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「あーぁ、メインヒーロールート入っちゃったよぅ。ゆうくんの幸せがぁ…。」
昼休み。学校の中庭で弁当つつきながら、寧々は残念そうな溜息吐いた。
視線の先にはヒロインの愛野夢。隣には背が高い美形の男。アイドル志望で、ヒロインの同級生らしい。
歌とダンスの練習を重ねてヒロインと愛を育んで、今はその途中だって寧々が言ってた。
「オレの幸せねぇ…。」
「うん。ゆうくんが幸せに笑う顔が見たかったのになぁ。」
しょんぼりしてる寧々、ほんと、バカだなって思って、オレは笑う。
「オレって今、不幸せそうってこと?」
「不幸せには見えないけど、ゆうくんの幸せ笑顔が好き。」
「ならさぁ…寧々が恋人になってよ。寧々がオレを、幸せにしたら良いんじゃねぇの?」
勢いで言ってみて、心臓バクバク口から飛び出そう。弁当も喉通んなくなって、箸止めて、寧々の顔を伺ってみた。
そしたら、きょとんってしてる。
なんだよその顔って思って、オレはちょっと不機嫌になって寧々から視線逸らした。
「ゆうくんは、寧々が好き?」
答えなきゃ。
緊張して、喉がぐって詰まる。顔も熱くて、絶対真っ赤だ。
「好き、だよ。オレは、寧々が好き。」
「そっかぁ。」
寧々が呟いて、逸らしてた視線戻したら、ゆるゆるな顔で笑ってた。これは、嬉しい時の顔。
「寧々は?」
「好き。ゆうくんが大好き。」
「そっか。なら、寧々は今からオレの恋人だ。」
「うん!」
ほんのり頬を染めて、寧々はゆるゆるに緩んだ顔で笑ってる。
オレの幸せを願った寧々。オレは寧々といるのが幸せなんだって、わからせてやるんだ。
手を繋いで家帰って、寧々はいつも通り、着替えたらオレの部屋に来た。
今までは幼馴染。
今日からは恋人。
だけど何をするでもなくて、寧々はいつもと変わらない様子でオレのベッドに横になって漫画読み始めた。
もっとこう…警戒心とか、恥じらいとかないもんかね。
「寧々。」
「んー?」
「好き。」
オレの言葉で真っ赤になって、漫画を捲る手が止まる。
「寧々、好きだ。寧々は?」
「す、好きだよ…」
「いつから?」
「え?」
「いつから、寧々はオレが好き?」
漫画から視線上げて、床に胡座かいてるオレを身下ろす寧々。真っ赤で、おろおろ視線彷徨わせてる。
「わ、わかんない。ちっちゃい時から。」
「ふーん。なのになんでヒロインとくっつけようとしたんだ?」
ちょっと意地悪なオレの質問。でも聞きたい。
漫画閉じた寧々がベッドから下りて、オレの前に正座した。
顔は真っ赤のまま。視線はうろうろしまくってる。
「ゆうくんが、幸せになって欲しかったの。」
「他の女とくっついても?」
こくりって頷く寧々。
「オレだって、ちっさい時から寧々が好きだったのに…気付いてなかっただろ?」
また、こくこく頷く。
唇噛んで、真っ赤で困った可愛い顔。
「キスしていい?」
緊張で、喉がひりひりくっつきそう。唾飲み込もうにも、口の中カラカラだ。
寧々が頷いたのを確認して、寧々の両肩に手を置いた。ビクってなった寧々の様子に、緊張よりも喜びが湧いてくる。
ゆっくり近付いて、寧々の唇にキスする。柔らかくて、あったかくて、寧々が好きなリップの甘い香り。
離れたら、寧々が目を開けてオレを見た。
キスの後の目を開ける瞬間って、なんて色っぽいんだろ。
もう一回したかったけど、心臓ぎゅーって痛くて、今は断念。
代わりに抱き寄せて、寧々を腕に閉じ込めた。柔らかくてちっちゃい寧々。壊れちゃいそうで、そっと腕で囲い込む。
「ぜ、前世とか言ってたけど、寧々、キスしたことないの?」
おろおろしてて、戸惑ってて、反応が、オレと同じ初心者だって思って聞いてみた。そしたら寧々は、オレの腕の中でこくんて頷く。
「前世はね、健康じゃなかったの。いつも病院でね。お母さんが買って来てくれた恋歌のゲーム、病室で一人でやってた。そのゲームでね、天野勇ルートで、ゆうくんの笑顔に元気もらってたの。」
「それって…前世から、オレを好きって事?」
「……うん。」
寧々はオレの肩に顔を伏せた。でも、見えてる耳真っ赤。照れてるんだ。
好きな子にそんな風に言われたら、嬉し過ぎて、オレの顔緩んじゃう。
「長い恋、叶って良かったな。」
「うん。」
「前世の分も、オレが寧々を楽しませてやる。」
「もうね、十分楽しいよ。」
「なら、もっと。オレが幸せにしてやる。」
「うん。…ゆうくん、大好き。」
「オレも、寧々が大好き。」
「嬉しいな…。」
涙声で呟いて、寧々は多分泣いてる。
小さい頃から、オレの為に見当違いな努力をしたりする寧々。
おっちょこちょいで危なっかしくて、目が離せなくなった。
いつも一生懸命な君が好き。
ふにゃりって、柔らかい君の笑顔が好き。
これからも、ずっと一緒に笑って、楽しい事して、寧々を幸せにしてやろうって、オレは誓った。