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離別

 雫、転子、梅が率いる左翼の兵たちは地中から攻めてきた鬼の包囲から逃れるために涼平を殿に独自に撤退戦を行なった。数刻が経過し、すでに太陽は落ち月明かりだけが周囲を照らしていた。


「少しは撒けたのでしょうか」

「恐らく」

「涼平さんのお陰ですわね」

「そうですね。涼平さんが居なければ危うかったでしょう」


 梅と雫は涼平が居なければもっと大きな被害にあっただろうと考える。現在、左翼の兵は疲労はあれど、死者は出ていない。

 だが、涼平とともに殿を請け負った兵たちの状況は未だにわからない。

 殿として涼平は多少なりとも自分たちと距離を開けてその役目を担っていた。少しすれば合流するだろうと思って休息をとっていたが中々戻ってこないことに疑問を抱く。


「涼平さん、遅いですわね」

「何事もなければ……」


 梅と転子が涼平の心配をしているときだった。一人の兵が梅たちの元へやってきた。


「お嬢!」

「どうしました?」

「副長と一緒に居た奴らが戻ってきました!」

「本当ですか!?」


 兵の報告で涼平と共に居た兵が戻ってきたと聞いて、多少沈んでいた皆の顔が明るくなった。

 しかし、その表情も戻ってきた兵たちの様子を見て明るい顔は絶望に染まる。


 戻ってきた兵たちは皆ボロボロだった。簡易的な応急処置はしているだろうが、体には布を千切って撒いており、その布は血が滲んでいる。

 先頭を歩いていたらしい兵が梅たちの前で膝をついて頭を地面につけた。


「副長に命じられ、先に進むようにと……」

「!?」

「鬼子と遭遇し、副長は一人残り……うぅっ!」


 涼平と行動を共にしていた兵たちの目には涙が溢れていた。





























「どうして、こんなのがいるのかねぇ」


 月が周囲を照らす。周囲は鬼の足軽たちの死骸が灰になったものが点々としている。

 部下が持っていた槍を握り、目の前にいる小さな鬼と対峙している。


 殿として後ろを見ていた俺たちだったが、日が落ち始めてから状況が変わった。どうも、鬼たちは執拗に俺を狙っていることに気がついた。そこで数人の兵と共に転子たちとは違うルートで進み始めた。予想通り、鬼たちは俺を狙っているようで、転子たちをガン無視して俺を追ってきた。

 これで時間が稼げると思ったのだが、そこで最大の問題が発生した。

 それが俺の目の前に居るこの小さな鬼だ。


 以前の訓練で兵たちにも話していた鬼であり、あの森親子と剣丞の三人で苦戦した鬼。剣丞からの報告で存在だけは知っており、森親子と戦える鬼が存在できてるってのが胡散臭い気がしていたが……。

 実際、対峙してみれば、まあ、威圧感が凄い。


「鬼が孕ませた人とのハーフねぇ……」


 こいつの気配を察知して、兵たちを逃がすことはできた。他の鬼もこいつが居るからなのかはわからないが増援は少ないし、積極的に俺に攻撃をしてこないので、今のところはなんとかなっている。

 というより、俺を狙っているから鬼子はここから動くということはないだろう。逃した兵は普通の鬼が追いかけていったが、普通の鬼だったらあいつらでも十分に捌けるようには訓練しているから大丈夫だ。

 むしろ、訓練していたからこそ、こうして先に逃がすことができたのかもしれない。


「やり合いたくはないが、お前を放っておけば仲間が被害にあうからな」


 一人でこいつを止めることは難しいだろうが、やるしかないよなぁ。

 気合を入れ直し、手にしている槍を持ち替えてから鬼に向かって槍を全力で投げる。

 投げた槍は真っ直ぐに鬼子に向かっていくが、簡単に払い除けてられてしまう。

 しかし、俺の目的は槍に注目している間に相手に近づくこと。気を全身に巡らせ身体能力を上げ、一気に相手に近づく。


「ゼァっ!!!」


 全力の一刀は腕を切り裂くためのもの。なるべく、こいつの行動力を落とす。

 そのための一刀は見事に相手の腕を切断し、そこから鬼の攻撃範囲から即座に離れる。


「……おいおい、嘘だろ」


 離れてから鬼の様子を見てみれば、切断された腕を傷口に当ててものすごい勢いで傷を癒やし、腕は完全にもとに戻ってしまっている。

 数秒で腕がくっつくとか反則じゃねぇか?

