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全四話。
病気の子の描写が入るので、嫌いな方はお気を付け下さい。
「大変!ここ、恋歌リベンジの学校だよ!乙女ゲームだよ!ゆうくんは天野優なんだよ!」
高校の入学式に向かうのに学校のセキュリティ通ったら、変な事をのたまい出したのはオレの幼馴染。
くりくりした目が可愛くて、黒髪だってサラサラなのにベリーショートにしちゃってる。でも、それも似合ってて可愛い。
「その顔!今バカって思ったでしょ?」
「わかってんじゃん。頭おかしくなった?」
「失礼な!あのね、よーっく聞いてね?」
幼馴染の寧々。
オレの好きな子。
だけど寧々は気付いてない。おバカで鈍感な所も可愛いとか思うオレ。相当やられてる。
寧々はオレの手握って、真面目な顔してる。
「ゆうくんはヒロインに攻略されちゃうの!そんで、寧々はただのモブ。何も出来ないから、頑張って恋してね?」
「………置いて行くぞー。」
「信じてない!ほんとなんだってば!」
全く、なんで好きな子に恋の応援なんてされなきゃなんねーんだよ。
おバカな寧々はオレを追い掛けて走ってくる。
ちょっと意地悪して早歩き。
「待って、置いてかないでよ!」
必死に走って追い付いて、寧々はオレのブレザー掴んで息切らしてる。
今度は寧々のペースに落として歩いてやると、嬉しそうににっこり笑って見上げて来るんだ。
寧々とは家が隣同士の幼馴染。
子供が同じ年だから、両親同士が仲良くなって、オレらは小さい頃から一緒にいた。
寧々はおっちょこちょい。
ぼへーっと空見上げてんなとか思うと電柱に激突する。
なんでそこで転ぶんだよって所でもつまづく。
オレが見てねぇと怪我して、危なっかしいんだ。
音楽に特化した諫早学園に、オレがギターを勉強したくて行くって言ったら寧々もついて来た。楽器なんて出来ねぇ癖に、歌やるんだと。
人気バンドのHollyhockの姫みたいなボーカル目指すとか張り切ってる。姫は美女だけど、オレには寧々のが可愛いんだ。
「そんでね、天野勇が練習室で練習してるとヒロインが来るの!何か探し物ですかーって声掛けるんだよ?そしたら、ヒロインの愛野夢ちゃんが、筆箱忘れちゃってって言うから渡してあげてね?ピンクの水玉のやつだよ?」
「てかさー、ヒロイン歌志望だろ?なんで第一の練習室に筆箱忘れんだよ。第二で練習してろよ。」
「だって、そうしないと天野勇との接点が出来ないからだよ!ゲームではそこまで詳しく描かれてないから知んないよ。たまたまじゃないの?」
「んだよ、その適当設定。」
寧々は今、オレの部屋のベッドを陣取って乙女ゲームとかいうやつの内容説明してる。
なんだか興奮してんの可愛いから聞いてやってるんだ。
それによると、『恋歌』ってゲームは正式名称『恋は音楽と共に』。ゲームの主題歌が有名で『恋歌』らしい。
そんで、前作から五年後の世界が寧々の言ってる『恋歌リベンジ』。何をリベンジしてんだって聞いたら、2作目って意味じゃないかって寧々の適当な返事。
寧々はそのゲーム、2作共ハマってやってたんだって。しかも前世で。前世ってなんだよってツッコミ入れたけど、寧々はほにゃりって曖昧に笑った。あんまり言いたくない時の顔。だからオレは、詳しく聞くの諦めてゲームの話聞いてる。
「あとね、メインヒーローの早乙女稔っていうヒロインの同級生がいるから、負けちゃダメだよ?ゆうくんがヒロインと幸せ掴むんだから!」
「オレは別にヒロインとの幸せなんていらねぇけどな。」
「ダメだよ!だってね、ヒロインとくっついた時のイベントスチルのゆうくん、とっても幸せそうなんだよ?寧々はゆうくんに幸せになってもらいたいの!」
バカだなぁって、オレは笑う。
オレは寧々といられたら幸せなのに。
「ゆうくんのその顔、好き。でももっと幸せな顔にしてあげるね!」
張り切り出した寧々。
オレの為に見当違いな事をやり始めるんだろうな。想像したら、可愛くて笑える。
気付いて欲しい。寧々だって、オレを好きだと思うんだ。