2話 「未知の部屋」
20160218公開
石造りの部屋の暗さに目がある程度慣れた頃には、周囲の状況が朧気ながら掴めて来た。
自分の店のエプロンを着た者とお客様であろう私服の者が合わせて数十人ほどがこの部屋に居た。
未だに気分が悪そうにしている者が大半だったが、何人かは立ち上がろうとしていた。
そして、俺自身も立ち上がろうとした。
未だ調子が悪いのか、耳鳴りがする。その影響か分からないが、何かが耳元で囁いている気もしていた。
「皆さまの中で誰か気分が悪い方は居られますか?」
気力だけで立ち上がった俺は、周りを見渡しながら声を張り上げた。
その声に反応した者の中に副店長の佐々木を見付ける。
「佐々木副店長、店員を使ってお客様1人1人の状況を把握してくれ。俺はここから出れないか調べる」
「は、はい」
佐々木副店長は未だに顔色が青いが、こういった場合は、何か仕事を割り振った方が立ち直りが早い。
ついでに、呆然としている店員にも仕事を与えて、お客様よりも先に冷静さを取り戻させる。
俺は近くの壁に向かって、若干ふらつく足を気力で動かして向かった。
大学時代に教育された集団を率いるリーダーとしての心得が無ければ、とてもではないが動けなかっただろう。
壁を構成している石組はかなりの技術を持った集団が存在している事を示していた。
少なくとも、戦国時代並みの技術集団で無ければ、これだけの壁を造れない。
松明を掲げている金具が鉄製と云う事も分かった。そしてその金具が手作りの様に見えた。
そう、工業製品では無い。打ち鍛えられた跡が残っているので、きっと鍛造で作られたものだ。
壁沿いに歩いて確認していると、数㍍先に初めて石と鉄以外の材料で作られている箇所を発見した。形状から扉の様だった。
そこに向かっている最中にいきなり、その部分が動いた。
室内に幾つかの悲鳴が響く。
室内に向かって開け放たれた扉に隠れていたモノを目にした時に、悲鳴の理由が分かった。
左手に松明を掲げながら、右手に剣、どう見ても金属製の剣と思われる長さ1㍍ほどの棒を持った金属鎧の人間が数人、室内に乱入して来たのだ。
思わずその動きを分析して舌打ちが出た。
明らかにプロの動きだった。
金属鎧を着た人物たちは、扉からすぐに左右に散って、死角を潰しつつも脅威となる対象を素早く確認してる。金属部分は関節部を除く全身を覆っていた。関節部分だけは革の様な素材で覆われている。
下手にお客様に注意が向かない様に敢えて声を出した。
「説明を求めます」
俺の問い掛けに反応したのか、全員が一斉にこちらを見た。
少なくとも、大概の日本人には浮かべる事が出来ない色を目に宿していた。
やばい、コイツら・・・ 人を殺した経験が有る!?
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