12,えー、旅。
~どこかの暗くてジメジメしている場所にて~
あおとたちから逃れた飛行型の魔人は、いまや一体に減っていた。アーガ要塞での顛末を報告した片割れは、罰せられるがごとく殺されてしまったのだ。
三つの異形の影が蠢く。
「まさか、魔将軍ドーガンが敗れるとは。奴の黒炎をものともしない人間などいるはずはないのだがな」
「そんなことより、エルフの魔石を奪われてしまったわ。ドーガン、使えないやつー」
「仕方あるまい。なぜならば──奴は四天王の中でも最弱ゆえに!」
──で、いまここ~──
おれはふいに悪寒を感じて、ぶるっとした。
右肩のうえに座っていたリアリが迷惑そうに言う。
「どうしたんです、あおとさん?」
「いま、この世界のどこかで、誰かが、とんでもなく陳腐なセリフを、はじめて口にしたがごとく真顔で発した──ような気がしたんだ」
「いますよねぇ。痛いことを平気で言える人って。うん、うん」
まぁ、そんなことはどうでもいい。それにおれだって、痛いことのひとつやふたつ言った黒歴史はある。誰にだって、黒歴史はあるんじゃないのか。それが人間の証ではないのか。
と、実に哲学的な考察をしていたところ、リアリが言った。
「あおとさん。なんかアホ面していますけど、どうかしましたか?」
「……おまえ、嫌い」
さて。
おれたちは馬車に揺られていた。アーガ要塞に向かったときと同じように。御者台にはおれとリアリ、そして手綱を握るエイミー。ササラさんは荷台にいる。ただし行きと違い、ササラさんの隣には、莫大な富を約束してくれるバカでかい水晶珠が鎮座している。魔石とやらが。
突然、背後で爆音が轟いた。
振り返ると、アーガ要塞が吹き飛んでいる。内部で爆発が起きたようだ。さらにそれが要塞の崩落を誘発し、あっというまに瓦礫の山と化した。
「何が起きたんだ?」
左隣に座っているエイミーが言った。
「あそこには数え切れない兵士の死体があって、わたしたちは埋葬する時間はなかった。だからせめて、わたしの魔道具のひとつで爆破し、崩れた要塞を墓石にしたんだよ。なぜって、兵たちにとって、あの地こそが我が家だったのだからね」
リアリが珍しく感心した様子。
「おや、エイミー。メスガキのくせに、詩的なことをしますね。ちょっとだけ感心しました。ちょっとだけ」
おれはといえば呆れた。
「いや、こいつ。〈騎士王の秘宝〉の盗難がばれるのを遅らすため、爆破しただけだろ。瓦礫の山にしてしまえば、巨大な魔石が消えていることを王国側に気取られるに時間がかかる。その間に、闇オークションで売り払おうという魂胆だ」
「なんだ。やっぱりエイミー、おまえはクズですねぇ。しかし、その小細工、気にいりましたよ。これでつつがなく魔石を売り、あとはわたし、遊んで人生を暮らしますぜ! 日々の激務ともおさらばです!」
おれは愕然とした。
いや、おまえ、いつ激務してたの??? おれにのっかって怠惰をむさぼっているだけじゃなかったの???
二日後。
城郭都市ジーナに到着。というか、馬車移動って、バカみたいに時間かかるんだな。日本だったら、新幹線で三時間コースくらいの距離だったのに。
「あー、ケツが痛い。この都市で座布団を買おう。売っているんだろうな、座布団くらい」
城郭都市だけあって、これぞRPG都市という感じ。まぁ、あとは想像力を働かせてくれ。
とにかく宿を取り、馬を預け、ようやく一息つける。
部屋は三つ借りた。残念ながら、リアリとは同室である。こっそりと宿の女将さんに、ペット用の檻とかある? と聞いていたら、リアリに見つかって、猛烈に叩かれた。
「誰がペット枠じゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「痛い痛い悪かったよ」
おれは部屋のベッドに腰かけ、ふぅと溜息。
いまはそばに、リアリしかいない。
いったん、パーティは解散したわけだ。エイミーは、次の闇オークションがいつ開催するか確かめにいった。ササラさんは、『都心の気合入っているチンピラどのたちに襲われてきますわ♡』とのことで、まぁ、さっそく出発した。
「さてと。おれたちはどうするか。迷うこともない。公衆浴場にいくぞ!」
異世界転移して気づいたね。毎日、入ろうと思えば風呂に入れる有難みに。風呂キャンセル界隈とか、あれね、贅沢きわまりない発想。この旅の途中、まともに風呂に入れてない経験をした身からすればな。
「そうですか。ではわたしは待ってますね」
「おまえも身体洗えよ。不潔だぞ」
「妖精とは高貴な種族! お風呂に入らずとも、身体が汚れることなどありません!」
「そうかぁ?」
リアリを右手でつかんで、顔に近づけてにおいを嗅いでみた。
「きゃぁ、あおとさん、インモラルですか!」
「いや、おまえ、くさいよ。干物っぽいにおいするよ、マジで」
「おら、あおっと! 殺されてぇんですかい!」
というわけで公衆浴場に行くぞ。
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