16話
20160227公開
最初に発言したのは佐々木副店長だった。
「えーと、店長、それで我々店員もこっち側の人類に肩入れするって事でいいのですか? 女子高生も居るので、さすがに問題が有ると思いますが?」
うん、佐々木副店長、部下の事を思っての発言は嬉しい。そんな人間になら店のみんなを任せられる。
俺は出来るだけ優しく答えた。
「いや、違うよ、副店長。肩入れするのは自分だけだよ。みんなは参加する理由も、義務も無いからね」
一旦言葉を切る。みんなの表情に安堵が浮かんだ。
「でも、出来れば、自衛の手段だけは習っておいて欲しい。この街に『敵獣』が攻めて来る時に備えて」
「まさかそんな事になるのですか?」
「みんなが考えているよりも可能性は高い。その可能性を少なくする為の肩入れだけど、もう末期状態に近いと云うか、手遅れになる寸前だからね」
「店長、希望する人間は参加可能かね?」
富田さんだった。
「もちろん、その気持ちは嬉しいのですが、いきなりの実戦は訓練していない人間にはきついと思います。さっき言った様に、いざという時の為に自衛の手段を習っておいて下さい」
ちょうど、その時にドアの近辺が慌ただしく動き出した。
どうやら、幸女王が到着した様だった。
彼女は数人の部下を従えて会議室に入って来た。
「では、何か質問が有れば遠慮なく発言して下さい」
会議は冒頭から紛糾した。
それはそうだ。
『中の国』にとっては主権を侵された訳だし、ましてや封印していた儀式まで勝手に行われたのだ。
それに対する幸女王の『西の国』への謝罪要求は至極当然の事だ。
『西の国』は『西の国』で、ナジド王が『中の国』に対して、持っている力を出し惜しみしている場合では無いと逆切れした。
俺はその間にインターフェイスと幾つかの打ち合わせを済ませていたから時間の無駄にはならなかったが、そろそろかな?
「さっきから聞いていると、一向に話しが進んでいない様ですね。巻き込まれた我々にも発言の権利は有ると思いますが?」
俺は立ち上がりながら発言した。ナジド王、そんなに露骨に嫌そうな顔をしないで欲しいものだ。
「客人の気持ちは分かるが、これは我々の問題だ。保護をきちんとする事は女王の名の下で約束しよう」
威厳に満ちた女王の顔で幸女王が答えた。
「ご配慮に感謝を。ですが、皆さんは勘違いしています。これは我々の問題でもあります。保護を与えてくれるのは良いのですが、『中の国』が無くなれば、保護を与えるどころでは無いでしょう。そして、『西の国』が滅べば、数年も掛からずに『中の国』も滅びる事となります」
≪出してくれ≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。投影します≫
会議場正面にこの島の衛星写真が投影された。
いきなり出現した映像にどよめきが起こった。
「これは、まさか?」
「ええ、この島を上空から見た絵です」
「こんな詳細な地図は見た事が無いぞ」
「どうやって・・・ いや、それよりもこれを我の国にくれんか? この地図が有れば軍の行動もかなりやり易くなる」
「ナジド王、許可は取ってあるので、後ほどお渡ししましょう」
「おお、助かる。だが、これほどの技術を持っているとは、『客人』とは凄まじいものだな。それにさっきの力と言い、やはり、呼んで正解だったのではないか、女王よ?」
「ナジド王は呼ばれた者の気持ちを知らぬから、その様な事を言えるのです」
真剣に怒った口調で幸女王がすかさず反論した。
「だが、『客人』、許可とはどういう事だ? お主たちの技術では無いという事か?」
「ええ、違います。我々をこの惑星に連れて来た存在からの提供です」
その場に居た全員が腰を浮かした。
いや、違った。巻き込まれた店員とお客様の46人は会議の行方を大人しく座って見ているから除外される。
「まさか!?」
「本当なのか?」
「本当に『神の御業』なのか?」
一斉に俺の方を見る視線に一瞬たじろいだ。
まあ、そりゃあ、自分達を連れて来た存在を神様扱いしているのだから、そうなるか・・・
≪姿を現してくれ≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。『顕現』します≫
俺のアドバイスを取り入れたインターフェイスが再び姿を現した。
最初に現れた時は地味だったが(人間そっくりの姿なので当たり前だ)、今回は光の粒と云うか「お星さま」と云うか、なんか神々しい輝きを周囲に散りばめている。
本体もうっすらと輝かせている。おかげで雰囲気は完璧に『ザ・女神』という感じだ。
呆然とした後で、さっきまで煩かったこっち側の全員が片膝を付いて、頭を垂れ始めた。
もっとも、俺の後ろに座っているみんなは違う反応だった。
「きれーい」とか、「おお、女神さまだぁ」とか、「やれば出来るじゃない」とか、「こういうのって、馬子にも衣装って言うんですよね?」とか・・・
いや、田中君、それ違うからな・・・・・・・
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m