お江戸の稀なる、姫上がり話(と書いて、しんでれらすとーりー、と読ませる)
時は江戸。
貧乏農家娘が、奉公に出た、その先には……?
お江戸版、シンデレラストーリー展開を考えてみました。
時は江戸。…いづれの、将軍様の御代だったろうか。
そのおなごは。街道沿いの村の、貧しい農家の娘であった。
早くに口減しとして、奉公に出ることとなった。
家を出る日。娘の母は、両肩をしかと持って、言い聞かせた。
「女は愛嬌、とも言う。笑みを忘れず、明るい顔して、生きてゆきんさい」
「あい、おっかさん」
丸顔の、目鼻立ちのはっきりした、そのおなごは。事に愛嬌があり、人好きのする娘であった。
口減しとはいえ、可愛い我が子との別れに。悲しむ両親兄弟に、娘は笑って、大きく手を振った。
行く途中の休憩で。娘は少し、うたた寝をした。
そこで観た夢が、不思議だったのだ。
気づくと、目の前には、三人の…天女か、はたまた、女神であろうか。美しい菩薩とも見紛うような、神々しさ。
「あぁ、…あなた様方は…」
この世のものとも思えぬ気配に。
三人の女は、順に告げた。
「我ら、運命を司る、三女神なり〜」
「ここを通りし、そなたに。運命を告げよう」
「こころして、聞くがよい〜〜」
「……そこ、魔女じゃないんだ。南蛮のまくべすとか、最近だと、朧のナントカに棲む鬼、とか、」
娘は何故か、物語に造詣があり。そして案外、現実的に突っ込むタチであった。
その女神達が、文句を言う。
「メタな話を、するんじゃないよぉ!こういうのはね、様式美、なんだよ様式美!!」
まずは、艶やかな声の女神。続けて、小柄な女神が、ドスを効かせて言う。
「三人揃った女が、魔女ばかりと思わないでくれないかい?魔女って基本、南蛮の方のもんだし、この国だと、一応、宗像三女神とか、いるから!」
更に、細身細面の女神が、甲高く言った。
「神々しく出てきた雰囲気、突っ込んでぶち壊すんじゃないよっ!!!」
「へぇ〜い…………」
渋々頷く、娘。
「いいかい。この先、我らと同じ顔を持つ女が、現れる」
ひとりめの女神が言う。
「その女は、あんたにとって、運命の、女だ」
続けてふたりめの女神。
「あんたは、運命の女に出会ったら、よくよく、考えなきゃいけないよ」
さんにんめの女神も告げて。
最後に、三人が声を揃えて言う。
「ゆめゆめ、忘れることなかれ〜〜〜」
そう、告げるだけ告げて消えた所で、娘は目が覚めた。妙にはっきりとした夢を、忘れられる筈もなく。
「今のって…」
そんなお告げを受けながら始まった、奉公生活は。
まずは、街道沿いの商家で。
娘の、ちゃきちゃきと働く笑顔に。店や娘の評判は良く。
より、大きな店へ、養女に。と呼ばれた先に。
まず、ひとりめの女が現れた。大店の裏で使用人達を一手に取り仕切る女だった。兎に角、礼儀作法を叩き込まれた。音を上げる者が多い中、娘は食らいついた。
お陰で、何処へ行っても恥ずかしくない、評判の娘となった。
更に見初められて、養女に。何故か、武家の。
……なんか、占いで、出て来たらしい。
連れて行かれた先にいたのは、占いをする、ふたりめの女。
その、ふたりめの女が、予言する。
「あんた、精進しな。…あんたは、ここよりさらに、上へゆく」
武家の娘として、また更に、学び、教わり。
んでもって、なんと、大名に、嫁ぐ。
なんでも、縁談の為の手頃な娘がおらず、白羽の矢が立ったのだと言う。
嫁いだ先に、さんにんめの、女。嫁いだ家の、奥方。
「あら、来たのね」
「あら。…こちらにいらっしゃいましたか」
その際。多少、更に養女ロンダリングして。つまりは、京のお公家様やら上の武家の養女に、名前だけでも次から次へとなりまくって。良い所の姫君、となって。
お姫様となって、嫁ぐ。
「……あらまあ」
思ってもみなかった顛末に。娘も呆然とする。
「貧しい農家の娘が。…大名の家の、お姫様に、ねぇ…」
その後。
幕末になり、大名そのものが、揺らぐ危機にも。
娘の持ち前の明るさで、嫁いだ家を明るく照らし。時に頭を悩ませ、動き。明治へと、乗り切ったのだった。
「………ちょっとお!いいとこの姫様でも、結局、苦労してんじゃん!!」
「まあ、まあ」
多少文句のある娘ではあったが。因みに、さんにんめの女と二人の間の時は、口調が崩れる。
「結局、あなたがいたから、この家もこうして、ご維新を越えられたのだから。あなたの頑張りが、福を、連れてきたのですよ、誇りなさい」
「はぁい。……ありがとう存じます、奥方様」
「いえいえ」
揺れる幕末も乗り越え、立て直して。華族として、穏やかな新時代を過ごしたのだった。
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございます!
お江戸で農家の娘から、大名のお姫様に、という、シンデレラストーリー。
着想きっかけとして。私、小説になろうでは、本好きの下剋上が大好きなのですが。
その中で、「ガッチガチの貴族社会に於いて、シンデレラはありえない」との言及がありまして。まあ、そらそうや、と読んでても思ったのですが。
ありえないかもしれないけど、それをお江戸版で、敢えて出来ないかと考えました!
普通、江戸の女の成り上がり、と言えば、廓の話でしょうが、私にまだボキャブラリーが無いので…。
こんなんも、いかがでしょうか〜。