表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

1,ああ無情。


 無課金で、ガチャ石をこつこつ貯めること一年。

 ついに、待ち望んだキャラの復刻がきた。魂の完凸ガチャに挑もうとしたとき──異世界に転移していた。


 おいマジか。いまどき転移ものかよ。

 そんなことより、おれのスマホが圏外になっている。これじゃガチャを回せんでないかい!


「ぱんぱかぱーん」


 と、くちで言いながら、掌サイズの妖精が飛んでくる。金髪の、可愛らしい妖精さん。


「わたしはあなたを導く異世界の案内人でーす!」

「いや、おれの完凸ガチャはどうなったぁぁ!」


 右手で、軽く妖精をつかんだ──はずが信じがたい握力が発動。ぐしゃりしてしまった。


「え……え……???」


 え? 嘘でしょ。まさか、転移して早々、妖精さん殺っちゃったの? しかもなんかびっちょりなんだけど? 右掌の中、ハンバーグ作っている途中みたいな感触なんだけど??


「あ、まずい。吐きそう。どうしてこんな……5分前まであんなに能天気に人生生きていたのに。妖精ぐちゃ殺の罪とか背負わずに、せいぜい悩みは仮性×茎くらいだったのに」


 ……とりあえず地面に穴を掘って、妖精の死体を埋め、証拠隠滅をはかっておくことにした。

 いやぁ、無理無理。妖精殺しの罪を真正面から受け止めることなんて、令和世代にはできません。そんなタフネスな育ちかたしてません。


 もっと身の丈にあったことを悩もう。懊悩しよう。たとえば、復刻ガチャの期間が終わる前に元の世界に戻らなきゃならんぞ、とか。

 魂の完凸ガチャができなくなってしまう前に。このチャンスを逃したら、次、いつ復刻がくるかわからんのだし。 

 今回の復刻さえも、一年も要したのだ。マジであの運営しょうもない。


「しかし案内役の妖精もなく、どうすればいいんだ?」


 と途方に暮れていたら、光る粒子をまき散らしながら、新たな妖精が飛んできた。こちらは桜色の髪をしている。


「あぁ、妖精さん! 二度目のチャンス!」

「はぁ? 何が二度目のチャンスです? ところで、あのー、わたしの姉が先にこちらに到着しているはずなのですが? 見てません?」


 いやぁぁぁぁぁぁぁ!! さっきぐしゃり殺っちゃった妖精、この子のお姉さんかぁぁぁ!!

 あぁ、罪の重さで吐きそう。つーか、吐きたい。吐いていい?


「えっ? どうしたんです? どうして、あなた、涙目なんですか?!?」


 もうダメだ。正直に白状しよう。己の罪と向き合うときがきたのだ。


「……あの、さ。君のお姉さんの妖精だけども」

「はい?」

「言いにくいんだけど、も」

「はい?」

「さっきうっかりね、そのう、軽くね。軽く握ったら、なぜかバカみたいな握力が出て、そうしたら──」

「え、まさか、まさか、そんな……」


 おれは証拠隠滅した土を掘り返し、妖精のグロい死体を見せた。


「ぐちゃっ殺っちゃったんだ! 申し訳ない!」

「そんな……姉さん……」

「どんなことしてもこの罪は償うから!」


 ショックを受けたのか、姉を失った妖精はうつむき加減になる。

 あぁ良心の呵責を禁じえない!

 

 と思いきや、満面の笑みで、ガッツポーズを取りだした。


「……………姉さんが死亡したってことは、これでパッパの遺産はわたしが総取りじゃないですかい!! ひゃっほう!」

「……」


 この妖精、腹ぐろすぎだろ。


「……まぁ、結果オーライならよかった」


 しかし桜色の髪の妖精はふいに真顔になり、


「いやよくないですよ。妖精を握り殺すとかあんた正気ですか? こんな可愛い生き物を握りつぶすとか、病気ですか? 心の病気なんですか??」

「すみませんでした。本当にその通りです。なんかお前に責められると釈然としないけども。……あの、じゃ、さっそくだけどさ。元の世界に帰してくれる? 復刻ガチャ、じゃなくて、心療内科に行って心の闇と対峙したいから」