 今まで向こうでもここでも何百と戦ってきたが、切られた腕がくっつく敵とか初めてだぞ。


「ほんと、ふざk……がっ!!」


 景色が変わる。見えているのは草と土。体に来る衝撃から自分が地面を転がっていることに気がつく。


「……っ!」


 しばらくしてから、起き上がり一瞬止まった呼吸を無理やり正す。


「はっ……ごっ」


 呼吸を正すと、口の中が血の味で満たされている。今の衝撃で口を切ったか?

 とにかく、わかったことは鬼の攻撃で思い切り吹き飛ばされてしまったということ。気で全身を強化してなければ骨どころか内蔵ごと潰されていたかもしれない衝撃だった。

 あー、トラックとかで轢かれた時ってこんな感じなのかね……。


 しっかり相手を見ていたが、俺の反応できない速度で攻撃してきやがった。こいつ、強くねぇ?


「ふー……」


 口の中に溜まった血を吐き出し、鬼を見据える。

 ヤツの攻撃範囲から離れても、俺が反応できない速度で攻撃されちゃ意味がない。それにそんな状態で逃げても後ろからグッサリ、あなたの冒険は終わってしまった! なんてのはゴメンだ。

 それにこいつを放っておいたら剣丞隊は崩壊する。

 幸い、敵は目の前のこいつだけ!


「作戦変更だ、ちくしょう!!」


 手足をぶった切ってそのまま逃げる予定だったが、こいつはだめだ。覚悟を決めろ。

 俺がやることは一つ!! 俺が知っている知識、戦闘経験! 全部ここで出して!


「お前をぶっ倒す!!!」


 俺が出せる全てをこいつにぶつける!


 気を全て全身に回して強化する!

 体中が許容以上の気で悲鳴を上げているが反動なんて気にしている場合じゃない!

 なんとしてもこいつだけはここで阻止するんだ!


「かかってこいやぁ!」





















 兵たちが手当を受けながら雫たちに状況を説明した。

 涼平が一人、鬼子の相手をし、自分たちを逃したという情報を聞いた雫たちと共に逃げていた兵たちにも落胆の雰囲気が立ち込めた時だった。


「立ちなさい!! それでも副長が鍛えた兵たちですか!」


 梅が兵たちを鼓舞する。


「涼平さんは先に行けと言いました! なら私達は先に進みましょう!」


 転子も同様に声を上げた。


「あなた達の……いえ、剣丞隊の副長、切銀涼平はその程度の障害払いのけるでしょう! 彼は天の剣! 剣丞さまを守る剣! 必ず戻るでしょう!」

「先に進まず、この程度の兵なのかと思われたいのですか!? 涼平さんとあなた達がやってきた今までを否定するつもりですか!」


 何故かわからないが、梅と転子はこの時、涼平は死なないという謎の自信があった。彼は無事に自分たちのもとに帰ってくるという自信。

 だからこその言葉。その言葉によって、兵たちの目に生きる意思が宿った。


 ここで止まれば、涼平になんと言えばいい。

 あなたが死んだと思って、立ち止まりました? 心配でした? こんなことを言ってみろ。

 副長である涼平はこう言うに決まっている。


『お前たちの頭は剣丞だ。俺が居ない程度で立ち止まるとか、アホか』


 というだろう。

 今は涼平ではない。自分たちは今、自分たちを鼓舞している将たちを、彼女たちを頭である剣丞の元に届けることだ。


「すいません、姐さん。危うく俺たちは間違えるところでした」

「副長も自分たちよりも姐さんたちの命が優先だって言ってたのに……」

「ええ……」

「指示を下さい」

「先に進みましょう!」


「「「応!!」」」


 転子の号令で彼女たちは先に進んだ。絶対に涼平も戻ると信じ、自分たちを待っているであろう剣丞のもとに……。

戦闘シーンはバッサリカット。三ヶ月以上経っても書けないならバッサリとカットしてしまえという諦め。


前回更新から一年になるところでした……。

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