6,サブクエ轢く。
「あおとさぁぁん!」
脱獄後、落ち合う場所に向かうと、リアリが感動の再会ふうに飛んできたので、
「うるさいぞ羽虫。おれを見捨てやがって」
「これですよ、これ。この塩対応に、わたしはときめいてしまいますね」
エイミーが幼女らしからぬ難しい表情で、宵闇に沈む町内を見やる。
「もうさ、早く出発ほうがいいよ。脱獄したのがばれるのも時間の問題」
聖女のササラさんが、はっとして言う。
「いえ引き返させてください。わたくし、大切なもの、聖女必須のアイテムを忘れてきてしまいましたわ」
「聖女にとって必須? それって復活のアイテムとか? 世界樹の葉みたいな?」
「いえ、張り型のことですわ!」
「………………買ってあげるから、こんど新しいの」
聖女を馬車の荷台に放り込んで、おれとエイミーが御者台に座った。この馬車は、エイミー所有のもので、盗んだものではないらしい。
「ひとまず、近くにある城郭都市を目指そうか。というか、この町からの街道は、そこにしか繋がってないんだけどね」
とのエイミーの説明。では出発。
リアリがおれの膝の上で寝転がり、足を組んだ。
「ふむふむ。前途洋々ですね、あおとさん」
この妖精、この楽天的な性格だけは評価してやりたくなるよな。むろんなんら前途洋々ではないが。
しばしして。
馬車に揺られてウトウトしていたら、いきなり急停車した。このとき、おれはシートベルトの偉大さを知ったね。シートベルトのない御者台から前方へと吹っ飛んだので。顔面から地面に突っ込んで、片膝をついた。
「まったく、なんだってんだ?」
「あ、あおと、し、しぬ」
「え?」
見ると、おれの右膝の下に妖精が押しつぶされていた。膝をどかしてやる。
「おまえ、そんなところでなにしているんだ。遊んでいる場合か」
「あおとさんの膝上で爆睡していたら、こんな目にあったんじゃないですか! 舐めてるんですか!」
「知るか。馬車を急停車させたのはエイミーだ」
「あのメスガキ幼女め!」
「それって重複表現じゃない? 頭痛が痛いじゃない?」
エイミーは御者台から吹っ飛ぶこともなく、手綱を握ったまま、冷ややかに見おろしてきていた。それから視線を上げる。その視線を追いかけると、街道上に槍を持った兵士が倒れている。
「その兵士が飛び出してきたから急停車したんだけど。どうする?」
リアリは倒れている兵士を確認して、
「ははぁ。この鎧にある紋章、ここから南東にあるアーガ要塞の者ですね。かかわるとろくなことにならないので、轢いていきましょう!」
おれは呆れて、
「いやまて鬼畜妖精。なにも轢いていかなくてもいいだろ。NPC殺せるタイプのゲームで嬉々として殺戮しているタイプだろお前」
「あのですね。だーれのせいで、わたしがあおとさんの膝に押しつぶされたと思っているんですか。そこの兵士のせいでしょうが」
そこの兵士が意識を取り戻し、なんとか起き上がると、訴えてきた。
「た、頼む、アーガ要塞に援軍を、や、奴らが攻めてきて、要塞はもう陥落間近だ……」
この兵士は、援軍を求めるため、傷を負いながらも、この街道まで走ってきたのか。そして力尽きながらも、伝えねばならないことを伝えたのだ。
では、奴らとは何か? 敵襲だろう。しかしなぜ王国領土内に、突如として要塞を陥落させられるほどの勢力が現れることができるのか? 一体、何が起きているというのか!
……これは、あれだ。サブクエってやつだ。おれはメインクエストだけを淡々と進めるスタイルなので、リアリに賛成することにした。
「よし、なにも聞かなかったことにして、走り去ろう。さすがに轢かずに迂回して。で、反対の者は?」
「異議なしでーす」とリアリ。
「確かに一文の得にもならなそうだから、無視で良さそうだね」とエイミー。
しかし荷台から出てきたササラさんが反対した。
「申し訳ありませんが、わたくしも神にお仕えする身。助けを求める声は無視できません」
「くそ。だれか聖女の耳をふさいでおけよな」
エイミーがふいに目を輝かせた。
「ねぇ、まって。アーガ要塞って、騎士王の秘宝が保管されていなかった? 闇市で売ったら、とんでもない額になるよ」
「盗品の転売って買占めの転売よりは許せる感があるよね」
「なんの話? とにかく、騎士王の秘宝を入手するチャンスだ。よし行こう」
「ダメだダメ。いいか。おれはとっとと〈アポカリプス〉ダンジョンに行って、日本に戻るための方法を見つけるんだ。どんな理由だろうと、サブクエ・ルートには入らないぞ。な、リアリ?」
リアリは兵士の顔面を蹴飛ばしていたが、こちらを見やった。
「え? わたしはどっちでもいいですよ。どうせ命かけて戦うの、わたし以外のみんなですし」
「………ナチュラルに負傷者に暴行くわえるなよ。おまえ、暴力の落とし子なの?」
結局、多数決によってアーガ要塞に向かうことになった。
「……はいはい、サブクエルート突入ね。トロフィーコンプ勢めが」
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