旅の始まり(3)
旅の始まり(3)が旅の始まり(1)と全く同じ内容だったため、修正しました。
「よくも俺をコケにしてくれたなクソガキ!」
使い古されたようなセリフ使いやがって。
だが正直ピンチだった。
「何人いるんだよ、これ……」
ぞろぞろと、木の陰という陰から男達が顔を出す。
ざっと数えたところ、八人か……かなりの人数だ。
しかも囲まれている。
「まいったな……」
全員武器を所持、俺は冬霧に乗っかられて身動きがとれない。
絶体絶命だなこりゃ。
「覚悟しやがれ、お前ら二人売り飛ばしてやるからよ」
にやにやと下品な笑みを浮かべる男達。
勘弁してくれ。
「天国にしては薄汚れたような場所だなここ」
「……あんた何言ってんの?」
冬霧が口を開く。
「天国どころか地獄レベルよここは……まぁ詳しい事は後で教えたげるとして」
「まずこいつらをどうするか、だよな……」
じりじり、じりじりと。
男達は俺たちと間合いをつめる。
仕方ない、やるしかないか。
「冬霧。俺が隙を作るから逃げてくれ」
「はぁ? あんた何言ってんの? この人数相手だとさすがに死ぬでしょ?」
「まぁ女の子守って死ねるなら本望かなって思ってね」
冬霧はわざとらしく頭を抱えて唸った。
「こんな状況で言える言葉? それ……」
「こんな状況だからこそだろ」
ポンポンと冬霧の背中を叩く。
どいてくれという気持ちが伝わっただろうか。
「はぁ……、わかったわ。いちかばちか、だけどやるしかないわね」
すると冬霧は、俺の耳下に顔をぐっと近づける。
周りから見れば、キスをしているようにも見えたらしく、ビキビキしていらっしゃる男の方も
何人か見受けられた。
(よく聞きなさい。あんたの……まぁ特殊能力みたいなの、教えたげるから)
ぼそぼそと冬霧が耳元でささやく。
(なんか思いっきりチートじゃねえか! って能力でもくれるのか?)
(あたしが上げるんじゃないわよ。ただあんたの体の構造上できちゃうのよ……コツさえつかめれば)
なるほど、それでいちかばちかと言ったのか。
(で、その能力は?)
(魔法の無条件行使。あんたは想像通りの魔法を想像した分だけ使えるの)
魔法の無条件行使。
そもそも魔法に条件なんてあるのか、この世界は。
俺の知ってるファンタジーは、ファイアととなえればぼーんとでるようなものばっかりだったから
あまりピンとこないな。
(いいから、立ち上がったら言ったとおりにやってみなさい。わかった?)
(はいよ、冬霧の言うとおりにする)
「おい何時までちちくりあってやがんだよ!」
男の一人が、冬霧の身体を持ち上げる。
「ちょっ、と離してよ!」
じたばたと足をばたつかせる冬霧。
それに合わせて、急いで俺も起き上がる。
「その子を離せ」
「ああ?お前状況わかってんのか?」
男は冬霧を持ち上げている逆の手で、ナイフを取り出す。
そのナイフを冬霧に突きつける。
「こっちのほうが優位だろうが。命令すんじゃねえ」
困った。こんな小物にも手も足も出ないのか。
とりあえず冬霧をなんとかしない限りは……。
「目の前に! 何でもいい。物体を思い浮かべて」
しかし、一番危険な状況にいるはずの冬霧は
躊躇なく叫ぶ。
「はやく!」
「お、おう!」
とりあえず言われたとおりするしかない。
物体、物体……とりあえず、適当な剣を思い浮かべる。
両刃の、自分でも持てそうな軽い……。
「おいお前なに言ってやがる!? 殺されてえのか!」
ナイフに、力が入る。
冬霧の顔に苦痛の色が浮かぶ。
「冬霧ッ!」
「次に、その物体が、目の前にあるって強く願って。存在するって思い込んで!」
それでも冬霧のレクチャーは続く。
……強く、願う。
目の前に俺が想像した剣が、存在するかのように……思い込む。
刹那。
頭の中に、何か電流のようなものが走るのを感じる。
体中から、何かが湧き出すようなそんな感覚が走る。
そして。
「放てって叫んで!」
「は、放て!」
瞬間的に目の前に、自分が想像した剣と全く同じものが現れる。
そしてそれは、俺の声と同時に目の前の男の喉元を貫いた。
ドスッ!という鈍い音とともに、冬霧を持つ手が離れる。
「冬霧!」
走って冬霧の手を握る。
「ちょっと痛かった。……けど、いちかばちかで"いち"にあたったわね」
首に走る一筋の赤い線を指でなぞりながら
冬霧はニヤリと笑う。
「できなかったらどうするつもりだったんだよ」
「できたじゃない」
「冬霧先生の教え方がうまかったんだよ」
さて。
一人が声をあげる暇もなく絶命したのにもかかわらず。
他の男はまだやる気まんまんだった。
「死体に驚くー! とかないのかよこいつら……」
「あんたもだけどね」
「……吐くのは後にしようって思ってるだけだっつの」
どうするか……そういいかけた所で。
冬霧が提案を持ち出した。
「さて、この人数だとちょっと辛いわね。ちょっとあたしが人肌脱ぐわ」
くるくると腕を回す冬霧。
「冬霧ができるなら、最初からやってくれよ。変質者に追われてる時から」
「誰かが魔法使うのが条件なのよ。あたしの頭に手置いて」
言われるがままに、手をポンと置く。
「で、さっきみたいに魔法を使って。何出しても良いわ、どうせ全部"吸う"から」
「わかった」
もう一度、イメージする。
剣、銃、炎、水、盾、鎧……なんでもかんでもイメージする。
直後。
「あんた。いまから目を閉じなさい」
「なんでだ?」
「レディが戦うところ、見るもんじゃないわ」
寂しそうに笑う、冬霧の姿が見えた。
言われたまま、目を閉じる。
次の瞬間から、身体からあらゆるものが抜かれていく感じがした。
イメージが、全て吸われる。小さな脱力感に襲われる。
「もういいか?」
俺のその声は、男達の断末魔で掻き消えた。
「うわああああ!? うわあああッ!?」
「なんだこいつ、なんだこいつ、なん……」
「やめろ、助けてくれ!助けて!!」
「こ、こいつ……かいぶ……」
グシャ。
しばらくして、音が収まる。
けたましい断末魔が収まる。
男達が潰される音も収まる。
「もう、いいか冬霧」
「……ええ、いいわよ」
そっと目を開ける。
そこにはやっぱり想像したものが広がっていた。
「……さて! 終わった終わった! とりあえずここから移動しなきゃね! くっさいし!」
冬霧は、明るく振舞う。
ただこれだけの人数を殺しておいて、正気のはずがないだろう。
「とりあえず、近くで休まないか」
「あら、気でも使ってくれてるの?」
「いや」
その後俺は、いままでグロ耐性あるからとかドヤ顔で語っていた頃の俺を
呪いつつ。
「とりあえず吐いていいか」
冬霧は静かに頷いた。