3話 「開放しますか? 封印しますか?」
20160218公開
20160220一部表現を統一の為に変更
剣で武装した人間の内、2人がこっちに向かってやって来る。
その間にも扉から室内に入って来る奴らの数が増えていた。
「自分は『スーパー織田』の店長をしている織田信長と言います。改めて、この状況の説明を求めます」
少なくとも、こいつらは人を殺めた事が有るのは明白だった。
その証拠に、俺に向かって来る2人は明白な殺気を持っているし、2人で行動する際の連携の意味が分かっている。万が一、先頭の1人が抵抗に遭っても、後ろの奴がこっちを無力化し易い位置取りをしている。
耳鳴りと表現した方が良いのか、幻聴と表現した方が良いのか判断に悩む音が更に大きく聞こえた気がした。
「HYU!!」
十分に剣が届く間合いに入った瞬間に先頭の奴がいきなり剣を横薙ぎに振るった。
多分、目の色の中に殺人に対する禁忌が無い事に気付いてなければ、そのまま斬られていたと思う。
無意識の内に剣戟を受ける事態に対する備えが無ければ、確実に致命傷を受けていただろうが、俺の身体は反射的に後ろに跳んでいた。
同時にみんなが居る方向から悲鳴が上がった。
着地する寸前に視線を一瞬だけ確認する積りでそちらに向けた。みんなの前に出て両手を広げた老婆が斬られている光景が目に入った。
「ばあちゃん!」
いつも店内では社長と呼んでいたが、こんな状況では仕方が無いだろう。
大学在学中に両親を一気に失った俺を影から支えてくれたおばあちゃんの身体がゆっくりと崩れ落ちて行く。
また幻聴が聞こえた・・・
いや、今度は明確な意味を持った言葉として認識出来た。
≪・・・・・・・・・を解放しますか? 封印しますか?≫
つま先が地面を捉える。
そのままの勢いを殺さずに更に後方に加速する。
先頭の奴がこっちの動きに合わせて更に追撃を掛けて来る。
≪与えられた・・・を開放しますか? 封印しますか?≫
俺の身体の勢いに付いて行けないエプロンが腹の上の部分で斬られる。
そのはずみに、エプロンのポケットに入れていたメモ帳やカッター、はさみが宙を舞った。
≪与えられた力を開放しますか? 封印しますか?≫
思わず空中のハサミを右手で掴んでいた。片や70㌢以上の刃渡りを持つ剣を相手にするには心許ないどころか、渡り合う事を考える事自体が冗談にしか思えないステンレス製の刃渡り15㌢のハサミ。
≪最後の確認です。与えられた力を開放しますか? 封印しますか?≫
多分、「限定」とか、「特別」とかの言葉に弱いのは人間だから仕方が無いのだろう。
その時の俺は、深い意味も持たずに応えていた。
「解放しろ!」
その途端に身体が硬直した。
だが、三の太刀を浴びせる態勢に入っていた目の前の奴も硬直したかのように動きを止めた。
俺の硬直は一瞬で解けたが、剣を振り抜こうとした姿勢で固まっている奴は表情も動かさずに止まっていた。
再びつま先が地面を捉えた。
今度は体重を強引に前に残して、固まったままの奴の懐に入る。
ハサミの刃を拡げて、手首の根元に集中している右手の腱を切った。
命を狙われたとはいえ、殺人に禁忌感が有る限り、これが俺の精一杯だった。
返り血を浴びない様に再度体重を後方に移して跳んだ瞬間に、違和感に気付いた。
何故、血が吹き出ない?
だが、その疑問は一瞬で吹き飛んだ。
何故なら、俺の身体も後ろに吹き飛んだからだ。
おかしい・・・ 全然終わる気配がしない・・・・
と、取敢えず、お読み頂き、誠に有難う御座います。




