17話
20160228公開
『顕現』したインターフェイスは、最初に現れた時に着ていた綿素材の様な衣装では無く、白くてヒラヒラとした印象の装いだった。簡単に言えばウエディングドレスもどきだ。
素となった写真は副店長が結婚式を挙げた時の奥様のものだ。俺のリンゴマークのスマホの写真ファイルを素に、それっぽく仕立てただけなのだが、こちらでは全く新しい衣装の様だった。
さすがにベールは元ネタが日本人のみんなにばれるのでしていないが、その代りに最初に現れた時と違って腰まで伸ばさせた髪の毛にラメの様な輝く装飾を施している。
そんな姿で、身体は薄っすらと発光しているし、周りには光の粒子が散りばめられているのだから、神々しいと言える筈だ。
素が美人でこちらでは神様なのに更にこうまで演出したら「馬子にも衣装」では無く、どちらかというと「君飾らざれば臣敬わず」の方がピッタリ来るだろ、田中君?
「最初に言っておきますが、『プラント』殿は単純に人類の味方と云う訳ではありません。『害獣』であろうが、『敵獣』であろうが、『益獣』であろうが、この惑星の生物にも責任を持っておられる立場です」
顔を下げたままのこちら側の人々だったが、想像もしていなかった事情を聞いた動揺が明らかに広がった。
「その事を踏まえて、『プラント』殿の御言葉をお聞き下さい」
≪パターンCで頼む≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。パターンCの『天啓』を行います≫
『我が連れて来し子らよ。顔を上げよ。故有って力を貸せぬが、汝らの居らぬこの世界は我の望むところでは無い。我は常に見守っておる故に汝らの全てを賭けよ。また何時か相見える日が来らん事を』
インターフェイスの声は、俺のスマホに入っていた複数の女性歌手の歌声を幾重にも合成したものだった。高音から低音まで幾重にも合成したおかげで、深みが出ている。
≪よし、そのままゆっくりと消えれば完璧だ≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。『消滅』します≫
インターフェイスは3秒程掛けて消えて行った。
この世界のみんなは信じられないモノを見たという表情をしていた。
自分が信仰している宗教の神様の姿を見る事は地球の宗教でも、ほとんど無かったと思う。
有ったとしても、会った人間は教祖になるが、その弟子というか信徒は見ないのではないだろうか?
それが、目の前に現れたのだ。
その衝撃は計り知れないものが有るだろう。
「これは夢か?」
ぽつりとナジド王が呟いた。
「おい、『客人』! 我が今見たのは夢か? 幻か? それとも本当の事なのか?」
俺は一拍置いて答えた。
「別に夢でも幻でも、お好きな様にお取り下さい」
一番反応を知りたかった幸女王も、さすがに驚きを隠せていない。両親が小さい頃に亡くなった為に、日本の事は余り詳しくないのだろう。一度聞いた日本語も片言だったし、こちらの常識の方が上回っていると考えて良さそうだ。
「ですが、もし彼女が貴方たちが神として崇めている存在ならば、その意思は明白に告げられたと思いませんか? 人類の滅亡は望むところでは無いと」
「だが、どうするというのだ? このままでは言いたくもないが、我の国はもたん。何か方策が有るのか?」
俺はナジド王を見た後、幸女王に目を向けて、再度ナジド王に視線を戻した。
「人類が一丸となれば、手は有ります」
「どんな手が有るというのだ? その様な手が有るならとっくにやっておる」
「先ほどの地図に注目して下さい」
一斉に会議場正面に映されている地図に視線が向いた事を確認した後で、まずは現実を知ってもらう。
≪シミュレーションを開始してくれ≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。シミュレーションを開始します≫
投影されている衛星写真上に無数の青い点と赤い点が出現した。
青い点は偏在しているが、赤い点はどちらかと言うとばらけている。
「青い点は人類です。赤い点は『敵獣』と『害獣』を表しています」
徐々に理解が拡がって行く。
「よく見れば人口分布が都市や村に偏在している事が分かるでしょう」
納得した様なざわめきが拡がった。
始まりはごく小規模な青い集まりとごく少数の赤い点が発生した事だった。
その場所が赤い点で染まった後、写真の上で徐々に動きが出て来る。
島の南に存在する1つの青い点の集まりに、一部の赤い点が集まって行き波の様になった後で触れた。
青い点の集まりが消えた。
そして赤い波は次の青い点の集まりに接触し、また青い点が消えた。
赤い波は北上を続け、山脈沿いに進路を北東に変更した。
その頃には西の方でも赤い波が発生し、青い点の集まりを消して行く。
この頃になると、誰も言葉を発しなくなっていた。
不気味とも言える沈黙の中、写真上の動きが止まった。
「今の状況で止めました。この後は予測ですが、気をしっかりと持っていて下さい」
再び動き始めた赤い波は西方では抵抗を受けてしばらくは膠着状態が続いたが、突如勢いを増して一気に青い点を飲み込んで行く。
西方の青い点を飲み尽くした赤い波は島の中央部に進路を取った。
その頃には東側の赤い波も2波に分かれて半分は島の中央部に、半分は北側に向かって勢いを増していた。
島の全てが赤い点に埋め尽くされるのに時間は掛からなかった。
「いかがでしたか? 少なくとも、自分の予想と大して変わらない結果となりました」
俺の声が、広い会議室の中を静かに広がる。
誰も身動き出来なかった・・・・・
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m