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31話

20160311公開

 ナジド王の巡察は順調に進んだ。

 あちらこちらの村や町に寄りながら、国民の士気を高めて行った。

 なんせ、ナジド王の命を受けた先行隊が噂を流しているだけに、あの砦の攻防戦で活躍した『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』を一目見ようと人が集まって来るのだ。

 その効果を高める為にも俺たちも出来る範囲で付き合う。

 例えば、町に寄った時に余興で用廃済の木の板をハチキュウで『害獣』の形に撃ち抜いたり、『炎弾』で丸太を撃ち抜いたりする。

 それだけで人々は熱狂した。

 見た事も無い武器を使い、『敵獣』さえも単騎で倒す『女神プラント様が遣わしてくれた神の兵』が味方に付いてくれた事は、国民にとってまさに希望以外の何物でも無かった。


「士長、今更だが、俺は自分で墓穴を掘っている気がするんだが、気のせいだろうか?」

「気のせいですよ、店長。そうそう、面白いものを見付けましたよ」


 そう言って石井青年がズボンのポケットから取り出したのは、20㌢くらいの木で出来たハチキュウらしきオモチャだった。


「思ったよりも精巧に出来ていてビックリしましたよ。えーと確か名前は『神の兵の魔弓』だったかな?」

「ハチキュウも出世したな」


 いや、それを言うなら、たかが小さなスーパーの店長の俺が『神の兵』なんだがな。


「まあ、こうやって戦意向上を図る事も重要か・・・」


 そして、2日間かけて到着した場所は見渡す限りの麦畑だった(正確にはこちらの植物だったが、小麦にそっくりだった)。


われらの国で一番の穀倉地帯じゃ。この平野だけは手放せん」


 そう言って、ナジド王は目をすがめた。

 山がちの国土で、唯一の大きな平野だった。


「ここを失うと、われの国は収穫の半分以上を失う事になる。すぐに国が干上がってしまう」

「なるほど。まあ、この風景を見れば、それも納得だ。だが、分かっていると思うが、ここも最終的に手放して貰う」

「分かっておる。だから、わざわざここに来たのだ。収穫前の絶景をこの目に焼き付けたくてな」


 この平野を確保する為に動員されている将兵の数は8千人を超える。

 『西の国』自体の人口が12万人と云う事を考えると、根こそぎ動員しても1割の1万2千人だ。

 その3分の2を振り向けてやっと維持している事になる。


 王都への帰路は前線に近い街道を使った。

 遠回りになるが、村や町の数も少ない為に足止めを喰らう回数も減る。

 それに前線に近いそれらの村や町の住民にとって、国が自分達を見捨てていない事を知るだけでも効果は有る。

 王都に帰り着いたのは5日目の夕方だった。

 その頃には、『害獣』と『敵獣』の集団が前線をどうやって抜けたのかの調査がひと段落していた。

 結論から言うと、前線に貼り付ける事が可能な兵数が減った事が主な要因だった。

 このままでは同じ事が起き続けるが、限界を超えて動員している為に一朝一夕には兵は増えないから、無い袖は振れない。

 それと、『中の国』から便りが来ていた。

 1通は富田様からで、お客様も今では精神的に安定して来ていて、積極的に魔法を練習しているとの事だ。おかげで、魔法の習熟が順調に進み、このまま魔法師団でも設立出来そうな勢いだそうだ。

 そしてやはり、俺たちの事も噂が流れて来ていて、『なにそれ、どこの勇者様?』だったらしい。

 佐々木副店長から手紙が来ていた。従業員も特に問題は無く、お客様と一緒に魔法の練習に励んでいるらしい。

 最後の1通は幸女王みゆきからだった。

 立場上、ストレートに書かれていないが、心配してくれている事が分かる文面だった。

 もっとも、こっちの世界の言葉は読めない為にインターフェイスに解説して貰いながらの読解の為に正確さに関しては自信が無い。

 そして、俺が依頼していた回答が書かれていた。


 幸女王みゆきが1週間後に、こちらに来る旨、明記されていた。

 彼女にとって、初めての訪問となる。

 そして、ナジド王との会談が行われ、その時に戦線縮小の為の計画が発表になる。

 

 人類が滅亡するかどうかの分かれ目になるだけでなく、『西の国』の国民感情を考えれば発表後の混乱は想定が難しい。

 

 幸女王みゆきが到着するまでにどこまで根回しが出来るだろうか?

お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m

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