7,妖精、バカにされる。
アーガ要塞に到着。なんか、外から陣地内を見た限りにも、兵士の死体が散乱している。
これは回れ右しろってことじゃないか。
こういうときは気があう妖精リアリも同じ意見らしく、
「やばいですよ、これは。冒険者には及ばないとしても、王国軍の精鋭たちが簡単に殺されているなんて。とんでもない敵襲があったのです。まったく、『嫌な予感がする』ですよ。英語でいうとI have a bad feeling about thisです!」
「英語でいうとって、まてよ、そもそもおれはなんで異世界に来たのに、この世界の言語が話せるんだ?」
「え、いまさらそんな野暮なこと聞いてきます? それって、AVの中出しってぜんぶ疑似じゃん、と喚くようなものですぜ、あおっと!」
「え、疑似なの? 本物じゃないの? なんだそれ、おれたちの血税をちゃんと使え!」
「AVの撮影、血税使ってないでしょうが」
「そうだった。おれたちの血税、もっと下らないことに使われているんだった。くそが」
おれとリアリが大いに真面目な会話をしているあいだに、エイミーとササラが要塞内に向かってしまった。
ササラさんは、レ×プ願望がある変態さんでも、聖女の義務感はあるようで、まだ生存者がいるかもしれないと。
一方のエイミーは、〈騎士王の秘宝〉とかいう、大金に化けるアイテムを入手、というか強奪するために。とりあえずエイミー、おまえはジョブ、シーフに変えたら?
「パーティが分散してしまった。よし、おれたちだけでも生き残り、ササラさんとエイミーの勇気を後世まで称えよう」
「大賛成です。生き残ったものがいないと、英雄を語り継ぐことはできませんからね」
おれが手綱を引っ張り、馬車の向きを反転させようとしたとき。
ふいに上空より、翼の生えた人型魔物が飛んできた。
おれはそれを見上げながら、いまさらながら思ったね。ってか、おれのジョブってなに? ジョブも決まってないのに戦えるのか? 戦えないよ? チュートリアルを忘れるな!
その飛行型魔物は、意外なことに人間の言葉を話しだした。
「なんだ、お前たち、どこから来た?」
リアリが、たまには真面目に異世界の案内役らしく、説明した。
「あれは魔人ですね。え、魔物との違いですか? 人間並みに知能が発達すると、魔人認定されるわけです。当然ながら、戦うには魔物より厄介です」
飛行型の魔物あらため魔人。翼をはばたかせて空中で停止していると、要塞のほうからその仲間が、さらに三体も飛んできて、合流した。えー、敵が増えた。
「あおとさん。心配はないです。妖精とは高貴な種族と話しましたよね? 相手が知能のない魔物ならともかく、知能のある魔人ならば、妖精への敬意というものがあるのです。つまり、ここはわたしが存在を示せば、あの魔人たちも手だしはしませんよ」
という、どこからくるんだその自信はとともに、リアリが飛び上がる。
そして四体の飛行型魔人に存在を誇示する。
「こら、魔人ども。ここは高貴なる妖精であるわたしの顔を立てて、この人間は見逃し、ここから去りなさい!」
魔人たちがぽかんとした顔で、互いに顔を見合わせる。
それから、一斉にぎゃははと笑い出した。
「羽虫が偉そうなこと言ってやがるぜ!」
「しゃべる羽虫の種族がな!」
「ぺちゃくちゃうるせぇから、羽虫以下だぜ!」
「違いねぇな!」
それからバカ笑いしながら、要塞のほうに飛んでいった。あまりに笑えたせいで、おれたちを襲撃する気もなくなったらしい。
リアリが戻ってきた。しばし茫然としていたが、大粒の涙──妖精の目から出るので、おれには極小粒だとしても──を流しだしながら、
「ぐ、ぐやじぃです! あんな奴らにバカにされて、わたしは、悔゛じいですぅぅう!」
おれは人差し指で、リアリの頭をなでてやる。
「よしよし、もう泣き止め。おまえの仇は取ってやるから」
「ほ、本当ですか?」
おれは魔人たちが飛んでいった要塞を見やって、
「ああ、鬼畜でバカだとしても、おまえはおれの妖精だ。おれは、おれの妖精をバカにされて黙っていたりはしない。あいつら、ただではすまさんさ。皆殺し祭りだ」
「あおとさぁん……………鬼畜でバカは余計じゃないですか、いえマジで」
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