俺たちの配置は、最前列に俺と石井青年が並んで立ち、左後ろ3㍍ほどに岡田さん親子の3人、右後ろに渡辺さん親子と鈴木さんの3人、最後列に千恵ちゃんという陣形だった。
俺の声に対する応えは6条の炎弾だった。
俺たちのハチキュウと違って、弓矢の速度で飛ぶ炎弾の光跡は目で追える速度だった。
それでも秒速は200㍍を超える。1秒後には『敵獣』の先頭集団の周囲に着弾した。
だが、有効弾は無かった。
「皆様はそのまま撃ち続けて下さい! 士長、先頭から殺るぞ!」
俺はハチキュウの照準を先頭を走る『敵獣』に合わせた。引金を引きながら少しづつ左に振る。
いくら反動が少ないとはいえ、本物の89式小銃なら連射をすれば銃口が上に向いて行くが、このハチキュウにはその様な癖が無い。まあ、再現されたハチキュウの試射をした後で後付した機能だから、設定次第で反動さえも無くせるくらいだ。
2秒間だけ連射をして、もう一度先頭を走る『敵獣』に照準を合わせた。
見出しとねらいが先頭の『敵獣』に重なった瞬間に再び引き金を引きながら再び左に振った。
この2回の連射で、先頭の『敵獣』と向かって左側に居た2頭の『敵獣』の動きが明らかに鈍った。
「動きが鈍った『敵獣』を狙って下さい」
答えは動きが鈍った『敵獣』への集中砲火だった。
俺と石井青年はその間も『敵獣』への連射を継続した。
それでも俺たちの攻撃が削れた『敵獣』は半数にも満たない。
何度も先頭を入れ替わりながら、半数以上の『敵獣』が開けた広場の半分ほどに差しかかった時に、俺は後方に向かって叫んだ。
「千恵ちゃん、頼む!」
いきなり広場に幅30㍍弱、奥行き10㍍強の円柱の林が出現した。
鈴木千恵ちゃんが、『家屋梱包』の魔法で慣れ親しんだ発泡スチロールを直径50㌢・高さ5㍍の円柱に変換して、一気に林立させたのだ。円柱は固定の為に1㍍は地中に埋め込まれていた。
円柱は左右20本の円柱を左右1㍍離して1列として、前後5列で列の間は2㍍ほど離れしていた。
更に前後の列では直進出来ない様に不規則にずらしてあった。
要するに、『家屋梱包』の魔法で生み出される発泡スチロールを足止めする為に広場に展開したのだ。
1本の円柱で使われる発泡スチロールは1立方㍍しか使われていないが、それでも消費されるピコマシーンは炎弾並みだ。50発分の価値が有ったのかはこれから分かる筈だ。
「てんちょーさん、これでいいですか?」
「上出来だよ、千恵ちゃん」
俺たちはいきなり出現した林に戸惑って、思わずスピードを落とした『敵獣』を狙い撃ちした。
発泡スチロールは知っての通り、火に弱い。
なんせ融点は100℃にも満たない。この事を知らない日本人は居ないだろう。
そして、俺たちが今使っている攻撃方法は炎弾だ。
面白いように円柱を撃ち抜いてそのまま突進速度の落ちた『敵獣』に命中する。
「渡辺さん、岡田さん、頼みます!」
完全に足が止まった『敵獣』の足元に魔方陣が4つ出現した。1秒後に魔法が発動し、更にすぐに次の魔方陣が出現する。
こちらの人類では消費するピコマシンが多過ぎる為に滅多に使われない魔法、炎地だった。
4人でそれぞれ3発放ったところで、やっと『敵獣』も自分達が罠に掛けられている事と打開策に打って出たのか、発泡スチロールの林の突破を図った。
衝撃吸収性に優れるので意外と発泡スチロールは丈夫だ。大人の腕1抱えも有る直径50㌢もの太さの円柱ともなれば、簡単には倒せない。倒そうとしたが加速し切れない為に動きを止められた『敵獣』を確実に仕留めて行く。
発砲スチロールの林を抜けられた『敵獣』の数は5頭だった。
だが、俺たちとの距離は90㍍を切っていた。
そして、『害獣』100頭がまるまる残っている。
戦いの行方はまだ決まっていなかった。
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