24話
20160303公開 2/2
後にナジド王が教えてくれたが、俺たちの戦いを丘の上で見ていた幕僚連中は開いた口が塞がらなかったそうだ。
それはそうだろう。
生活魔法の一種である『暗闇に差す光』で俺たちの戦いを見ていた彼らにとって、想像も出来ない戦いが無音で繰り広げられたのだ。
着実に減り続ける『害獣』に対し、俺たちは淡々と作業をこなしている様にしか見えなかっただろう。
俺たちは風下から『害獣』の包囲網を削って行った。
外縁部から幅20㍍、奥行き30㍍を削ると、右隣の風上のゾーンを同じだけ更に削る。
それを3回繰り返す頃には、“無力化”した『害獣』の数は50を超えていた。
だが、4度目の侵入は今までと違っていた。
『前方、敵、大物、2、俺、貴官、同時、攻撃』
なにせ、初めて『敵獣』を相手にするのだ。
89式小銃もどきの火力が通用するのか分からない、全く未知数の相手だ。それも2頭同時にだ。
更に言うならば、『敵獣』の周りには20頭の『害獣』が同じ方向を向いている。
50㍍ほど先で後ろ姿を晒している『敵獣』の位置関係を考えて、ハンドサインを使って、更に攻撃の手順を詰める。
『俺、右、貴官、左、3』
念の為、単射では無く、3点制限点射で行く事を伝えた。
俺のハンドサインを理解したのか、俺から5㍍ほど左側に位置取りをした石井青年が頷いた。
『3、2、1』
3発の小銃弾もどきが2頭の『敵獣』の後頭部を襲った。
だが、危惧していた事が起こった。
ハチキュウの威力では『敵獣』の頭蓋骨を抜けなかったのだ。
「士長、連射に切り替え! 目を潰せ!」
攻撃された事に気付いた2頭の『敵獣』はこちらの位置も掴んだのか、その場で素早く身を翻すと、真っ直ぐにこちらを見た。
左右2対の目の内、内側の2つの目がこちらを見ている。外側の2つの目は左右を警戒しているのか、キョロキョロと表現出来る感じで動いていた。
切り替えレバーを可能な限り速く操作したが、連発に切り替え終る頃には20㍍先まで距離を詰められていた。焦りは無かったが、それでもさすがに心のどこかで『コエー』と思っていた事は事実だった。
『敵獣』の顔に照準が合った瞬間に引金をグッと引いてしまった事はその裏返しだ。
1秒間に10発を超える小銃弾もどきが『敵獣』の顔面を襲った。
骨以外の皮と筋肉と、顔面に配置されていた器官を削り取って行く。
その内の何発かが目から内部に飛び込んだのか、突然、『敵獣』が支えを失ったかの様に勢いを失った。
その身体が地面にダイブし切る前に、俺はハチキュウの照準を左に振った。
石井青年を襲おうとした『敵獣』も同じ運命を辿っていた。
さすがに『敵獣』の周囲に居た『害獣』も気付いたのか、こちらを視認した瞬間に一斉に向かって来た。
後は、連射のままで掃討するしかなかった。
「これ以上は止めておこう。後退する」
石井青年に声を掛ける間にも、次々と『害獣』が周辺から集まって来た。
再度、単発に切り替えた後で、1頭ずつ仕留めて行く。
30頭以上は後退しながら仕留めているが、『害獣』の勢いが止まらない。
10㍍にまで接近された『害獣』を仕留めた瞬間に、嫌な予感がして背中が粟立った。
本能としか言えない何かに押される様に、前方に身体を投げ出した時に、風切音が聞こえた。
そして・・・
あの部屋で感じた様に再び時間が止まった。
≪これはお前の仕業か?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。否定です。採集サンプルMale-3が独自に編み出した脳内作用です≫
俺は一瞬とも言える時間で、嫌な予感の正体の推測と次に取るべき行動を決めた。
身体が地面に着くと同時に前方に転がる様にして更に前に出る。
さっきまで居た場所から10㍍は離れたが、それでも、何かこれまでとは違う危険な存在を背後に感じて両手が鳥肌に覆われた。
「着剣!」
決めた手順だが、反射的に俺は叫んでいた。
強引に身体を反転させて後ろを向いた先には、先程倒した『敵獣』よりも二回りは大きい『敵獣』が居た。
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