4,パーティ組む。
「ところでさ、リアリ」
「あい?」
「おれ、なんでこの異世界に召喚されたの?」
リアリは(バカかこいつ)という顔で、
「わたしが、知るわけないでしょうが」
地面に穴を掘って、リアリをつかんで、その穴の中に押し込める。そして上から土砂をかける。
「やめてやめてぇぇぇ、こんなかわいい妖精を生き埋めにしようとするとか、あなた本当に鬼畜ですね! ふっ、さすが、わたしが見込んだ〈鬼畜の王〉あおとさんです」
「勝手に中二病っぽい二つ名をつけるな。それに生き埋めにされるのも仕方ないだろ。おまえ、人を勝手に召喚しておきながら、理由を知らんって、おまえさぁ、おれの復刻ガチャがかかっているんだぞ」
「まぁまぁ、あおとさん。召喚理由は姉さんしか知らないんですよ」
「姉さんしかって………彼女はもう証拠隠滅ずみなんだぞ。異世界召喚の理由を聞きたくても、できないじゃないか?」
「そうです。分かりましたか? あおとさん。すべては、あなたの自業自得ということですよ。わたしの姉を握り飯のごとくぐしゃったせいです。そのおかげで、わたしは遺産を一人占めできますがね。へっへっへっ」
悪の幹部みたいな笑いかたしやがるな、こいつ。
「じゃ、おまえ、もういらないなー」
「だから土砂を追加するのをやめなさいってぇぇぇ!」
這い出してきた妖精が、おれの鼻先に指先をつきつける。
「妖精という相棒を大切にしなさい! だいたいですね、妖精を相方にできるなんて、すごいことなんですよ。妖精とは、敬われる種族なのです」
「そうなのか? だがエイミーとか、おまえのこと軽んじている感があるが?」
「あ、それは妖精という種族の問題ではなく、わたしが個人的にけっこうやらかしているからですね。って、なに言わせているんだ、あおとさん!」
勝手に自白しただけだろ。
「はぁ~。もう、なんでもいいから。日本に帰してくれ。異世界なんて、もうやだ。トイレにはウォシュレットもないし、サブスクも見れないし、牛丼屋もないし、モンハンもできないし。そして何より、推しキャラの復刻なのにガチャを回せんだろうがぁぁぁ!」
リアリを鷲掴みにして、振り回す。
「わぁぁぁ、ま、ま、ま、まって、く、くだひゃい! ま、まだ方法は、方法はあるから、やめ、やめて──やめろと言ってんでしょうがぁぁぁぁ!!」
リアリの身体が燃え上がり、ロケットのごとく突っ込んできた。
妖精の種族専用アクティブスキル《ファイガロケット》である。
「うげっ!」
一撃をくらって仰向けに倒れた。こいつ、侮れん。
「ふぅ。妖精は戦闘種族ということ、知っているでしょ?」
「そんなの初耳すぎるんだが」
「それに、わたしの話は最後まで聞きなさい。安心してください。姉は確かに、あなたを異世界召喚した理由とともに、握り飯になりました」
「握り飯というよりミートボール。あー。で?」
「ですが、姉は仕事などの記録をちゃんと取っていましてね。妹のわたしが触ることも許しませんでしたが。あのマル秘仕事ノート。いつか、おしっこ引っかけてやりたかったですね」
「おまえ電柱とか見ると我慢できなくなるタイプ?」
「誰が、ワンちゃんプレイ好きそうな可愛い妖精ですかい!」
「……いいから、そのマル秘仕事ノートには、おれを異世界召喚した理由が書かれているんだな? そして、その理由を成し遂げれば、日本に戻れるんだな?」
「です、です」
「よし。そのマル秘仕事ノートは、どこにあるんだ?」
てっきりリアリの姉の自宅とかにあるものと思った。または銀行の貸金庫とか? リアリは家族だし、死亡届とか出せば引き出せるだろ。
ところがリアリが胸を張っていうには、
「最高難易度を誇るダンジョン〈アポカリプス〉の最深部にある宝箱の中です!」
頭を抱える。
「なんだダンジョンって? どうして、そういうお使いクエスト的なことやりたがるんだ? 何かというと、攻略に必要な道具を探し回らせるRPG思考、おれは大嫌いだよ!」
「しかも、ただのダンジョンじゃないですよー。Sランクパーティでも生きては帰れないといわれる、最高難易度のダンジョンです。世の中のママとパパは、自分ン家のクソガキが悪戯したとき、いい子にしてないとおまえを箱詰めして〈アポカリプス〉に送っちゃうぞ──と脅かすもんですぜ」
「それ、もうラスボスのダンジョンみたいなもんだろ! なんで冒険の目的を見つけるのに、終盤レベルのダンジョン攻略が求められるんだ。このクソゲーが!」
「おや、情緒不安定ですねぇ」
「だいたい、どうやってそんなダンジョンに、お前の姉さんはノートなんか送れたんだよ?」
「ふくろうねずみ便」
「ふくろうねずみ便! ここで、ふくろうねずみ便! ちくしょう!」
「あのー、」
と、遠慮がちな声がする。振り返ると、聖女ササラが立っていた。先ほど破った衣服ではなく着替えた様子で。
「……あ、ササラさん。あのう、そのう、さっきはうっかり中に出してしまい、申し訳ございません」
「うふふ。かまいませんよ。わたくしの治癒魔法をもってすれば、精子の完全除去など容易いことですので」
「あ、そうですか。はい、よかったです」
腕組みするリアリ。
「第三者的な立場から聞くと、とんでもない会話ですね。そして、安らかに、あおとさんの子種たち」
おれはリアリを睨んでから、ササラさんに尋ねた。
「それで、どうかしたの? もしかして、いまさら訴えられないよね?」
「いえ、ご心配なく。そんなこと致しません。あれは合意レ×プでしたもの」
合意レ×プって、どういう概念??
頬を赤く染めて、瞳にハートを浮かべるササラさん。
「それに、とても素敵な体験でしたもの」
「あ、そですか……じゃなにか?」
「はい。ダンジョン〈アポカリプス〉の名を耳にしたもので。もしよろしかったら、わたくしも同行してもかまいませんこと?」
「別にいいけど、こんな危険なダンジョンに、何か用があるの?」
「そちらには高名な触手型モンスターがいると聞き及んでいまして」
「はぁ?」
ササラさん、なんかヤバい妄想して、勝手に身もだえしだした。
「わたくし、触手でめちゃくちゃに犯された体験は、まだありませんので」
おれのまわり、心を病んでいる人しかいないんだけど。
まぁ、回復担当をゲットしたと思えば、いいか。
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