「あっ、それはできませんよ。残念ながら、異世界召喚された以上は、その目的を果たしていただかないと。召喚された使命を遂行しない限りは、元の世界には戻れませんよ」


 これだもんな。人の話を聞かない奴って、どこの世界にもいるよな。

 しかし、おれも栄えある令和世代だ。とくに期待は持たず、適度にこなし、反応を薄く生きていこう。


「分かったよ、妖精さん。使命ってやつを果たそう」

「聞き分けがよくて良かったです。では自己紹介しておきましょう。わたしは、リアリといいます。IQは100です、あしからず」

「おれの名は、あおとだ。リアリ、しばらくのあいだよろしく。あとドヤ顔しているけど、IQ100は平均だからな」

「あっすみません、180の間違いでした。じっちゃんの名にかけて、マジです」

「いやおまえ、テキトー言ってるだけだろ!」


 あらためて、周辺を見回す。おれが転移した先は、どこかの雑木林の中だった。そこから外に出たところに街道があり、ちょうど旅の男二人が歩いてきたところ。

 なるほど異世界らしく、二人とも長剣を装備していた。銃刀法違反とは縁がない奴らめ。


 リアリがおれに小声で言った。


「この二人、冒険者のようです。不審者あつかいされると厄介ですよ」

「えっ?」


 二人の冒険者はおれを見るなり、さっそく怪しそうだなという顔をする。片方が、鋭い口調で言ってきた。


「おまえ、見かけない奴だな? 服装も変だし。そんなところで何をしていた?」


 おれはアドリブに弱いのだ。


「──えーと」


 異世界から転移してきたとか正直に言ったら、不審者確定されるよな。なんとか誤魔化そう。だがどうすれば?

 と、リアリと目があった。掌大の小さな愛らしい妖精が、「ここは任せてください」という顔で。

 そうか。リアリがうまく誤魔化してくれるようだぞ。


「冒険者のかたがた。この人は、怪しい者ではありません」

「うんうん」

 と、おれはうなずいたが、


「そっちの木陰で、わたしをオ×ホがわりに使っていた健常者ですので!」

「いや、それただの変態だけど!! おまえ、本当にIQ100あるの!?!」


 冒険者たちは顔を見合わせて、


「おい、ダン、聞いたか? 妖精をオ×ホに、だとよ」

「チ×コ、入るんか? あの小さいサイズに?」

「さては、よっぽどの短小に違いねぇな」

「小指くらいなんだろうな」


 とんでもない風評被害なんだけども!!


 するとダンと呼びかけられた冒険者が、何か狡猾そうに目を光らせる。


「おい、ケン。もしかして、この短小野郎は盗賊なんじゃないか?」


 とたんにケンも悪そうな顔でうなずく。


「盗賊かぁ? そうだな、そうに違いねぇな。よぉし、殺しちまおう。盗賊の討伐クエストだ」


 なんだこの酷い決めつけ展開は?

 おれがうろたえていると、リアリが耳打ちで説明してくる。


「この冒険者たち、低級ランクなんですよ。クエストをこなして点数を稼ぎたいわけです。で、盗賊討伐クエストは、獲得ポイント高いんです」

「しかし、おれは盗賊じゃないぞ」

「そんなの冒険者の申告制ですから、どうとでもなるんですよ。あなたを殺して、あとは盗賊だったとギルドのほうに報告するだけで」

「汚いな! 中抜き企業なみに汚いな!」

「いまは冷静沈着に逃げるときです。頭に血など上らせずに」


 ダンがニヤニヤ笑いながら、相方のケンに言う。


「そういや、自称妖精もいやがったよな」

「しかしダン。妖精ってのは、神聖な生き物だぜ」

「ばーか。ものほんの妖精がこんなド田舎にいるかよ。あれは妖精を騙っているだけの低級魔物だろ。魔物討伐で、さらに獲得ポイント上乗せだ」


 とたん、頭に血が上るリアリ。


「だぁぁれがぁぁぁ低級魔物じゃこらぁぁ! こんの腐れ冒険者どもがぁぁぁ! この高貴なる妖精であるリアリ様をつかまえて、なんたる口の利き方じゃい! あおとさん、こいつらの金玉を引きちぎって、食らわせてやんなさい!」


 …………頭に血を上らすなって話は??


