第1話
これは、私(勝谷飛鳥)が経験したひと夏の恋。
八月の初め、夏休みの真っ只中。
部活を引退した私たち中三の夏休みは受験というムードでいっぱいだった。
でも私はというと、小学生の頃から続けている空手の推薦で高校が決まっている為、いたってのん気だった。
遊ぶ時間はあるのだが相手がいない。
私の頭の中を『暇』という文字がグルグル回っていた。
何もしないまま夏休みの半ばに差し掛かった頃、私はずーっと欲しがっていたパソコンを手に入れた。
父がボーナスで買ってくれたのだ。
「お父さんありがとー。」
いつもはけむたい存在の父に心からお礼を言った。
父は満面の笑みを浮かべていた。
早速私はパソコンに電源を入れた。
「あ、点いた。」
当たり前だ。点くに決まっている。この時の私は当たり前の事に感動していた。
とりあえず、インターネットに接続をしてみた。でも私は、何をしたらいいのか分からなくなった。
あれだけ欲しがっていたパソコンなのに・・・。
私はパソコンで何がしたかったんだっけ・・・。あ、そうだ、チャット・・・。
ちょっと前にチャットをテーマにした映画を見た私はどうしてもチャットがしたかったのだ。
それを思い出した私は無性にチャットがしたくなった。
<<チャット>>という単語で検索をしてみた。ヒット数の多さに驚いた。
ページを見ていくうちにチャットにも色々な種類がある事が分かった。
複数の人数で話すことの出来るチャット、二人までしか入室出来ない2ショットチャット、映像を見ながら話せるライブチャットなどなど。
ライブチャットというのはエッチな事を目的としたものが多い様なので選択肢から即外した。
「どうしよ・・・。」
結局まだ文字を打つのが遅い私は、2ショットチャットをする事にした。
HN<<ハンドルネーム>>は『綾』で入室。私は待機をする事になった。
入室前の相手から分かる『綾』の情報は十代という年齢だけ。
しばらくすると、待機中の『綾』の部屋に入室者が。
入室者の名前は『たかし』
『綾』と『たかし』の会話が始まった。