32話
20160312公開
20160402『益獣』の呼称を変更
石井青年と話し合って、最終的に俺たちは一度『中の国』に戻る事にした。
『西の国』でしたい事も有るが、それよりもお客様や従業員の様子を見ておきたい。
それに、あまりこっちにばかり居るのも、あちこちから疑心暗鬼の目を向けられる要因になる可能性も存在するからだ。
手紙を読んだ翌日にナジド王と会談をして、幾つかの点で意見を述べて、その日の昼過ぎには出発した。
意外だったが、王都の民の見送りが結構な規模になった。
それなりに名が売れたせいだろうか?
「まあ、『神の兵』ですから、自分たち」と石井青年も苦笑いをしていた。
『中の国』への道中で俺たちは、騎乗用の『益獣』(地球では小型の馬の総称だったが、こちらでは体高2㍍にもなるのに何故かポニーというらしい。顔の印象は遠目には長く良く動く耳のせいでウサギっぽいが、近くで見ると目は黒目勝ちで、顔自体の造形は確かに馬っぽい気もしないでも無い)に乗る練習を続けた。
『中の国』の王都に着く頃にはそれなりに乗れる様になったが、これは俺たちの筋が良い訳では無く、『益獣』のおかげだ。
ナジド王が貸してくれた2頭は軍用にするには大人し過ぎるというか、臆病過ぎる性格だったが、初心者には扱い易い『益獣』が選ばれていた様だった。
王城に着くと幸女王から呼び出しが掛かっていた。
旅の汚れも落とさずに、その足で案内役の兵士に連れられて、女王の執務室に向かう。
久し振りに会った妹は、執務室の真ん中で立って待っていた。
そして、にこやかな顔で挨拶をして来た。
「おかえり、おにいちゃん」
おお、俺の人生で初めてのセリフを言われた気がする。
いや、その前に、今のは日本語だったが、その割には片言感が少なかった。
「えーと、ただいま。日本語が上手くなっていない?」
素直に疑問に思った事を訊いてみた。
「みなさんと一緒の時間を作る様にして、日本語を少し習ったの。辞書作りもお願いしたし」
さすがに長い文章はこっちの世界の言葉だった。
だが、意外というか、どうして日本語を覚えようと思ったのだろう?
いや、それ以前に口調が砕けているというか、柔らかい。
「仲良くしてくれる事は嬉しいけど、どういう心境の変化だい?」
「簡単に言うと仲良くした方がメリットが高いからかしら」
「うん、その通りだな。余所余所しい扱いをされると変に拗れるし、良い判断だと思う。特に最初にショックを受けた訳だし。それに女王様は日本人そのものの外見だから、馴染みやすい点も重要だな」
「おにいちゃん、みゆきでいい」
いきなり日本語を使うのは止めて欲しい。
結構破壊力が有る。
一瞬言葉が出なかった。すると横でクスっと言う笑い声がした。
忘れていた。
「では、非公式な場では妹としてのみゆきと呼ぶ事にするよ。まあ、公式な場ではちゃんと女王様として扱うけど。で、紹介が未だだったけど、こちらは『西の国』に一緒に行ってくれた石井孝義君。頼りになるパートナーで、かなり助けてもらっている」
「紹介に与りました石井孝義です。以後お見知りおきを」
「『女神様が遣わしてくれた神の兵』のイシイ様ですね。お噂は聞いています。こちらこそ、よろしくお願い致します」
うん、我が妹ながら、優雅な仕草で礼をされると、さすが王族として教育されただけあるなと妙な感心をした。
「良ければ、どんな噂かを訊いてもよろしいですか?」
「そうですね、『敵獣』に囲まれて、絶体絶命の砦をたった2人だけで助け出したという感じですね。そしてクライマックスの『おにいちゃん』と『大型敵獣』の一騎討ちで、遂に『おにいちゃん』が『大型敵獣』を魔法で討ち果たすところは聞いた人間全てが拍手喝采という話です」
「良かったですね、店長。順調に勇者に成れそうですよ」
「いや、ゲームじゃないから・・・」
なんだろう、この感じ?
意外な事に心地いい。
これが血を分けた肉親が持つ力なのだろうか?
少しだけだが、肩の力が抜けた気がした。
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m




