上洛準備
上洛準備中。
そして、鞠ちゃんと出会う。
剣丞が森一家に拉致られておよそ一日が経過した。
剣丞隊の面々は隊長である剣丞が戻らないことに関しては多少心配なりはしていたが、そのうち帰ってくるだろうと言いながら上洛の準備を続けている。
俺は手伝いとして剣丞隊の武器調達や火縄銃の手入れをしていた。この辺は鍛冶屋で世話になっていた分、知識はあったので問題もなく順調に進んで、現在は最終確認を終えたところでひよがやってきた。
「涼平さん、武器は大丈夫ですか?」
「おう、とりあえずはな。早合も一応作っておいたが、数はこのくらいあれば十分か?」
「うわっ! 十分過ぎるくらいですよー!」
用意した数を纏めた物をひよに渡して俺の大まかな作業はこれで終わり。
「ひよところの方は順調か?」
「はい! あとは親方が戻ってくれば終わりです。涼平さんもありがとうございました」
「武器の調達と手入れくらいしかできないけどな」
「適材適所ですよ! 涼平さん!」
「それもそうだな」
「でも、涼平さんって妙に隊の訓練とか手慣れてますよね」
「ああ、昔に部隊を持ったことがあってな。規模は小さいがかなりの武闘派揃いだったよ」
武闘派揃いにしたと言ったほうが正しいのかもしれない。剣丞隊に行っている倍以上の訓練をしてたし、部下の皆はなんだかんだ俺と同じようなメニューをこなしていたからこその実力かも知れない。
雷華とか元気かなぁ……。
あまり考えてはなかったが、こちらに来てから二年ちょっとという時間が過ぎている。
向こうでの時間の流れがどうなっているかわからないが、雪蓮と梨晏が暴走してないかが心配だ。
冥琳あたりが宥めてくれていると信じよう……。
「おっ?」
「どうしました?」
「剣丞が帰ってきたな」
近くに剣丞の気配を感じ、それをひよに報告するとパッと笑顔になって剣丞を迎えに向かう。
それに剣丞と一緒に知らない子がいる?
ちょっと気になったので見に行ってみると、剣丞と一緒に小さい子が一人立っている。
「おかえり、剣丞。この子は?」
「今日から剣丞隊に入る子なんだ。鞠、挨拶して」
「はいなの! 鞠の名前は今川治部大輔氏真、通称は鞠っていうの! よろしくなの!」
「俺は切銀涼平だ。涼平でいいぞ。よろしくな、鞠」
剣丞が連れてきた子は随分と礼儀正しい子のようだ。
優しく頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めて、撫でられている。
あー、この子を撫でてると明命を思い出すなぁ。
「涼平、くすぐったいのー!」
「おぉ、すまんすまん。で、剣丞。この子はどうしたんだ? 氏真っていえば、今川の現当主だろう?」
「あ、やっぱり知ってるんだ」
「貴族だぞ。名前は聞くさ」
日本史を学んでいれば名前を知っている人は多いと思う。なんか、ファンタジスタとか呼ばれていたきがする。
それに一葉と双葉の親戚だったはずで、一葉と同じ卜伝という人が教えている剣術の兄弟……ではなく、姉妹弟子である。
少なくとも鞠は一葉並の剣術家であることでもある。
でも、そんな鞠がなぜ剣丞隊に入るのかがわからんので、剣丞に説明してもらいますかね。
「で、どうして鞠が剣丞隊に?」
「うん、事情があって駿府屋形から落ちてきたんだ。で、長久手で俺が見つけて……」
「駿府屋形が落ちたって、どういうことです?」
「色々事情があるんだけど……」
剣丞は俺たちに鞠がココまでやってきた経緯を話してくれた。
駿府屋形が信虎に乗っ取られ、鞠の為になる勢力は何処にも無かったそうな。
鞠のお供である朝比奈泰能の織田を頼れという言葉を信じて鞠は一人、織田領を目指していた。
しかし、空腹には勝てず倒れかけたところをちょうど剣丞が通りかかり、今に至るとのこと。
「なるほど、そんなことがあったか」
「うん。そういうことだから仲良くしてほしいな」
「私、木下藤吉郎ひよ子。みんな、私のことはひよって呼んでくれてるよ!」
「私は蜂須賀小六転子。ころって呼んでね」
「ひよ……ころ……ありがとうなの!」
「鞠ちゃんってば可愛いよぉ!」
そういってひよが鞠に抱きついて、鞠を優しく抱きしめる。鞠は嬉しそうにその抱擁を受けている。
こうしてみると平和な光景なんだが……上洛前なんだよなぁ。
「さて、新入隊員との懇親も終わったところで、出陣部隊の把握を行いたいのですが……」
「お、確かにそうだね。……ええっと、剣丞体ってどんな感じだったっけ?」
「お頭、それは以前、説明しましたよ?」
「ごめん。出陣準備に俺は必要ないって思って右から左に抜けていってた……」
