プロローグ
ミーン、ミンミン。
「暑い。鍋の上かここは」
一人呟き、通学路を歩く。
時期は聞いての通り夏真っ盛りである。
勘弁してほしい、はやく家のクーラーでだらだらしつつ、パソコンを開いて動画観賞でもしたいものである。
「はぁ、明日から夏休みだっていうのに憂鬱しかない……」
夏休みに入れば、普通友達と遊んだり彼女と遊んだり、ひと夏のアバンチュールに身を任せたりするものであるが。
「俺に友達とか彼女がいればいんだがな……」
通学路で独り言を連発するような男である。
奴に彼女とか友達がいるわけないのだ。
だが知り合いはたくさんいた。
「よおお、神崎あきらァ……待ってたぜ……」
公園の前で、たむろしている男が4人ほど。
全員学生服を着崩し、髪は金色に染まっている。
いわゆるDQNだ。
「俺は待ってない」
「俺達は待ってた」
勘弁してほしい。
こいつら4人は、俺が学校でいじめられっこを助けてからずっと付きまとってくるいじめっこである。
面倒くさいことこの上ない。
「お前らの所為でな! 余計学校で人がよりつかなくなったんだよ! どうしてくれる!」
「知るか! こちとら毎日お前の所為でいっらいらしてんだよ!」
そう言って、ぞろぞろと4人は俺を取り囲む。
ただいつも武器とかを持ってこないのをみると、ある程度はわきまえてるDQNなのだろうか。
「今日こそは袋だぞ神崎」
「勘弁してくれよ……」
すっかり周りを囲まれてしまっている。
「おら! 覚悟しろ神崎ィ!」
背後の男が殴りかかってくる。
よし、今だ。
「よっと」
上半身を捻って、拳をかわす。
そしてすぐさま、その男に足払い。
無理な体勢で殴りかかろうとしていたのか、足をちょっと払ってやっただけで男は地面に倒れた。
「て、てめえ!」
「ごめん、俺家に帰って動画みないとだから」
倒れた男の背中をふみつけ、全力疾走。
そう。逃げるのだ。
「まっててめえ!」
あいつらオイコラとかテメエとかしか言えないのか。
公園の近くにある交差点に、信号がある。
そこで巻こうと考え、とにかく走る。
信号の色はちょうど青が点滅している。
ナイスタイミング。
俺がわたりきったところで、信号は赤に変わる。
車が動き始める。
「逃がすかよッ!」
すると、リーダー核の男が赤色の信号を無視して突っ走ってくる。
おいおい。
いくら車の量が少ないからって、それは危ないだろ……。
と、思った直後。
トラックが、横断歩道に差し掛かる。
当然だ、横断歩道の信号機は赤なんだから。
「おい!危ない……」
まずい、トラックが減速しない。
男の姿が見えてないのか?いや違う。
"アイツ居眠り運転してやがる"。
「リーダー!」
DQNズの一人が、叫ぶ。
お前叫ぶなら助けに行けよ。
そう思った時、俺はリーダー核の男を歩道側へと突き飛ばしていた。
「……は?」
リーダー核の男の間の抜けた声が聞こえる。
よかったな馬鹿野郎、生きろよ。
だけどまぁ、なんというか。
リーダー核の男を突き飛ばした俺は、反動で前に倒れこんで。
そこに男を轢く予定だったトラックが差しかって。
「あーあ……」
最後に出た言葉はこれだった。