8,白いパンツ。
アーガ要塞内に突入。
で、すぐ迷子になった。
「おい、ミニマップの機能がないと迷うだろ。なんだこのクソゲー」
「なんですかミニマップって?」
ミニマップはじめに考えた人はノーベル平和賞に値するよな。
しかし要塞って、こんなに無駄に入り組んでいるものなのか。敵の侵入に備えているのかもしれんが、まず新兵が迷うぞ。
とにかく要塞内にも兵士の死体が散乱しており、死屍累々。ただ魔人の姿もない。
しばらく進んでいると、曲がり角の向こうから気配がする。いよいよ敵かもしれん。
「ところでリアリ。おれのジョブってなんなんだ?」
「あおとさんのジョブですか、あー、おー、いー、〈重力の戦士〉!」
「いま、てきとーに決めただろ」
「重力100倍の訓練を思い出してくださいよ! 重力100倍のなかでしこしこした、あのオ×ニーの日々を!!!」
「いや他に言いようあるよね?!」
曲がり角を曲がったら、案の定、魔人の姿があった。こちらの個体には翼はないが、そのかわりに槍を装備している。
「まだ人間が生きていたか」
と魔人が、獲物を見つけて嬉しそうに言う。さらにリアリに目をやると、
「あぁ? 羽虫とは珍しい」
侮辱されたリアリが両手を振り回して、怒る。
「くぅ。どいつもこいつも! 妖精を羽虫呼びは、差別表現ですよ! ポリコレ警察、どこいった!」
異世界にポリコレ警察はいないらしいね。
にしても、魔人というのは武器も使うのか。こっちは素手なので、射程で負けている。どうしたもんかなぁと思っていたら、別の通路からエイミーが現れる。
「気をつけろ、そこの幼女」
そこの幼女は、腹部に、白いポケット的なものを張り付けていた。いや、違う。
あれは───白いパンツだ。
その腹に張り付けたパンツに、エイミーは手を突っ込みながら、
「わたしの殿堂入りアイテム、八次元パンツだよ。八次元パンツの中には、あまたの魔道具がおさめられているのさ」
「……そのパンツ、はいてたの???」
「魔道具〈封じる鎖〉。その効力は、Bランク以下の魔物または魔人を30秒拘束する! ていっ」
放たれた〈封じる鎖〉の鎖が飛び、槍装備の魔人を縛り付け、動きを封じた。
「な、なんだこれは、動けねぇ!」
「あおと君。いまのうちにトドメをさして。魔道具は消耗品だから、できるだけ節約したいんだよね」
と、エイミー。
おれは魔人のもとまで、てくてくと歩いていく。
魔人が喚いた。
「くそぉぉ、下等種族の人間が、近づくんじゃねぇぇ!」
「うーむ。必っっっ殺~~~~とりあえず殴っておく」
とりあえず、固めた右拳を魔人の顔面に叩き込んでみた。
すると魔人の頭部が粉みじんに吹き飛ぶ。
「これが〈重力100倍の世界で日常を暮らしてきた異世界人のただのパンチ〉の威力だ! 毎日のようにしこしこしていた日々も無駄ではなかったな!」
「やりましたね、あおとさん! まずは一体目です! この身の程知らずの魔人ども一掃し、二度とわたしのことを羽虫呼ばわりできないようにしたるのです!」
「しかし素手だとリーチで劣る。ここは武器を鹵獲するとしよう」
おれは落ちた槍、ではなく魔人の死体の右足首をつかんで、持ち上げた。
右手に装備〈魔人の死体〉。
少し素振りしてみてから、うなずく。
「よーし、いい感じだ」
リアリが首を振って、言う。
「ナチュラルに死体を武器装備するあたり、やっぱりあおとさんも常識人枠ではないですねぇ。やはり、このパーティの常識人枠は、このわたし!」
「なに言ってんだ、おまえが常識人枠であってたまるか。ところでエイミー、ササラさんは見たか?」
「あの聖女さんなら、『複数の魔人たちに集団レ×プされる』夢をかなえるため、嬉々として駆けていったよ。理想は、兵士の命を助けるかわりにわたしの身体を好きにしてください──のシチュエーションらしいけど」
「…………リアリ。あの聖女が常識人枠でないことだけは、確実に言えるな」
「あい」
と、うなずくリアリ。
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