4話 「制圧」
20160219公開
20160316一部描写追加
多分、俺の身体は時速50㌔を超える勢いで後方に吹き飛んだ気がする。
十数㍍程後方でやっと足が地面に付いたが、勢いを殺し切れずに更に数㍍転がった。
自分の身体に異常が無い事を確認しながら立ち上がると、先程俺が手首の腱を切った奴が大きな罵り声らしい叫びを上げた後に右手の手首を左手で握り締めていた。バディを組んでいたもう一人が前面に出て、手首の治療に取り掛かった奴を援護している。
俺はそれどころでは無い焦燥感に駆られて、ばあちゃんの様子を伺った。
目に入ったのは、逃げ惑うみんなを捕まえようとする金属鎧の集団だった。
多分、俺の34年の人生で一番怒りが込み上げた瞬間だったと、冷静になった後で気付いた程に理性が吹き飛んでいた。
気が付くと、目の前に、近所に在る中学校の制服を着た女子中学生を捕まえようとしていた金属鎧の姿が在った。気が付いたらに怒りにまかせて右手が出ていた。
いや、普通、剣を持って金属鎧を装備した剣士を相手に素手で戦うなんて選択肢を選ぶ事は無いだろう。だが、冷静な部分は確かに極小さいながらも有るのだが、心の中はかなり怒りに満ちていた。俺はどこかに恐怖心を置き忘れていた。
さほど抵抗を受けずに振り抜かれた右の拳は金属製の兜をあっさりと撃ち抜いていた。
俺のパンチを受けた金属鎧は不自然という形容が出来るほど、力が無くなったかのように垂直に崩れ落ちた。
女子中学生と目が合ったが、恐怖の余りか、呆然として動こうとしない。
「危ないですから、離れていて下さい」
そう声を掛けて、俺は次の金属鎧に向かった。
身体が軽いし、信じられない程の速度で身体を動かせる。
おかげで、下手に動くとバランスを崩すし、完全に速度に慣れた訳でも無いので、出来るだけコンパクトな動きを意識しながら確実に金属鎧たちを無力化して行った。
そして、気が付いたら、辺りには誰も立っていなかった。
誰が上げているのか分からないけど、嗚咽が幾つも聞こえる・・・・・
地面に力なく倒れているのは、全て金属鎧姿だった。
呆然としたまま、ばあちゃんの姿を探す。
「ああ・・・」
ばあちゃんの姿を発見した時に思わず声が出た。
一目見た瞬間に、俺は悟ってしまった。
自分が、天涯孤独になった事を・・・・・
覚束ない足を動かして、ばあちゃんの下に向かう。
ばあちゃんの身体から力が完全に抜けている・・・
それでも、俺は最後の希望を抱いて、ばあちゃんを抱き起した。
ばあちゃんの顔は、穏やかだった・・・
きっと、斬られた時は人生で一番痛かった筈だ。
だが、ばあちゃんの顔は穏やかだった・・・
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