26話
20160306公開
ナジド王たちがやって来た頃には、砦を包囲していた『害獣』と『敵獣』は撤退を始めていた。
正直なところ撤退と言うよりも逃走の方がピッタリと来る逃げっぷりだった。
『益獣』にまたがったナジド王が速度を殺し切っていない段階で、俺たちの前に飛び降りた。
「ノブナガ殿、凄まじいとしか言えない戦果だのう。これでは我たちの見せ場が無いではないか?」
確かに周囲の光景は凄まじいとしか言えない惨状だった。
歩くにも困る程の数の『害獣』の死骸が散乱していた。
『敵獣』もあちらこちらに横たわっていた。
結局、俺と石井青年が殺した『害獣』は100頭を軽く超え、普通の『敵獣』も5頭が息絶えていた。
成長した『敵獣』は1頭しか遭遇しなかったが、敵の1/3以上を削れたのは大きな戦果だった。
「ナジド王、さすがに疲れたので、後は任せても良いだろうか?」
「おう、任せてもらおう!」
2人で上げた戦果としては前代未聞だろうが、こちらも人間だ。
体力的にはまだもう一頑張りは可能だが、これ以上は無意味に疲れを溜めるだけだし、注意力の低下から致命的な失敗をしないとも限らない。
「士長、休憩にしようか?」
「そうですね、そろそろしんどくなりましたし、良いですね」
≪何か魔法で食べ物か何かを出せるか?≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。純水を生み出す魔法は有りますが、食糧までは不可能です≫
≪そりゃそうか。分かった≫
周囲への警戒を続けながら、手頃な大きさの石を見付けて座り込んだ。
ナジド王率いる『西の国』軍は掃討戦に入った様で、どんどんと戦いの音が遠ざかって行く。
もうここは最前線では無かった。戦場にぽっかりと空いた長閑な空間と化していた。
「店長、手榴弾も有った方が良いと思いませんか?」
「そうだね・・・ 有れば便利だし、発現も出来ると思うよ。ついでに12.7㎜重機関銃M2も発現して貰うかな?」
「いや、さすがにそれは大人げない気もしますね」
「ミニミ軽機関銃も微妙だしな。あ、そうそう、ハチヨンはもう発現出来るよ」
「店長、それはえぐいですね」
手榴弾はまだ人力任せと自分に危険が及ぶ面はあるが、それでも個人で面制圧や障害越しの攻撃が可能な点は魅力だ。しかも、俺たちの身体能力なら、かなり遠方にまで投げられるので、有れば便利になるだろう。
キャリバー50とも呼ばれる12.7㎜重機関銃M2は大人げないと言うよりも、自分で振っときながら言うのもなんだが、こっちの世界では一方的な虐殺兵器にしかならない気がする。見渡す限り一面に『害獣』や『敵獣』の死骸が折り重なっている風景が見えた気がした。
ハチヨンこと84mm無反動砲は、もともと対戦車用の一種のバズーカ砲だが、色々な使い方が出来るので、これも有れば便利だった。どっちにしろ、これは俺しか使えないので、保険替わりと云う側面が強い。
「まあ、保険だよ。そう言えば、『敵獣』にはロクヨンの方が合うかも知れないなあ・・・」
「そうですね、ハチキュウではちょっと弱いかも知れませんね。でも途中で持ち替えるのも面倒ですし、弾数で圧倒した方が良いかも知れないですね」
「そうだな・・・」
「そういえば店長、成長した『敵獣』との戦いがちょっとだけ目に入ったんですが、もしかして店長って、銃剣道の腕前が凄いんですか?」
「自慢じゃないが、防大時代に全国優勝した事が有るよ。まあ、本物のハチキュウだったら、一発で折れ曲がっていただろうけど」
「確かにそうですね。でも、こっちの世界は自衛隊時代に身に着けた事が役立ちますね」
「とは言え、4人しか居ないから、無理をしない様にしないとね」
まあ、この時には本心からの言葉だったのが・・・・・
俺たちはナジド王が戻って来るまで駄弁ろうとしたが、結局、ナジド王たちが帰って来た頃には馬車に戻って、本格的な睡眠を取っていた。
掃討戦を終えたナジド王と一緒に、包囲されていた砦に入った俺たちはやっと朝食にありつく事が出来た。
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