「というか、いやだよ。男の金玉をつかむ趣味はない。だいたい、おれのチートスキルはなんなんだ?」

「スキル? そんなものに頼るのは、へなちょこだけですよ。あおとさん、あなたの強みは別にあります!」

「なに、究極の魔法が使えるとか?」

「魔法? そんなもの呪文を考えるのが面倒だからと、どいつもこいつも無詠唱でばんばん打つ、あれですか? あんなもの、頼りにはなりませんよ! あなたの強みは、その肉体で、きゃっ!」


 ダンが長剣の腹で、リアリを打ったのだ。ナイスバッティングということで、リアリがすっ飛んでいく。


「あああああれぇぇぇぇぇ……………!」


「あぁ、おれの妖精が! よく飛ぶなぁ。箱庭球場なら場外ホームランだ」


 リアリの説明、途中で終わっているんだが。

 この肉体が、おれの強み? うーむ。ぱっと自分で見た限り、別に何も変わってないが? 


 ただ──ちょっと身体が軽くなったような? いや、それだけではないはずだ。もしかして攻撃力とか防御力が∞だったり? そういや、まだステータスオープンしてなかったな。お決まりの、ステータスおぉぉぉぉ。


 冒険者ダンの長剣で腹を斬られた。血が少しだけ出る。


「痛い痛い痛い痛い痛い! ふつーに痛い! お母さぁぁぁん!!」


 ダンが怪訝そうな顔をする。


「なんだ? 一刀両断にしたつもりなのに、かすり傷しか与えらなかっただと? 防御力が思ったよりあるようだな」


「こんの痛ぇぇぇぇじゃねぇか、このやろぉぉぉぉぉ!」


 ダンの股間を蹴り上げる。金玉を潰してやろうと思ったのだ、が。

 なんか、ダンの下半身から上半身に向かって爆散し、肉片が周囲に飛び散って、跡形もなくなった。


「あり? そんな強く蹴った覚えはないんだが??」


「ダァァァァァァァァン!!」

 

 ケンが喚きながら、ダンだったものの肉片をかき集めだす。

 そんなケンを呆然と眺めていたら、なんか目があった。


「こ、この、冒険者殺しがぁぁぁ!!」


 このとき、わが令和世代の鍛え抜かれた思考力が、ひとつの答えにたどり着く。

 口封じせなあかん!!

 

 ケンの頭部を両手で、がしっと掴む。困惑顔と目があう。おれもなんか困惑したので、上に向かって引っ張った。


「あぁぁぁぁあや、やめ、ろ、やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ぶちぶちという音をたてながら、首のところで裂けて、ケンの頭部が引きちぎれた。


「……………あっ、グロい。グロすぎて、なんか泣きたい」


 生首を捨てる。

 と、先ほど場外ホームランされたリアリが、飛んで戻ってきた。とくに負傷していないので、それなりに頑丈なのだろう。


「あおとさーん」

「あぁ、リアリ。びっくりしたよ。おれって、いつのまにこんなに怪力になったんだろ?」

「あおとさん。それこそが、あなたの力なのです」

「は?」

「あなたが転移してきた世界は、この異世界より重力が100倍あるのです。つまり、あなたはこれまで生きて暮らしていた場所から、重力100分の1の世界にいるのですよ!」


 はぁ。どうりでバカに身体が軽かったり、ちょっと握ったつもりで妖精さんぐしゃ殺しちゃったわけか。金玉蹴りあげたつもりで人体爆散させたのもそのせいか。


「……………え、おれの強みって、それだけ?」

「それだけとはなんですか! かの聖典といえる漫画でも、主人公が重力100倍で特訓する有名な場面があるでしょうが! はい、あれと同じですー。あなたはそれを、これまでの人生を通して、無意識のうちにやってきたのです!」

「おおっ! そういわれると、なんだかすごいことのような気がしてきた! ………か×は×波はいつ撃てるようになりますか?」

「あんたが撃てるようになるはずがないでしょうが? 頭悪いんですか? 脳みそ、黄色い精液でもつまってんですか?」


 ……この妖精、チェンジできません?

高評価、ブックマーク登録、お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