第一話
初投稿です。
<天に浮かぶ島の、果ての門。貴方は、その先を見る>
▽ プロローグ
―キリキアの森。深奥
涼しげなそよ風が髪を揺らす。周りはブナの原生林が一番近いだろうか、木々の間を極彩色の小鳥が飛び回る。足下は丈の短い牧草のような草っ原が広がっている。
そんな秘密の隠れ家のような場所で、
俺ことネア―-―琴鐘麻鬼は一人ぽつんと立ち尽くしていた。
「………………は?」
▽
おかしい。俺は先程まで自室にいて、『リリアンフルアーチ』のカンスト上限解放メンテナンス終了を待ち、お茶と炭酸飲料、煎餅と饅頭のストックを確認して、携帯端末でフレンドとチャットしながら、運営の公式ブログでメンテ終了のお知らせを聞き、ログインしたはずだ。
それが何故、こんな場所で立つ羽目になっているのか。
バランスをとるために身じろぎしたことで、初めて体に感じる違和感に気付く。
袖の長い枯れ草色の服、黒を基調としたズボンの膝には暗く光る金属の膝当て。
靴は何だろう、未知の感触にこれまた違和感を覚える。
そして一番主張が激しいのが―――背中。確かな重みが冷たくて固いものとして己をアピールしているのだ。
「なんだ? ………おっと」
長い袖を払って背中に手を回す。と、金属棒のようなものを掴んだ瞬間、体が自然と動いて目の前にそれを展開する。
「か、鎌?」
それは俺の割と高い身長に匹敵するような大きさの、大鎌だった。ギラリとダークトーンに輝く刃、少し装飾過多に思える持ち手と刃を繋ぐ悪魔と天使を象った金具。大鎌など持ったこともないのに何故か手に馴染んでいる。が、この鎌には見覚えがあった。
リリアンフルアーチ、季節限定大規模戦闘・レイド戦『オルホン討伐戦』。ボスを倒した際に、天使族と悪魔族の半種族から手に入れたレジェンドウェポン・『堕天の聖鎌』だ。
そこでようやく服とズボンが自分のメインキャラの装備一式であることを理解する。
「な………、ま………まじか………」
近くに水溜まりがあったので近づいて顔を覗かせる。―現実世界の俺の顔だ。
慌てて腕を適当に振ってみる。と、薄紫色のウィンドウが現れる。
―PC名・ネア Lv80
職業・鎌使 SB職・鎖師
左側を人型の表示が占め、右側に詳しいステータスが羅列している。
「『リリアンフルアーチ』の、キャラステータス………」
間違いない。何万回とパソコンの画面で見てきた窓だ。表示されているのは俺のメインキャラのステータス。
ふと影がよぎったので空を見上げる。蒼天を悠々と渡る―ワイバーン。
遂に確信してしまう。
「ここ、リリアンの世界じゃん………」
大学一年生の春、ゲームの世界に来てしまった。
△ プロローグ 完
感想を頂けたら幸いです。
『リリアンフルアーチ』
…MMORPG。三つの大陸と始まりの島、浮島が存在し、広大なフィールドを自由に探索することが出来る。システム範囲外は海の果てのみであり、相応の装備かアイテムがあれば何処にでも行くことが可能である。レベルが低いと、徘徊しているフィールドモンスターに殺されるが。
異世界転移事件が起きた当時、ゲーム人口は十八万。転移事件の時にログインしていたプレイヤーは九万。約半分のプレイヤーがリリアンの世界にいる。
世界の各所には、パーティー以上のグループで挑むインスタンスダンジョン、通称IDが存在する。IDはシステム的にはリリアンとは切り離され、パーティーを組んだメンバー以外はそのダンジョンとは別に生成されたダンジョンに入ることとなる