11話 「怖かったけど、カッコ良かった」
20160224公開
お客様の全員が『解放』を選んでくれた様だった。
「ご気分がすぐれないなどといった症状は有りませんでしょうか?」
念の為に確認すると、全員が首を振った。
一瞬だけ注意した方が良かったかと思ったが、さすがにこれくらいの動作で勢いを付けすぎて首がねじ切れる事は無かった様だ。
「さて、これで皆様も先程の私並みの身体能力を得たと思います。ただし、慣れない状態は大変危険ですので、店員たちと同じ様に慣熟して頂きます。田中君!」
女子高生のレジのアルバイトの子の調子を確認していた田中君がこっちを見た。
あ、ごめん・・・
君の恋路と云うか、ほのかな片思いというか、そう云ったものを邪魔する気は無かったんだ。
本人は隠している気なのだろうが、店長の俺にはバレバレだよ?
ま、そんな些細な事はこの際、関係無い。
「悪いが、皆様の様子を見て上げて欲しい。頼めるか?」
「イイっすよ。えー、それでは、皆様、ゆっくりとこちらに歩いて来て下さい。決して走ったりしない様にお願いします。慣れない内は筋力が上がった分だけ予想よりも勢いが付き易いですからね」
俺は通り過ぎるお客様1人1人に声を掛けながら、頭を下げ続けた。
中には肩に手を置いて、俺を慰めてくれる常連様も居る。
さっきの俺が仕掛けた誘導に乗ってくれた富田さんだ。
俺なんかと違って、ばあちゃんはお客さんに好かれていたからな。
多分、俺よりも先に『選択』を迫られた筈だ。
だが、それを無視してみんなを庇った・・・・・
年齢的にしんどくなって来たので、そろそろ第一線を退こうかしら? と言っていたが、それでも店頭に立ち続けたのは、お客様との触れ合いが元気の源だと思っていたからだ。
俺は小さく頷いた後で言った。
「有難う御座います。ばあちゃんも皆様の安全を第一に考えると思います。ご理解を頂き助かりました」
「おう、気にするな。社長には恩が有る。それに信坊はみんなを守りたいからあんな事を言ったんだろ? それに応えなきゃ、社長に顔向け出来ん」
俺はちょっとウルっとしてしまった。
慌てて、もう一度、頭を下げた。
「ま、それに、防大行ったエリートさんが身体を張って守ってくれたんだ。これからも頼りにさせてもらうよ」
「はい、頑張ります」
みんなの後を追い掛ける富田さんの背中にもう一度頭を下げた。
すると後ろから遠慮がちに声を掛けられた。
「あの・・・ さっきは娘を助けてくれてありがとう」
鈴木さんだった。
その表情はインターフェイスに喰ってかかった時とは別人の様だった。
「それに、今の会話、聞こえたけど、わざとあんな事を言ったのね? 気が付かなくてご免なさいね?」
「いえ、こちらこそ、急に話を振った訳ですし、ご迷惑をお掛けしました」
自然と頭が下がった。
そんな俺の頭に声が降り注いだ。
「てんちょーさん、助けてくれてありがとう・・・・・」
ちょっと人見知りが強いせいで、普段は余り声を掛けてくれない娘さんの声だった。
えーと、声を聴いたのは何年ぶりだったけな?
頭を上げると、母親の後ろに半分隠れていた。
「千恵ちゃん、お礼はいいよ。当然の事をしただけだから」
俺にとり最大限可能な笑顔を浮かべる。
一瞬だけ、母親の後ろに隠れようとするが、すぐに思い返したのかもう一度頭を下げてくれた。
そのまま隠れられていたら、密かに落ち込みそうだったのでホッとした。
「怖くなかった?」
「怖かったけど、カッコ良かった」
え?
珍しく、千恵ちゃんが母親を引きずる様にみんなの方に歩いて行く姿を呆然と見送る。
余り力を込めると、お母さんの手がちぎれるよ?
などとしょうも無い事を考えた時に、インターフェイスが近付いて来たのに気付いた。
同時に、金属鎧の1人が目覚めたのか、力の無いうめき声が聞こえた。
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