11,三秒ルールで。
「これで、本当に敵は全滅したようだな。しかし魔人のボスとはいえ、実の弟の死体を鈍器にして殴り殺されるなんて、気の毒だなぁ」
「いえ、あんた実行犯ですから。なに通りすがりに事故現場みている人感だして誤魔化そうとしているんですか」
と、しばしリアリはツッコミに徹していたが、いまや何かに思い至る。
「んん? しかし、本当に全滅しましたか? わたしを侮辱した、翼持ちの魔人四体は? あのクソ失礼な、奴らは? ササラさん、あなたを襲って散っていた魔人たちの中に、翼もちの品性の欠片もない魔人はいましたか?」
そう問われたササラさんは、先ほど魔将軍ドーガンの棍棒の一撃を受け、けっこうな重傷だった。が、すぐさまパッシブスキルのひとつ《自動回復》で全快していた。
とはいえ、そのとき棍棒はまだ黒炎生成前だったわけだ。ドーガンの宣伝文句が本当ならば、黒炎を食らっていたら、ササラさんの白魔法でも消火できなかったのだろう、たぶん。
で、そんなササラさんはうっとりするように話し出す。
「品性の欠片もない、などと言っていけませんよ、妖精さま。彼らには、わたくしの肢体に欲情していただけたのですから。あぁ、この柔肌に引っかき傷をつけながら犯していただけるはずでしたのに、わたくし、己のパッシブスキルが憎い──それはそうとお答えしますが、翼をもった魔人のかたはいらっしゃいませんでしたね」
かくしてリアリは、転売ヤーにまんまと騙されswi×ch2の空箱だけメル×リで買わされたがごとくに激しく怒った。怒れ、妖精よ、怒れ。
「あいつらぁぁぁぁ、まだ生きていたんですかぁぁ! あおっと、皆殺し祭りはまだ完遂していませんよぉぉぉぉ!」
「え、転売ヤー皆殺し祭り?」
「んな正義の味方みたいなこと、このわたしがするわけがないでしょうが! わたしを羽虫と侮辱した腐れ魔人たちのことですよ!」
「うーん。しかし、そいつら、いまどこにいるんだろ」
窓の外で羽ばたき音がしたので、まさかなぁと思って、窓外を見やる。そこのバルコニーで、聞き耳をたてていたのが、まさしくリアリの憎き敵たる翼もちの魔人が四体。
向こうが、「あっ」という顔をしているうちに、すかさずドーガンの死体──原型をとどめていないが、重量だけはある──を窓を開けて投擲。
一体にぶちあたり、そのままバルコニーから墜落していった。
おれはそれを見届ける間もなく、二体目に飛び掛かり、翼を引きちぎる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「よくもうちの妖精を侮辱してくれたな! それを言っていいのは、おれだけだ!」
魔人の額に指先をめり込ませて、皮膚ごと頭蓋骨を引っぺがした。
「おらおら、くらえくらえ、です!!」
と、すかさずリアリが、むき出しになった脳みそに連続パンチしだす。
脳細胞の外部からの刺激で、魔人が変な声を立てだした。
「あばばばばばばばばばぁぁぁぁぁ──」
なんか耳障りなので脳みそを引っこ抜いて、静かにしてもらう。
「よし」
「ふぅ。ざまぁねぇですね。……いえ、待ってください。あおとさんも、羽虫、言ったらダメでしょ。なに、自分はうっかり口を滑らせてもいいように保険かけているんですか」
残り二体が、死に物狂いで飛んで逃げていく。その片方に、ひっこぬいたばかりの、ほかほかの脳みそを豪速球でぶん投げたが、外れた。
「逃げ足の速い奴らだ。まぁ、飛んでいるけど」
要塞内に戻ると、ササラさんは待っていたが、エイミーの姿がない。このパーティ、独断で行動する人が多すぎじゃないか。
仕方ないので探していたら、向こうがこちらを見つけた。
大きな水晶体を抱えて、足早にやってくる。これがエイミーが狙っていた、〈騎士王の秘宝〉なのか? その水晶体を凝視すると、なんと内部には、宇宙のような暗黒が渦巻いていた。
「おお。なんか、ユニバのお土産コーナーにありそうだな。そういや、おれは一昨年、杖を買ったんだよね」
「杖? 魔法の杖なの?」
「そうそう。あそこの敷地内にいるときは、魔法がかかっていたんだよなぁ。家帰って魔法とけたら思ったね。いや、これ、わざわざ買ってきたけどなにに使うの?って」
エイミーは小首をかしげてから、
「?? とにかく、この水晶体は言い伝えでは、エルフの女王が所有していた〈ひとつの魔石〉のひとつだよ。エルフ女王の手で五つに分割され、彼女のパーティの仲間それぞれに託されたわけ。これは騎士王が受け取ったので、よって別名が騎士王の秘宝。
騎士王は、これを自国に持ち帰った。のちその国が滅びて、現王国の所有になったんだけど、このまえの王位継承戦争のとき、このアーガ要塞の宝物庫に移されたってわけ。そして、いまや、このわたしのものになった!」
「違う、違う。おれたち全員のものになったんだ」
「うーん。そだね。じゃ、闇オークションで売ったら、三人で山分けにしよう」
リアリがすかさず言う。
「商人のくせに数も数えられないとは。ここにいるのは四人でしょうが」
「妖精は半人前以下じゃないか」
「こいつ! まともにクリ×リスも育ってないメスガキのくせに!」
「分かった、分かった。四人で山分けね、はいはい」
これで万事解決か。ところがササラさんが挙手している。
「あの。その秘宝は、王国が所有しているものなのでは? われわれは、王国に返還するべきではないでしょうか?」
おれは、リアリ、エイミーと顔を見合わせた。それから、おれが代表して世の中の常識というものを、ササラさんに教える。
「ササラさん。世の中には、三秒ルールというものがある。三秒、地面に落ちていたら、それはもう拾った人のもの、ってね」
「はぁ。そうなのですね。三秒ルールは、三秒以内に拾った食べ物は食しても大丈夫、という意味かと思っていましたわ。わたくし、勉強になりました、はい」
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