1話 「集団失踪事件」
20160218公開
その日、ある政令指定都市で謎に満ちた失踪事件が起きた。
発生日時は2月18日の午後5時24分。
事件が起きた現場は地域に根付いた小さなスーパーの店内。
事件の模様は店内9カ所に設置されている防犯カメラの全てに映っていた。
店内の床一面に大きな魔方陣としか言えない模様が浮かび上がり、その魔方陣が輝いたと思った瞬間にはカメラに映っていた人間が消えていた。
第一発見者及び警察への通報者は、店舗前の駐輪所に自転車を止めて店内に向かって歩き出した買い物客だった。何気なく目を向けた店内が眩しく光ったので咄嗟にしゃがんだが、爆発では無かった様で爆風が襲って来る事も無かった。不思議に思いながら店内に入った時に異常に気付いた。
店内には誰も居なかったのだ。ガラス越しに見えた買い物客もレジの店員も全て消えていた。
被害者は店内に居た買い物客と店員を合わせた47名に上る・・・・・・
10年経った今も、被害者は発見されていない。
くそ! なんでこんなに頭が痛いんだ?
とことん呑んだ次の日の二日酔いでもこれだけの頭痛と胸焼けを経験した事が無い。
俺は酷い頭痛に襲われた上に、平衡感覚を失ったせいで四つん這いの状態で吐き気を耐えるのに精一杯だった。もちろん目を開ける事など出来そうに無い。開けた瞬間にもどす事は確実だった。
聴覚が最初に元に戻ったのか、音が聞え出した。
真っ先に聞こえたのは、周り中で複数の人間がえずいている音だった。
嗅覚も正常に戻りつつあるのか、酸っぱい匂いが鼻を衝いた。
思わず食道を胃の中のものが逆流しようとするが、精神力だけで食い止めた。
店長たる者、店内で嘔吐するなど絶対に許されない。
もっとも、数分後に頭痛もふらつきも収まった後で見た光景は、それまでの俺の努力をあざ笑うかのようだった。
壁や床、天井までも石で組まれた薄暗い部屋だった。
灯りは高さ2㍍弱の場所に5㍍くらいの間隔で壁に取り付けられた金具に差しこまれた松明のみ。
さっきまで天井で店内に明るさを齎していたLED照明に比べて、明らかに暗い。
いや、問題はそこでは無い。
どこだ、ここは?
お読み頂き、誠に有難う御座います。