それでいいのか隊長。
「もう。じゃあもう一度説明しますから、今度はしっかり覚えておいてくださいね」
「はい」
剣丞隊の運営担当であるひよの言葉に剣丞は姿勢を正して耳を傾けている。
俺も剣丞隊の内訳はある程度把握しているが、変更があるかもしれないので耳を傾けておく。
「現在、剣丞隊の総勢は二百。内訳は、荷駄隊十、騎馬が十、槍が三十、工兵が三十、そして鉄砲が五十」
「ちょっと待って下さい。鉄砲が五十というのは初耳なのですが……。剣丞さまの知行から考えると、鉄砲が五十というのはかなりの破格で
すよ?」
「あ、鉄砲とある程度の玉薬は久遠さまからの支給だよ。鉄砲研磨の物を揃えろってご命令があったの。ですよね、涼平さん?」
「ああ。久遠から言われて鉄砲の訓練はしておいたぞ。訓練と言っても玉込めから構えまでの一連の流れしか教えてないが……」
「十分です。涼平どのが鉄砲に関しても詳しいのは驚きでしたが……」
「傭兵はそういう情報もある程度集めておかないと行けないし、たまに使っていたからな」
刀以外は基本的に世話になった場所から支給されるものを借りて戦っていたので、一通りの使い方はわかっている。
火縄銃は使い方さえ覚えてしまえば、その日の内に兵となれる素晴らしい道具なのである。
そして、現代の銃は破格の性能ってことがよく分かる。
殺傷能力は距離によるが、火縄銃のほうがエグいらしい。
「玉薬の調達などで、また銭が掛かりそうですね……。ひよ、その辺りはどうなっているのです?」
「今のところなんとかなると思うけど……涼平さんのお陰で多少はなんとかなってるよ。でも、先のことを考えると不安だよぉ……」
「俺の知行ってどのくらいなの?」
「五千石ほど貰っています。普通なら兵一人が四十石の負担ですから、百人ちょっと雇えば終わりなんですけど……。剣丞隊は二百人を雇っています。だからお財布はカツカツです。涼平さんの知行も多少あるので……」
「その辺は武将である涼平どのが居てよかったと言えるでしょう」
「武器調達で消えたけどな」
剣丞隊は貧乏である。
主な原因は剣丞の適当な発言によるものであるからなんとも言えない。
俺の知行と言っても些細なもので武器などの調達によって消えている。
「知行に関してはなんとかしてみるから今回の上洛と越前攻めについては、手持ちでなんとか凌げるよう、力を貸してほしいんだ」
「……はい! お頭のためですもん、私、頑張っちゃいます!」
「だけど私たちに出来ることにも限界があります。先陣を仰せつかったりしたら……多分破産しちゃいますよ、剣丞隊は」
「いや、先陣は桐琴や小夜叉が譲らんな。むしろ勝手に先陣を切るに決まっている」
「そうですね。あるとすれば、涼平どのやその部下数人以外は後備えに配置されることになるでしょう。涼平どのが見繕った人達は武に優れた方が多いようですし」
「なんというか、涼平と雷蔵さんたちって剣丞隊っぽくないよね」
「「「ああ……」」」
うるさい。
俺は昔から武将なんだよ。アイツにも生まれる時代を間違えてない? とか突っ込まれた程度には武将してるよ。自覚あるよ。
でも、裏方ばっかりって結構つまらない。強いやつと戦ってる方がワクワクするだろ?しない?
「ひとまず、荷駄と工兵をひよが担当し、後方に配置。騎馬と長柄組をころが率いて先手。剣丞さま、私、鞠さん、涼平どので本陣を形成となるでしょう」
「鞠は兵を率いたことはないだろ?」
「ないのー!」
「じゃあ、鞠は剣丞の護衛だな。鉄砲は詩乃と剣丞に任せる」
「俺、そういう経験ないんだけど」
「お前ならできるさ、剣丞」
「うっ、そう言われたらやらないとダメじゃないか。ずるいなぁ」
「剣丞も居る、軍師の詩乃がいる。前と後ろを支えてくれるひよところがいる。そして、お前を守る俺と鞠がいる。不安になることはないさ」
「非才ながら全力でお支えいたします」
「私も頑張っちゃいます!」
「私もです!」
「鞠も! 鞠もー!」
「皆……うん!」
「じゃあ、俺は寝る。 おやすみー」
そういって俺は自分の部屋に戻る。
部屋に戻って行ったのは武器の手入れだ。
人よりも人外である鬼を切ることを想定されているかわからないので、こうして毎日手入れをしておく。
もし、折れたりしたら治すためにはこれを作った人の元に戻らなければならない。
堺にいたじいちゃんでは修理できないと、あの時言われてるからな……。
上洛、無事に終えられるといいのだがね……。
なんか妙な違和感を感じるため、最近は訓練も手入れも念入りに行っている。
何事も無ければいいのだがね……。
THE フラグ




