第二話 ~それからの日常~ 2
別れ際にお弁当を手渡し、自分の教室へと戻ります。
席へと座り、朝の準備を整えていると、一人の男子生徒に話しかけられました。
「久清さん、ちょっといいかな?」
「・・・どうされましたか? 高木さん」
・・・恐らくまたでしょうね。
「一年の男子と付き合ってるって話だけど、あんな子供だと君と釣り合わないよ。異性との関係性に目覚めたのなら、僕と付き合ってみないかい? 少なくとも、あの一年生よりかは大人だよ?」
やはり『また』このお話ですか。
どうして健をよく知りもしないのに、自分の方が良いと言えるのでしょう?
中間テストを終えてから、健とお付き合いしているのが本当だと知れ渡りましたが・・・・・・その結果がこのような事態を招くとは思いもしませんでした。
毎日、どなたかが私へとアプローチをかけてくるなんて・・・・・・それも、健が劣るような言い方をされて、決していい気分ではありませんでした。
「私は健が好きですから、お引取り下さい」
ですから、普段よりも冷たい口調になっているような気がします。
「今朝のやり取りも見ていたけど、その好きは小さな子に対するもので、決して男としてではない。だから僕が————」
「彼以上に私を気遣ってくださる殿方はいません」
「それなら、僕はそれ以上に優しくしてあげられるよ?」
ああ言えばこう言われますね・・・・・
仕方ありません。きっぱりとお伝えしましょう。
「私は貴方のような方は嫌いです。健よりもご自身の方が優れていると、そのように慢心されているようなお方は、お断りです」
「きら・・・いっ?!」
「当たり前でしょう? 無礼でしつこい方が、好かれるとでもお思いですか?」
「・・・・・・」
ようやく黙って去られましたね。
しかし、どうして私が貴方がたに気が無いことを理解できないのでしょう?
既に一度、皆様を御断りしているというのに・・・・・一年も前に。
「・・・・ふぅっ」
少し・・・少しだけ気分が優れないですね。早くお昼になって、あの子を抱きしめたい。
初めてできた、私のかわいい彼氏を。
そのような事を思っているとチャイムが鳴り、いつもの朝の小テストが始まるのでした。
それからも休みの時間になると言い寄られ、その全てにお断りをいれます。
何なんでしょうか?
私はそんなに尻軽な女だと思われているのでしょうか? それならばそれで別に構いません。ですが・・・・・・
「尻軽・・・? 久清さんが? そんなバカな。貴女のようなガードの固い女の子が、そんな訳ないですよ」
「でしたら、何故私が貴方と付き合うと思うのですか? 今の私には健という彼氏がいるのですよ?」
「あんな子供と付き合っても、久清さんの為にはならないよ。甘やかしてばかりで、一体いつ君が女の子として甘えられるんだい? 僕ならば君を甘やかせてあげられるよ? あんな頼りない子供なんかより、僕の方がずっと頼りになる」
健を侮辱するようならば、私も黙っているつもりはありません。
「・・・貴方は命がけで私を守れますか?」
「当然だよ」
健の言葉と比べて軽すぎます。この方々の言葉には、全て重みがありません。ただ調子の良い言葉を並べ立て、ご自分はそうであると・・・・・そう思い込んでいるだけです。
実際に動くことすらしていないのに、どうしてそれができると思えるのでしょう?
「それでは・・・・・どれ程の苦痛の中で泣き叫ぼうとも、私を守れますか?」
「勿論。大事な人の為なら、火の中水の中でも平気さ」
本当にそれを知らないからこそ、言える言葉ですね・・・・・・
「そうですか、それじゃあ経験してみますか?」
席を立って窓辺へと移動する。
「・・・えっ?」
後ろからついてきているのを感じながら、大きな窓を開けて、外から見ている存在へと合図を送ります。すると、音も少なく屋上から、一人の護衛が教室へと飛び込んで来ます。
「どうされました? 萌お嬢様」
私を幼少の頃から護ってくださる、長めの髪を一つに纏めた、切れ長の目を持つ女性でした。端麗な容姿で、20代と言っても嘘とは言えない程です。
「そこの彼が、少し稽古をつけて貰いたいそうです。次のお昼休みにでも、貴方達が健を試したようにしてあげてください」
「・・・えっ? ちょっ・・・・ええっ?!」
いきなりの事で慌てていますが、私は手を緩めるつもりはありません。
「健以上の自信があるとの事ですから、手は抜かないでくださいね?」
「彼以上の根性があるというのでしたら、むしろ楽しみです。それではお昼にまたお会いしましょう。顔は覚えましたので、ご安心ください」
そう言葉を伝えると、素早く教室から出て行かれます。
「「「・・・・・・」」」
突然の事から、教室全体が無言になりますが、私は気にせずに言葉を口にします。
「頼りになるところを、見せてくださいね?」
「・・・えっ、あっ?」
「健なんて、私と町中を歩いている時に急に襲われたんですよ? 貴方のように前もって宣告されることもなく、私と付き合うのに相応しいか見極める為と、内緒で試されたんです。いきなり護衛である彼らが私を拘束してきて、念入りに口まで塞いできましたからね」
てっきり始めは訓練かと思いましたが、耳元で健を試すと言われて、慌てて首を振って抗議をしてしまったのがいけませんでした。
それを見て、健が私を救おうと必死に立ち向かってしまった。結果的に、彼らの望む流れを作ってしまった。
あの1対多数の絶望的な状況で、健は私を救おうと必死に抗いました。恐怖に身体を震わせながら、それでも私を助けようとしてくれました。
逃げることなら簡単に出来たのに・・・・
「ですから、貴方は健より安心して相手ができますね? 歯向かって殺されるかもという、心配がありませんから」
「・・・・・」
先程までの勢いは何処へやら、今は無言ですか。
「それでは、お昼のご活躍に期待しています」
普段よりどこか冷たそうな声音を出しながら席へ戻ると、四限目のチャイムが鳴り始めるのでした。




